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二百年前のおれは、けっこういいとこの坊ちゃんだった。
今はこの地上から消えてなくなっているが「レムノン」という王国が当時はあったのだ、西方に。
レムノン。
もうわかったろう。
おれの名は先刻、紹介したな。
イーダス・レムノスクだ。
国名を姓とする、この意味がおわかりだろうか。
おれはつまり、王家の末裔というわけだ。
実際たいしたものだったのだ。
けれど、たいしたものだったのは、おれのご先祖やおれの親で、おれではない。
おれはといえば、神経質で貧弱な、王族とも思えぬような、みすぼらしい子供だった。
もの心ついてから十四になるまで、おれは自分のあらゆる面に劣等感を抱き続けていたものだが。
わけても強烈だったのは、この髪の色に対してだ。
錆びついた金属のような茶褐色。
おまけに少し、縮れている。
おれには兄が一人、弟が一人、妹が三人いたが。
(ただし母親はそれそれ違う。原則として王家の長たるもの、一度子をなした女性とは以後、契らぬのがしきたりだった。どうしてそんな決まりだったのかは不明だが、とにかく建前は、そういうことになっていた)
みな直毛のプラチナブロンドを自慢気になびかせ、見下すような薄青の瞳を持っていたものだ。
おれは瞳の色も、兄弟たちとは違っていた。
深緑。
「底無し沼のように不吉な」という飾り言葉が、常につきまとっていたっけか。
「この子はわしの血をひかぬ」
王はおれを一目見て、そう断言したそうだ。
金髪碧眼の王は。
母はその場で自害して果てたという。
よくぞおれを道連れにしてくれなかったものだ。
おかげでおれは幼少年期中、肩身の狭い思いをし、立派な腺病質の鎧をまとう憂き目を見て。
王宮という名の地獄に、血の鎖でつながれた。
おれを生かしておいたのは、もしかしたら彼女の、おれに対する復讐であったかもしれない。