005-006
おれの奴隷女は、危ないところだった。
危機一髪だった。
おれは、かなりハードな立ち回りを演じて、男どもを、のした。
おれは壁にもたれ、娘を睨みつけた。
荒い呼吸がおさまるまで待ちきれず、大口をあけて、罵った。
「おまえ! さらわれたり犯されたりは、おれの目の届かないところでやってくれ!」
無茶を言う。わかってる。
しかしこれが、まぎれもない本音だった。
密林の娘は、どこかうわの空というか、陶然とした面持ちでおれをじっと見守っていたが、おれの罵声を浴びると、いつもの豊かな表情が、見る間に甦ってきた。
泣きそうな笑顔、いや、嬉しそうな泣きべそ顔と言ったほうが近いか。
駄目だ。ついに捕まってしまった。
「……名まえ、なに?」
はじめて口をきいた、おれに!
おれは驚いた。
度肝を抜かれたと言っても大袈裟ではない。
こいつの声、忘れもしない、この声は。
ノエルタリアの。
「……なに?」
おれが答えないので、娘は再度、訊ねた。
今度はおれの顔を、覗き込んで。
「イーダス」
おれは、自分の声が震えるのを、抑えることができなかった。
娘はおれの名を鸚鵡返しにつぶやくと、つぼみが花開くように微笑んだ。