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34.捻じれていたのは*九条*

 ***



 思わず声を上げた。頭の中に急に映像が飛び込んできたからだ。柏木君に移動されるのも毎度違和感だけど、これもすごい。これが鏡野さんの力なんだ。こんなのを何十も抱えてるなんて。

 これでは一人でいる時間が多く必要なのも頷ける。今日彼女がお昼以外ずっと一人なのを目の当たりにして、この前話ていた事を思い出した。確かに自分からこうなってはいるが、結構こたえるじゃないか。

 僕はというと柏木君がすぐに話てくれたおかげですぐにクラスに打ち解けた。内緒にするとかえってよくないと柏木君が僕に二歳上だと告白させたが、案外皆年上の同級生を気に入ってくれたみたいだ。柏木君が友達が多いのですぐに話の合う何人かと話せるようになった。

 彼女が柏木君と友達になるように言った意味がすぐにわかった。勿論柏木君自身とも話をする関係が必要だったろうが。彼女はいろんなものを犠牲にしてこれに取り組んでいるのか、と改めて思う。お昼しか彼女は柏木君といない。放課後も柏木君はテニス部に行き彼女は一人で校舎の涼しいベンチで本を読んでいる。読んでいるふりをして映像を処理しているんだ。

 それにしても、柏木君はこれを付き合ってると、言い切れるんだろうか。友達にも言われていたけど。帰りは一緒らしいが帰れば兄も同じテニス部だからほとんど二人でいない。そこに僕まで加わった。柏木君には迷惑な事態なのかな。彼は少し戸惑うような表情を浮かべているから、やっぱりこの状態に困ってるのかも。っていうか、あの研究室で二人とも鼓動が止まらなかったって事か?

 ……僕もあの部屋で鼓動が止まってない。彼女が近くにいて、いつも以上にドキドキしていたのを覚えていた。あの後かなりの衝撃の事実を言われたから、それがなければいちいち覚えていなかっただろう。そのことは嬉しくもあり、悲しくもあった。始めから失恋決定だ。だけど、彼女を好きになった気持ちが偽りでないことは嬉しかった。彼女は恩人だ。僕に新しい場所とスタートをくれた。まだ、学校はどうなるかわからないが、やり直すチャンスをもらえたんだ。命だってあのままいけば危なかった。それは今も変わらないが事実を知ったから、少なくとも自衛出来る。

 それにしても……この映像の人物は話とは違い過ぎる。彼女が好意を持つもの仕方ない。とんだ変人かと思ったけど……だから僕にもちょっとチャンスが来るかと思ったけど無理みたいだ。柏木君似ではないが……どちらかというとお兄さんの方に似てるな。うーん。そういう感じで見ると柏木君より僕の方が近いかも……ああ、ダメだ期待持つのはやめよう。というかこの状況でそういうのはよくない。


「な、何で皆黙るのよ」


 彼女の怒りの言葉にそういえば話の途中だった事を思い出す。映像が飛び込んできた衝撃とその映像に気を取られていた。


「ああ、うん。見た目は普通以上だ。そうかアリスは面食いなんだな」

「うるさい。面食いかどうか……ん、わかんないけど、彼をずっと見てきたの。人柄よ。人柄!」

「ふーん」


 兄のニヤニヤ笑いを睨みつける兄妹の様子に羨ましい気持ちになる。


「仲のいい兄妹だね」


 思わず言っていた。兄とはあれ以来僕がトゲトゲしくしなくなったせいか、普通には話せているがそんなに急には仲のいい兄弟にはなれない。


「血が繋がっているってなんだか羨ましいよ」


 そこでなぜか三人笑出した。えっ!? 僕今なんか変なこと言った?


「血が繋がってないよ。桃李と。桃李は新しいお母さんの息子だよ」

「えっ! あ、ご、ごめん」

「謝らなくていいよ。それに学校で気付いて厄介になる前に言ってなかった事に気付いてよかった」

「厄介な事?」


 鏡野は笑顔のまま、兄の胸の名札を取り出した。


「佐々木?」


 そう。名札には佐々木と書いてある。


「お母さん苗字を変えなかったの。仕事場でいろいろ面倒だって、でついでに桃李のもそのままなの。それに学校では兄妹って言ってないの。だから、柏木君の前に付き合ってるの桃李だって思ってる人もいるし。顔も似てないでしょ? って男女じゃわからないか。だから、本当の兄妹じゃあない。でも、仲良くなれるよ。九条君も」

「ああ、うん。そうだね。兄貴は本当のこと知らないし……そうだな。ってかなんで言わないの?」

「今さら再婚したって言うのが恥ずかしいんだって。よくわかんないけど、言いそびれたって感じ? 苗字も違うから余計に言いにくいみたい」


 兄の方を見るとしらっとした顔で目をそらす。意外な一面を見た気がした。そんなこと気にしないタイプかと思えるのに。


「とにかく! 話を戻せよ!」


 ああ、そうだった。いろいろ話がそれてしまっている。


「その助手さんはきっともう力持っているか、または親か兄弟が持っていて、その力を研究してる。論文にも出さないし誰にも話してないし、どこかと接触してない。これまで何年も見てきたから協力を頼んでも大丈夫だとは思う。今までは力のこと知らないと思っていたから話が通じない可能性が高かったから出来るだけ自分達で、とやってきたけど、やっぱりあのロゴの示す通りに無理だった。というわけで彼との交渉をする。九条君のケースのように移動した方が、よりこの力を持つものの話として聞いてくれると思う。なので彼をここに移動しようと思う。研究室、研究ノート、それからブロック全てを見せ協力してくれる様に話す。万一の為に最初は私一人で。何かあれば柏木君、九条君、そして桃李が何とかして」

「なんとかってアリスはアバウトだな。ブロック使われたらどうするんだよ」

「ブロック持ってない時に移動する」

「僕の時もこんな感じだったの?」


 彼女は苦笑いしつつ頷く。


「アリスは柏木、俺、そして九条に話した。それぞれやり方は違うけどな」

「僕なんて……いやいい。」


 柏木君はいいにくそうに話を辞めた。気になるがすごく言い難そうだ。でも……あれ? 付き合ったのってこの話の前? 後? あ!……そういうことか、告白と同時だったのか。それはなんか微妙なんだな。それであの付き合い方か……。

 彼女のザックリとした明日の計画発表が終わり、話がそれに逸れ時間も遅くなったので解散となった。僕は柏木君に移動されて、ああ、まだ慣れない、自分の部屋へと帰った。僕だけ私服なのもなんだかと思い着替えていなかったので着替えてリビングに行くと兄貴がいた。


「うわっ! お前いたのかよ」

「あ、ああ。うわ、うまそう!」


 兄貴はケーキを食べていた。昔から甘党でストレス発散なのだろう、たまに自分で買ってきては一人で食べている。


「食うか?」


 兄貴がケーキの箱を差し出した。何だろう。すごく嬉しい。涙ぐみそうなのを隠してケーキを取る。


「いただきます!」

「あ! それは……最後にとっておいたのにっ!」


 僕がかぶりつくと同時に言う。


「さ、先にそれは言えよ」


 一瞬の間があり、二人とも笑った。何年ぶりだろう兄貴と笑ったの。




 母親が帰ってきて、こんな時間にケーキなんかとかブツクサ言っているのを二人でニヤニヤ、ケーキを食べながら聞いていた。何だかとっても懐かしかった。キッチンにいる母親を見ると目元を押さえていた。こんな日が来るなんて思いもしなかった。ずっとこもっていた部屋のドアを見つめた。ねじれていたのは、ドアではなく僕たち家族だったのかもしれない。


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