Battle.48 VS解決
仮説なら幾らでも立てられる…
証拠、なんとか証拠を見つけなくては…。
犯人は2時間の間に売上金全てを盗み、どこかに隠している。
自分のロッカーに隠すなんて隠しかたはしないはず。
なら何処に隠した…?
「誰か目撃者はいないのか?」
クラス全員が首を横に振る。
「ま、待てよ。空也、お、お前も怪しいぞ!」
フライヤが唐突に俺に文句をつけた。
このチャラ男め…
「何をバカな…俺はレジになど一切触れていないぞ。」
「い、いや、そ、そのあからさまに怪しい壺は何なんだ…?」
「中を見てみるか?何も入ってないぞ?」
俺は『親切にも』壺の中身を見せてやる。
フライヤ…と、容疑者3名は壺を覗きこむ。
「…暗すぎて何も見えないぜ」
「中に売上金が入っていてもわからないわね」
「や、やっぱその中、な、何か入ってんじゃないのか…?」
「これ…魔法具ですよね…何故こんなものを…?」
こ、こいつら…俺を疑うだと…!?100年早いわ…!
とにかく、早く真犯人を見つけなくては俺が危ない。
何か証拠…何か証拠…!
………………………。
駄目だ…思い浮かばない…少し頭を冷やす必要があるか…。
「…ちょっと廊下で考えてくる」
ガラガラガラ…
廊下に出ると、ひんやりした空気に包まれていた。
もう9月だからな…秋らしい気温が漂っている…。
バシャバシャと水道水で顔を洗う。
正面の鏡には、俺の顔と背後の廊下が写っている。
ふと、水道近くのゴミ箱を見るとサーチで魔法を見た時に似た感覚を感じた。
妙な感覚の発信源はゴミ箱の中のくしゃくしゃに丸められた紙だ。
広げてみると、しわくちゃの紙に『いちおくえん』と書かれている。
紙の端には焦げたような黒い跡が残っている。燃やそうとしたのかもしれない。
だが誰が何のためにこんなものを燃やそうとしたんだ?
待てよ…何かが引っ掛かる…この紙は…
あ!思い出したぞ…だがなんでこれがこんなところに?
俺は外の夕陽にくしゃくしゃの紙を翳してみた。
「!!!
…ほぉ…なるほど…」
俺のサーチが発動したって事は…これは…魔法陣か…。
焦げた紙にこの魔法陣。
謎は…解けた!
★☆★☆★☆
「謎が解けた!?」
「そう。まず犯人は魔法を使って売上金を盗み出したんだ。
それには【空間移動魔法】が必要…。」
「空間移動魔法、って…」
「―――イプシリアスか。」
「正解――――と言いたいところだが、犯人が使ったのはそれじゃない。」
教室がざわつき出す。
フライヤ達が狼狽えるなか、シェリル、ルシフェルは無表情を崩さない。
「犯人が使ったのは【空間交換魔法】。習っている生徒もいるはずだ。」
「あ、イプサイアスだ!」
女子生徒がクイズ番組で正解を答えた時の様に楽しげに発言した。
そこは俺に言わせて欲しかったんだがな…まぁいい。
「そう。犯人がイプサイアスを使った証拠もある。
…それがこれだ。」
俺はポケットから先程の紙を取り出す。
『いちおくえん』と書かれた端の焦げた紙…これが何よりの証拠だ。
「…魔法陣は書かれていないようだけど。
何故それが証拠になるのかしら?」
シェリルが腕を組んだまま俺に鋭い目線を向けている。声は非常に無感情だ。
「いや。魔法陣は確かにここに書かれている。」
「………?」
「誰か、ブラックライト持ってないか。」
とはいっても普通誰も持ってない。
しかし…俺の推理が正しければ、シェリルが持っている。
「シェリル、持ってないか?」
「………、持ってるわ。」
シェリルはペンケースからペンを取り出してきた。
ペンのノック部先端にライトとスイッチが付いている。
スイッチを押すとブラックライトが点灯した。
ブラックライトで紙を照らす。
