002-001
お久しぶりにもほどがあるってもんですが。
はずかしながら、いまさらながら、続きをば、upいたします。
まだこんなにも日の高いうちに、城内をうろつくの何ヶ月ぶりだろう。
近衛兵もうようよいるし、女官たちも活動している。
いや、夜だっていることはいるが、薄暗いから気にならないのだ。
数は明らかに夜のほうが少ないし。
総天然色で立ち働く彼らの様子は、おれを落ち着かない気分にさせた。
ほとんどの者が、ものめずらしげにおれを見てゆく。
ごく儀礼的に、辞儀をするものもいる。
「イーダス王子だ」
「まあ珍しいこと、森の王子よ」
「あの方が? わたし初めてお目にかかったわ」
「本当に、変わっていらっしゃる」
「なんだか、森の獣そのもののようね」
「ええ、あの目つき、飢えた狼のよう」
「見つめられたら、すくみあがってしまいますわ、あたくし」
うるさい。うるさい。うるさい。
陰口のつもりか。丸聞こえだ。わざとなのか。
走り出したい。逃げ出したい。一刻も早く、この廊下から、自室へ。
だがそんな真似はしない。できない。
怯えたそぶりなど、だれが、こんな連中に。
物笑いの種になるくらいなら、忌避されたほうが遥かに益しと言うものだ。
必死で平常心を取り繕い、だれもそこにいないかのように周囲を無視して、進む。
長い廊下を経て、ようやく自室へたどり着いたとき、それまでの苛立ちを扉へぶつけたのは、不覚。
ひとがいるとは、思わなかった。
女中がひとり、清掃に従事していた。
脅かすつもりはなかった、などと。
不穏な物音を響かせた直後に、無意味。
女中は寝台の掛布を直そうと腰をかがめた格好で、固まった。
年頃は多少幼く見えるが、おれとそう大差ない。
視線は、こちらを向いたまま。
おれにも覚えがある。野犬に襲われたときだ。
本当に恐ろしいものからは、目が逸らせない。
不幸中の幸い、扉は開け放した状態。
おれはおもむろに扉から離れた。
壁に添って、移動する。
向こうが目を逸らせないならば、こちらが背けてやるしかない。
おれが目を伏せた隙を、小動物並みの敏捷さで捕らえ、女中は部屋から一目散。
女中は動転のあまり、無礼にも扉を閉めていかなかった。
責める気はない。無理もない。
おれはみずからの手で、わが身を外界から遮断した。
あまりにも長く放置していた罰か、原稿がまるまる1ページ紛失していました。
後半部分は、ほぼ即興です。
まだ続きます、いずれまた、お会いいたしましょう。