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6.胸の鼓動

「佐々木桃李は兄だからね」


 はい? いや、『佐々木』だよ。あれ? なんか聞き逃したか? 疑問符が飛びまくってる僕を見て鏡野は説明してくれる。


「だから、その、私が中2の時に父が佐々木さんという弁護士と結婚したんだけど、その息子が桃李なの。それで、お母さんってば苗字を変えるの面倒だったみたいで、ついでに高校入っちゃてる桃李もそのままでって。だから桃李は佐々木のまんまなの。わかったかな?」


 はい。わかりました。え、いやでも、最初の好きな人って……兄ってこと? それはそれで微妙なんだが、そこには触れない方がいいかなと思っていたら、どうやらきちんと説明があるらしい。僕の相づちを待たずに鏡野の補足がはじまった。


「ちなみに桃李にはじめて会った時には、結婚するとか、兄になるとかの話はなにもなかったの。父に能力があるか確かめるのは終わっていたから、その頃にはこの能力で父の行動を見ていなかったの。私が中一の頃に、ある事件で知り合った弁護士とその息子さんだよって感じでお母さんと桃李に会ったの。家も近かったから私は桃李と親しくなった。桃李も同じく結婚話は聞いてなかったから、私も桃李も知りようがなかったし。はじめて出会った能力の遺伝子を持つ者で、親族以外で、しかも桃李はすごく私に優しかったし一緒にいると楽しかった。兄になると聞いたのは父の結婚直前で会ってから一年近く経っていたの。もう桃李のこと好きになってた。だから好きなまま兄妹になったの。兄妹になって確信したの。佐々木家にもこの遺伝子があるんじゃないかって。兄妹になったのに気持ちが変えられなくて絶対おかしいと思った。だからはじめて調べたのは、お母さんと桃李の遺伝子だったの」


 それでさっき鏡野は家族を一番に調べたって言ったのか。もう母親が調べ尽くしていたのに。僕はてっきり練習の為だと思っていた。その次に僕……。もしかして鏡野に異常なまでにドキドキするのって……この遺伝子のせいなのか。鏡野をこんなにも可愛く思い、まだ目が合うとドギマギしてしまうのはそのせいなのか。


「僕もそうなんだね」


 ああ、だめだ。我慢出来ずに言ってしまった。佐々木先輩を想っていた鏡野のことを知った事実より、僕への想いが偽りで、その事で僕は鏡野に見つかりこうして二人で話をしているんだ。こうして鏡野を想う僕の気持ちも……。どうしても切なくなる。そんな僕の様子を見て鏡野は嬉しそうに手を握って来た。


「ねえ、今までと変わりない? 胸の鼓動?」

「あ、うん」


 いや、嘘だ。鏡野に手を握られて見つめられて今まで以上のドキドキなんだけど、恥ずかしくてそこまで言えない。僕の手を離して鏡野一息ついた。


「よかった。私もよ」

「そう……」


 鏡野は笑った。これまで見たどの笑顔よりも僕をドキリとさせる笑顔だ。


「この部屋ね、能力をブロックしているの。母が作って設置しているの。死後もずっと。だから、能力で例えこの部屋に入って来ても出れないようになってるの」


 そう聞いて何気に出口を見ると、なんとこちらにも入り口と同じ鍵がついている。能力がなければただの人間だ。これではこの部屋から出れない。よく見渡すと水道の蛇口にも見たことないロックがついている。これではこの中にどうにかして入っても出れず、餓死するのは目に見えている。そんな僕の観察を見て鏡野はまた補足した。


「この中に人が居たら、入ろうとしてもエラーが出てこの中には入れないようになってるみたい。私が百人分の遺伝子調べていたら、父が不審に思ってこの中に入ろうとしたらできなかったの。その機能は多分母の死後に私か父がこの部屋に入って、母の研究を盗もうとする人と鉢合わせになるのを避けるために作ったみたいね。お陰で助かったのよ。勝手に他人の遺伝子調べてるのが父にバレたらここに入るの禁止されるとこだったよ。あ、で、本題ね。ブロックは能力だけじゃなくて、遺伝子が呼び合うのもブロックというか失くなるのよ。遺伝子が呼び合うのは、桃李や柏木君に感じた胸の鼓動だと思う。つり橋効果と同じ仕組みだと思うんだけど」

「つり橋効果? 聞いたことあるな。確かつり橋にいるドキドキと恋のドキドキを勘違いするって、あれ?」


 僕はテレビで前に見たことのある話をした。あれ、でも今僕は鏡野の側でドキドキしてるんだけど。手を握られた時は今まで以上の胸の鼓動だったのだが。


「そうそれ。その胸の鼓動が相手がいる時ずっとするんだと思う。父が再婚に踏み切ったのもこの遺伝子が後押ししたんだと思う。じゃなきゃ、母の死にあれだけ嘆き悲しみ自分を責めて、事件を調べ続けた父が、再婚するところまでいくとは思えないから」


 鏡野は少し悲しそうだった。母親には厳しそうだが、やはり親の再婚は複雑なんだろう。特に兄となる相手に好意を持ったなら。ん、佐々木先輩とはどうだったのだ。なんかまた聞き逃したような。


「佐々木先輩への想いは遺伝子のせいなんだよね?」


 改めて聞くしかない。鏡野は寂しそうな顔のまま答えた。


「そう、この部屋に桃李を連れてきたの。変わった機械が沢山あるからって。桃李、理系だからかこういうの興味あるみたいだったから。その時私の胸の鼓動が止まった。正直ホッとしたよ。ただでさえ、母の死や、この能力や、遺されたこの研究室や、自分がやるべきことって、いろいろあるのに、例え血が繋がらないとはいえ兄への不毛な想いに苦むなんて」


 確かに報われない恋愛にこの能力や能力のために付随するいろいろなことって辛すぎるよな。で、僕への想いは聞いてないよな? ここはこのノリで聞いた方がいいよな。


「あ、あのさ。その僕の……その……」


 うわ聞きにくい。と困ってる僕にまた鏡野は助け船を出してくれる。


「柏木君への胸の鼓動は変わらなかったよ。よかった。どちらか片方が消えた状態はこれからの話に支障が出るから、一番いい状態になったよ」


 鏡野はニコニコと話をしてるが、言ってる内容が手離しで喜んでいいのか考え込ませる内容だったために、僕はあまり喜べなかった。なんという告白なんだろう。でもこれで、一応鏡野とは両想いなんだから付き合うってことになるのかな。ああ、また聞き出せないこの状態はいつまで続くんだ。てか、なんで僕の気持ちは確認なしなんだよ。



 鏡野のお母さんの研究室にいる時、力を使ってみたが鏡野言う通り、いつものように物を移動させることはできなかった。ブロック……凄い物を発明する人だったんだな、鏡野の母親は。

 そんな物を背負わされたから鏡野は母親に対して厳しいのかもしれない。鏡野も能力が使えないので、危険人物の監視がストップしてるから、鏡野の部屋に移動することになった。鏡野家もあの研究室に劣らないセキュリティーだから、話をしても大丈夫だと鏡野の部屋に来たが、……緊張する。


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