005-002
密林の娘……か。
「さようで、だんな。南方美女の典型ですぜ。ちっとばかり肌にひっかき傷こさえちまったが、なに、ホンのちょびっとで……」
おれを「あんた」から「だんな」に格上げした奴隷商人のいやらしい猫なで声を思い出しながら、借り部屋の寝床に横たわる、すらりとした肢体を眺めやる。
南方美人の典型。これが。
ああ、それではノエルタリアは。
かの地では、さぞや奇異に見えたことだろう。
あの透きとおる肌、真珠を連ねたような銀髪、鮮血の色の瞳を持った、あの姫君は。
おれも、典型という言葉には劣等感を持つ身である。
おれはこの典型美女に、ちょっとした嫌がらせを試みた。
港でおれの一撃をくらってから、彼女は目を覚まさない。おれのなすがままだ。
今のうちに傷の手当をすませてしまえば事は簡単だが……おれはわざわざ、気つけの酒を彼女に飲ませたのだ。口移しで。
「よう、べっぴんさん。おれを憶えているか?」
朦朧と薄目をあけた彼女は、おれと至近距離で対面した途端、カッと目を見開いた。
咄嗟におれを突き飛ばし、肩で呼吸しながらも反抗的なまなざし。ぞくぞくするぜ。
おれは鷹揚な動作でベッドを離れ、余裕の笑みさえ浮かべて娘に近づいたが……。
「こら、ちっとは大人しくしろ、手当てできないじゃないか! その切り傷の山、一生背負って歩くつもりかおまえは!」
密林出身の美女の暴れること暴れること、噛み付くわ蹴飛ばすわ引っかくわ……おれは、自分の悪戯心を、深く激しく、後悔した。