36.研究ノートの続き*アリス*
終業式が終わり今日は部活は休みだったので、柏木君も家に帰った。長時間部屋から移動していたら九条君がいないのがバレる可能性が高くなる。八雲さんも同じだ。というわけでいつもよりは早いが妥当な時間ということで今日の集合は四時になった。
でも、柏木君には帰りにお昼を食べたら迎えに来てと言ってある。今日なら二人になれる時間が取れる。着替えてお昼を食べていたら柏木君が走っている、何も走らなくてもいいのにという思いと嬉しい思いが交差した。ああ、もう着いてしまう。急いで食べていたら桃李にバレてしまった。まあ、いいんだけど。
「柏木が来るのか?」
「うん。もう着きそう。ごちそうさまでした。洗い物……」
「いいよ。やっといてやるよ。てか、初めてなんじゃないの?」
「えっ?」
あーそうか。これってデートだ。ただ二人の時間がないことに柏木君が不満に思ってるのではと思っていたら、時間ができたから誘ったんだけど。そうか……だから、柏木君は走っているんだ。四時までのタイムリミットを少しでも伸ばそうと。
「アリス、無自覚か」
桃李が呆れている。
「うるさい。ずっと邪魔してたくせに!」
そう言い終わると同時にインターフォンが鳴った。
「じゃあ、いってきます」
答えも聞かずキッチンを飛び出し部屋に向かう。その光景を柏木君に送りながら。
暑いのでファミレスで話をした。初デートにしてはどうかと思うんだけど時間があまりないので、出来るだけ近場で暑さから逃れられる場所という選択肢しか残されていなかった。お昼休みと帰る時間話をしているけれど、制服でない柏木君といつもと違う場所で話しているのは、雰囲気が違って感じられた。
時間はあっという間に時間が過ぎてしまった。もうそろそろ集合時間になる。
ファミレスを出て家に向かう途中で、ふっと思いついた。
「今度時間が出来たら、もっと遠くへ……そうだなどっか遊びに行こう! 勿論二人でっ!」
「うん。行こう。どこ行くか考えとくよ」
柏木君がすぐに答えをくれる。私は柏木君の腕をとり組んでみた。勢いに任せて。
四時になった。今日は母のノートを用意していた。少し緊張する。八雲さんにも解けなかったらどうしたらいいんだろうかという不安だ。もう他に打つ手がない。
今日も新聞紙を敷いて向こうの様子を伺う、先に準備が終わってる九条君を移動した。いつもしかめっ面で移動している。移動するのって不愉快なのかもしれない。九条君はなにも言わなくなったけど。八雲さんも用意が出来たようだ。天井に手を振ってる、柏木君に送りながら二人で苦笑いしてしまった。誰かに見られてたらと思ったからだ。やっぱり変わってる。さあ、これで全員の到着が到着した。
「こんにちは」
などと何となく挨拶を交わす。気づけばすっかり大所帯になってる。
「これが母のノートなんですけど」
八雲さんに母のノートを渡す。実はかなり緊張しているんだけど。八雲さんはノートを受け取り、中をパラパラとめくっている。最後の進んでないページで止まると、今日は鞄になにやら本やらパソコンやらを詰めていたが、その中の本のページをめくりそれを見ながら書き始めた。来たっ! ついにページが進む。残り五ページだけど全く進まなかった大きな壁であった。私達にとっては。
どこまで進むのだろうか、後のページには最後のページにしか絵のヒントがない。ヒントなしで進めるんだろうか。不安をよそに八雲さんは書きなぐって行き、ページをめくる。今度はパソコンに入れていた物を参考にしているのかしばらく画面を見て、すぐに取りかかる。
ノートがどんどん埋められて行く。嘘のようだ。またページをめくる、しばらく考えているようだ。次の瞬間私の部屋を見渡した。物理やその他関係のありそうなものは集めているが……あったみたいだ。八雲さんはそれを手に取りページをめくっていく。手が止まりまたノートに向かい確認するように本を見てから書き始めた。あっという間にノートが埋まって行く。
そして、またページがめくられて行く今度はまたパソコンのようだ。パソコンに入れられている資料を探している。私達は呆気に取られてみていた。こうやすやすと解かれるなんてという思いと、あと二ページなんだ終わってくれという思いだ。
八雲さんは今度はノートをしばらく見つめ、ノートの最初のページに戻った。そこからずっと見直してやっと元のページまでたどり着いた。パソコンの資料を探し幾つか読んで、また解き始めた。ホッとした。もうヒントはない。そして、人も。ここで止まると本当に手詰まりになる。まるで何かに取り憑かれたように八雲さんは書き続ける。
最後のページに来た。皆注目している。出来るのかという期待と不安が混じった目線でノートを見つめている。八雲さんはしばらくノートをまた見つめた。シンとした時間が続いていたが、ずっと八雲さんが動く音がしていたのに微動だにしない。どうしよう……不安が皆の心に染み込んでいく。
と、八雲さんは自分の研究ノートのようなものを出してきた。パラパラめくる音が響き、ピタリと止まると同時にそのページを横に置いて最後のページに書き込みはじめた。皆もホッとしたんだろうさっきまでの張り詰めた雰囲気変わった。カツカツと勢いよく八雲さんは書き続ける。その音が終わった。皆に緊張が戻ってきた。終わったんだろうか……。
「終わったよ。ここのページまでだけど。ここから先は……絵だね。アリスちゃん。この富士山と聖母は意味がわかるんだけど、雪の結晶はわからない」
「未来予知はしてないんですか?」
そう、様子を見ていると昨日とは違っているように見えた。ノートの中身も知らないようでいくつも資料を用意していたりしていたが、予測してたようには見えなかった。解いている時にも真剣に考え込んでいた。
「僕の能力は気まぐれなんだ。見たいものが見えるんじゃない。見せたいものを勝手に見せられてるみたいで、操られてるようで嫌だった。父が……」
「えっ?」
「父が病気になったんだ。僕が大学生の頃に。父が死ぬのか知りたいと思ったら……見えたんだよ。父の葬式が。母は関西出身なんだ。母は多分普通の遺伝子だ。父は生きることを願わなかったんだろう。それか、病気を治すには力が足りなかったか……。まあ、そんな訳で僕に未来を見て欲しいって言われても、見たい未来は見えないから。で、この雪の結晶はなんのヒントなんだい?」
八雲さんはさらりと言った。
そう。ヒントだ!




