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大袈裟な出血のわりに、傷口は幸いにして、どれも浅く、あとあとまでくっきり残りそうなものは、ほとんどなさそうだった。
おれに対する第一印象が、とんでもなく悪かったせいも手伝って、彼女はすさまじい抵抗を繰り広げたが、決して大声で喚いたりはしなかった。
「沈黙の掟、神々への忠誠の証、か。呆れたな。おまえたち南方民族は未だにそうなのか。無学な者は……あの人買いなどは、おまえたちを、言葉もろくに操れぬ低級蛮族と蔑んでいるのだぞ。他国者の蔑視より、神々に背くことのほうが恐ろしいとでも、よもや本気で考えているのか?」
やっと戦争を終えて、窓辺で一服するおれに、寝床で悔し涙にむせんでいた褐色の娘は、射るような視線を投げてよこした。
やっぱりだ。
低級蛮族どころか、なんという頭脳か。この娘は異国の……おれの操る言語を完璧に理解している。
おれが彼女の故郷の因習を知っているのを、あからさまに訝しんでいた。そして、おれの質問に対しては。
『アタリマエダ!』
強い光を失わぬ黒曜石の両眼が、きっぱりとこう答えていた。
おれは小馬鹿にしたように鼻を鳴らし、煙草をもみ消して、部屋を出た。