004-002
白昼夢だろうか。それとも、あの世?
燦々と陽光の降り注ぐ広場は、人の往来が激しく、賑やかだった。
その内の一人に、ここは何処かと訊ねてみた。
数枚の絵を道端に置き、どうやらそれを商っているらしい、おれより五つ六つ年上の男に。
「レンツールさ」
男は、あっさりと答えた。
それにしても、ひどい訛りだ。
「けど、おめえ、なんてカッコしてんだ。どっかの戦災孤児かい? およ、布地はけっこういいじゃん。どっから来たんだい、おのぼりさん」
レムノンだ、と答えると。
男は目を点にし、次におれの背中をどんどん叩いて笑い転げた。
「あはは、こりゃいいや。あんた時間旅行者かい。おのぼりさんにしちゃ、気の利いたジョークとばすじゃねえか、レムノンてのあ、二百年前のここの地名だぜ?」
今度はおれの目が点になった。
なにかタチの悪い物の怪に化かされてでもいるようだ。
現実感が抜け落ちているせいで、却っておれはパニックにも陥らず、不思議なくらい冷静だった。
このあたりに歴史書を置いている所はないかと、重ねて男に聞いてみた。
彼は図書館の所在地を、わざわざ地図まで書いて教えてくれた。
「かたじけない」
おれは……昔のおれはとんでもなく、育ちのよい坊ちゃんだったのだ。
いくら変わり者でも、一応、王子だったのだし。
だからおれは、ばかていねいにも深々と頭を下げて、こう礼を述べた。
相手は、ぽかんとしていた。
彼はおれが去った後、こう一人ごちたに違いない。
「なんだ、あのすまし返ったガキは」