――――すると、紙に魔法陣が浮かび上がった。
――――――――――――――――――――――――
イプサイアス
上級空間交換魔法。
魔法陣(転送元)の上の物体をもう1つの魔法陣(転送先)の上に転送する魔法。
新たに魔法陣(転送先)を書くと以前書いた魔法陣は消される等、
使い勝手が悪いためイプシリアスの方を使う者が多い。
――――――――――――――――――――――――
「えっ!!?」
「な、何だ!?」
「…やっぱ、秘密ペンか。
ライトで浮かび上がるインクを使ったペンだ。これで魔法陣を書いたわけだな…。」
「…それだけで盗んだというのは早計よ。
犯人がそれを書いたとしても、売上金を転送したという証拠がないわ。」
その通り。
犯行を証明するにはもう1つ証拠が必要だった。
その証拠は…
「この紙だ。
この紙は…俺がレジに入れたものだ。
……客の子供が俺にくれたんでな。記念に入れておいたんだ。
それが外に出ているということはレジの金ごと持ち出されたということ。
さらに魔法陣が書かれ、端には燃やそうとした跡まである。
…間違いなく、犯人はこの紙を使った。その後、証拠隠滅に失敗している!」
「…しかし、それでは犯人は特定できないのでは?」
確かにルシフェルの言う通り、それだけでは犯人は特定できない。
だが…犯人は証拠隠滅しようとして自爆したのだ。
「鍵は端の焦げ痕だ。
これは魔法で燃やそうとしたもの……『ではない。』」
魔法で燃やしたならば完全に燃え尽きる筈。魔法を使えるならその方が確実だ。
焦げただけで燃え尽きてはいなかったため、これはライターか何かで燃やそうとして失敗したのだろう。
「つまり犯人は炎魔法を使えない、且つ空間交換魔法を使える…この条件に当てはまるのが即ち犯人ということだ。」
「それって…」
「犯人は…お前だ、シェリル。」
シェリルはちょうど炎魔法を習っておらず、空間交換魔法を習っている。
しかも好都合な事に…調べたところこのクラスで条件に当てはまるのはシェリル1人。
他のクラスの生徒が犯人という可能性も無きにしも非ずだが…
「見事な推理ね。…………その通りよ。」
自白したので良しとする。
……正直、自白しなかったらヤバかったのだが…
「…あの時、風紀委員が通らなければ完璧だったのにね。
折角燃やそうとしたのに、慌てて消してゴミ箱に入れてしまって…
念のための秘密ペンが役に立つと思ったのだけど…甘かったわね。」
シェリルは目を伏せた。
クラス全員が責めるような眼差しを向けていた。
「………………。」
シェリルは下を向いたまま何も喋らなかった。
★☆★☆★☆
シェリルは風紀委員室に連行された。
何らかの罰が下されたであろう。
しかし、これからもシェリルの学園生活は続く。
俺のこの行動がシェリルの学園生活を壊すことになってしまうかもしれない。
しかしシェリルの罪は罪だ。それは間違いない。
しかし、なんというか、この………罪悪感が残っていた。
もやもやとした感情を抱えて歩いていると向こうから見覚えのある男が歩いてきた。
白髪、灰色の制服…風紀委員長の久城 透矢だった。
すれ違い様に久城は俺に話しかけた。
「トパーズクラスのシェリル・チェンバース…学園を去ったそうだ。」
「な…!?」
「クク…罪と罰って怖ぇよなぁ…」
久城はそのまま俺の横を通り過ぎていった。
久城の首から提げられた赤い十字架が揺れているのが僅かに見えた。
次回予告
空也は試験室に訪れていた。
第5試験の内容は捻れ魔獣フレシヌスの討伐。
魔物よりも強力な魔獣相手に空也達はどう戦うのか…?
次回 Battle.49 Battle.VSフレシヌス(前編)
「こんな気持ち悪い魔物始めて見たぜ…」