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その夜。
憂鬱な晩餐の席に、おれは着いた。
「やあ、これは、わが親愛なる弟よ」
さっそく長兄が、ひやかした。
「久しく会わなかったけれど、元気にしていたかい?」
「おかげさまで」
おれは即刻、皮肉には皮肉を返す。
おれの動じぬ風情に、兄は鼻をならし、肩をすくめた。
十にも満たぬ子供の頃は、こいつとの三つの年の差は大きく、口先のみでさえ散々にやりこめられたものだが、近頃はおれだって、言うようになったのだ。
しかし、この兄など、まだ可愛げがあるとも言える。
気まぐれにせよ、あてつけにせよ、おれにちょっかいを出そうとするだけ、まだ。
弟や妹たちは、おれと口をきくのすら禁じられている。
それぞれの母親たちに。
二言三言、挨拶を交したとて、それでおれの赤毛が伝染する道理もあるまいに。
あの母親たちが、食事のとき、子供の傍らに陣取り、あれやこれやと世話をやく様子は、おれの胸を悪くさせる。
おれは、あんな扱いを受けたことがない。
甘ったるい練乳が、べったりと五体に纏わりついてきそうな、甲斐甲斐しくも鬱陶しい、あのような扱いは。
おれがまだ、スプーンもまともに使いなれぬ頃、しょっ中、粗相をしたが、そのときも給仕が、ただひたすら職業的に、おれの周りを片づけただけだった。
「……ごめんなさい」
その度に、下唇を噛み、赤面してうなだれ、羞恥のあまり半べそをかきながら、無作法を詫びなくてはならなかった。
が、何度謝罪の言葉を口にしても、おれが許されることはないのだった。
おれの胃は、きりきりと痛んだ。
料理の味は一切わからなかった。
野菜は紙を咀嚼するよう、肉は麻袋を食むようだった。
その頃のおれと同じくらいの小さな妹も、この席にいるのだが、彼女も昔のおれに負けないくらい、粗相の大盤振る舞いだ。
この座の主役……つまり、王も登場せず、まだ前菜も運ばれていないうちから、やんちゃのやりたい放題である。
しかし、当時のおれとちがうのは、彼女の母親がそれをかわいらしいと評し、周囲の者も調子を合わせているところだ。
昔のおれには、冷たい嫌悪のまなざししか、向けられたことはなかった。
あの刺々しい薮睨み、不快感剥き出しの舌打ち。忘れられない。
そういうわけでおれは、この差を見せつけられるのが嫌さに、夕食に間に合わぬよう、わざと遅く帰城することが多いのだ。
が、今日は昼日中から場内に居た。
逃げ隠れはできない。
いや、例えば仮病を使ったりとか、方法はないわけでもないが……まあ、たまには顔を見せてもよかろう。ちょっとした嫌がらせに。
彼らと過ごす時間は、おれにはちっとも楽しいものではないが、その点について言えば、あちらさんたちの方がもっと楽しくないに相違ないからだ。