Battle.78 VSアヴァン(後編)
「ぬぅあっ!」
アヴァンは蹴りを繰り出しながら間合いを詰める。
空也はそれを涼しげな表情で避け、往なし、間合いを変化させない。
(ならば……)
展開のない試合に痺れを切らしたアヴァンは一気に踏み込んだ。
空也はそれを待っていたとばかりに後退を止め、前に踏み込んだ。
(読まれた、だと……!)
こうも接近されては出の遅い拳の攻撃はお互いできない。
つまり、この状況でいかに早く蹴りの体勢に移るかが重要だ。
だが、空也はその規格を越えていた。この状況で、拳による攻撃を繰り出したのだ。
(バカな!? なんというスピードだ!)
空也の攻撃はアヴァンの読みを超え、彼に届いた。
顔面に軽く一撃喰らい、僅かながら混乱が生じる。
その隙を逃さず、アヴァンの腹部に一撃入れた。
更にその瞬間の硬直、顔面に重い一撃を喰らわせた。
アヴァンはたまらず倒れ込む。観客の生徒達がどよめいた。
『す、すげぇ……先生を圧倒してる……。』
『いや、まだまだ解らねぇぞ?』
『頑張れ先生!』
『怖いぞ空也!』
「余計なヤジを飛ばすなっ」
空也は教師との試合中だというのに観客の野次に答えるほど余裕だ。
空也の幾多の戦闘経験がそうさせるのだろう。
アヴァンは立ち上がり、すぐさま反撃を試みた。
踏み込みながら拳を突き出し、避けられると同時に回し蹴りを放った。
空也は身を大きく屈めて蹴りを回避。しかしこれはアヴァンの狙い通りだった。
体を大きく屈めたこの体勢なら回避や防御はままならない。
アヴァンは回し蹴りの勢いにのせてもう片方の足で蹴りを入れた。
その蹴りは間違いなく空也の顔に突き刺さる筈だったが、
一瞬にして現れた空也の左手により弾かれてしまった。
(なんという瞬発力……目視してから私の蹴りを弾くとは……。
しかし、それにしてもあり得ないスピードだ。これは……。)
アヴァンは弾かれた脚を強く踏みしめ、正拳突きを放った。
空也は例の謎の動作で受け止めようとしたが……。
「――――?」
受け止められない。何故なら拳が来ないからだ。
アヴァンの拳は一度引かれ、既に空也の顎の真下にあった。
「しま……っ、」
気付いた頃には空也の体は宙に舞っていた。
アヴァンの全力のアッパーは見事真芯を捉えたのだ。
(ちっ)
空中で首だけ動かして地面を見る。
落下予測地点には既にアヴァンが控え、何やら大層な構えを取っている。
「ゆくぞ! 奥義……!」
アヴァンの両手が合わさり、腰の辺りに添えられる。
恐らく空中で避けようのない空也に大技を叩き込もうというのだろう。
「勇道断破!」
「残念、先生。」
アヴァンが両手を組み合わせ空也に突き出したその瞬間、空也の姿は消えていた。
代わりに、空也の声は背後から聞こえる……。
(まさか、空中で移動するなど……!)
空也はアヴァンの背後、体は逆さまで頭から地に吸い寄せられている。
だが落下までの刹那の時間に両手首を合わせて構えを作り出した。
そして……
「崩拳」
全力でアヴァンの首を突く。
アヴァンは吹き飛ばされ決闘フィールドの壁に叩きつけられ、意識を失った。
★☆★☆★☆
「まさか敗れるとはな……正直、侮っていたよ。」
決着が着き、決闘フィールドが消滅した。
周りの野次は俺に散々拍手喝采を浴びせると散っていった。
「君の拳法の秘密は……結局解らずじまいだった。
太極拳かとも思ったがどうやら違うようだね……。」
太極拳とは失礼な。全然違うじゃないか。
まぁ、でも……
「先生には特別に教えてあげましょう。俺の拳法の正体を。」
「え? ……いいのかい?」
神以外にこの闘術を話すのは実に久しぶりだ。何年ぶりだろうな……。
「俺の拳法の名は神域流闘術。その極意は、『空気抵抗を操ること』。」
「シンイキ……? 空気抵抗?」
「先生は鋭いですね。先生の言う通り、俺のスピードはこの闘術によるもの。
自分の移動の際、体にかかる空気抵抗を操ることであり得ない速度で移動できます。
前からかかる空気抵抗を消し、後ろから後押しする。
これが俺のスピードの秘密です。」
「空気抵抗を操るなんて……そんな事できるのか?」
「普通は無理です。永い永い修行でようやく習得した技ですからね。
攻撃も同様。前方の空気抵抗を消し、後方から後押しする。
元の力に更にスピードが加わるから、極めて高い破壊力を持ちます。
先生が先程の決闘で負けた時の最後の空中ダッシュもそういうことだったのです。」
「成る程……。」
まぁ、俺が強いのは神域流闘術のお陰だけではないのだが。
動体視力、筋力、瞬発力なども人間やエルフのそれとはかけ離れている。
更に手にしたものを全て武器として使用できる、という能力。
そしてあらゆる武器を中級者程度に使いこなせるという能力。
これらが俺が神として授けられた、邪神と渡り合える理由だ。
神域流闘術はちゃんと技も存在しており、先程の崩拳もその一つだ。
あらゆる拳法に対応できる、まさしく最強の闘術。
……まぁ、セトの使う裏神域流闘術『武技黒掌』には滅法弱いのだが……。
「しかし、話してくれたのは嬉しいが……いいいのか?」
「構いません。誰かにコピーできるわけでもない、対策を練れるわけでもない。」
我ながらものすごい自信だ。でも事実だから仕方ない。
アヴァン先生はそうか、と呟いた。
『おーい、空也~、組み手頼む!』
「はいはい。……ったく、今のを見てよく間髪入れずに挑めるもんだな。」
俺は呼ばれた方向に小走りで向かった。
次回予告
青春の香り漂う、淡い恋の物語。
しかし空也は関わってはいけない!? 一体なぜ?
一同赤面の理由がそこにあった……!
Battle.79 VS告白
「私が好きなのは……」
「止めた方がいい。アイツのベクトルは肉親に向いてるからな。」