40.出番*九条*
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うう、この感覚はまだ慣れない。慣れないよ。瞬間移動されるなんて。鏡野さんが移動前には彼女の部屋の映像を送ってくれるし、時間も決まっているから心の準備は出来てるんだけど。
今日はマウス見つかるんだろうか。もうすぐ夏休みが終わる。こんな事でいいのか不安になる。きっと皆そうなんだろう。八雲さんはわからないけど。八雲さんは不思議な人だ。何考えてるかさっぱりわからない。変わってるって言われるのはそのせいだろう。顔もいいし頭もいいし体格もいいからモテそうなのに、そんな様子もない。鏡野さんが惹きつけられたのもわかるんだけど、知れば知るほど不思議な人だ。焦りはないようだし。これも想定内なんだろう。こうしてマウスを探す日々の間も研究を続けている。きっと計算済みなんだ。やることのない僕たちは焦っていくけど、八雲さんを見ると安心する。大丈夫。これも段階なんだと。
今日も次々にマウスの遺伝子を確認して行く。みんなもう慣れたものだ。手際良く一匹、一匹調べていく。
「あ!」
皆の手が止まる。八雲さんの指差した画面を見る。サンプルとして八雲さんの遺伝子の横に表示されたマウスの遺伝子。勿論、マウスと人間では遺伝子が違う。だけど、違いは大した物ではない。その遺伝子の場所は人間と同じ場所だ。そして、そのマウスの遺伝子は八雲さんと同じだった。見つけた……やっとこの遺伝子のマウスに……。皆の目がそのマウスに集まる。
「やっと……」
鏡野さんが呟いた。
「やっとだね。じゃあ、このマウスを別のゲージに移すよ。……どうする? 他のもやる?」
何となく僕たちは頷いた。あれだけ探してやっと見つけたんだ。また見つかる訳ないと思いながら、また慣れた作業を続けた。
「えっ?」
八雲さんの声にまた皆の視線が集まる。
「嘘……なんで……」
柏木君の呟きに皆はそのマウスを見つめる。
「あ、惹き合う……」
鏡野さんが呟いた。そうか、この遺伝子は惹き合うんだ。それはマウスも同じ。マウスがどう飼育されてるかわからないけど、別々に区切っていなければきっとそばに行く。だから、一緒にいる可能性が高いんだ。ということは……
「他にもいる?」
僕たちは無言で作業を続けた。結局合計三匹見つかった。あんなに探して急に三匹なんて。念のため鏡野さんが髪を抜いてもう一度三匹を調べた。信じられなかったからだ。
「これはラッキーだよ。実験をするチャンスが一回きりだと不安だったんだ」
八雲さんにも不安があったのか。全くそんな様子はなかったのに。
「じゃあ、これで……」
「まだ試作段階だからいろいろ試してみるよ。マウスはとりあえずここに、そこにゲージもあるしね」
鏡野さんのお母さんもマウスを調べていた。だから、研究室には大き目のゲージが置いてあった。そのゲージを指差し言った。そして、その三匹をいれる。
「後のマウスは返しておくよ。明日からは集まる必要はないね。いろいろ試して僕の能力が消えた時に、アリスちゃんに合図を送るよ。それまでマウスの世話よろしく」
なぜか鏡野さんではなくお兄さんに言う。
「あ、はい」
これで最終段階だ。僕も実は一人でやっている。ウイルスを世界中にバラまく、しかもばれないように。これをずっと模索しているのだ。ウイルスを撒くだけなら簡単だけど、それを世界中にバラまくのだ。しかも一度にバラまくのは不可能だから、時間がかかる。時限爆弾の様に世界中で一度にウイルスを発動させるのだ。ウイルスがパソコン内にあることがバレないようにしなくてはならない。ずっと続けているがまだ完成していない。
八雲さんが完成させる頃には何とかしないと。僕の能力が試されるんだ。無駄に二年を費やしたんじゃない。そう証明出来る。全ては無駄ではなかったと。




