Battle.1 VS入学
――――ここファルシオン学園は稀に生まれる魔力を宿した人間、そしてエルフ。
その者たちがその魔力を正しく使えるよう導くのがファルシオン学園の役目。
――――生徒たちよ、存分に学べ。
そしてその稀有な能力を、世の為人の為にいかす様に……。
(空也さん、空也さんっ!)
不意に体を揺さぶられた。俺に囁きかける声が聞こえる。
どうやら、校長のあまりに冗長でつまらない話を聞いていたらいつの間にか眠ってしまっていたようだ。
我ながら立ったまま眠ることができるとは感心する。
眼が覚めてしまったので辺りを見回して気を紛らわすことにした。ギャルゲーとかのオープニングでよくある、特に意味もなく辺りを見回して解説する的なアレだ。
隣にいるのは俺の妹。
さらさらとした目にかからない程度の長さの、艶やかな黒い髪と、ビー玉のような鮮やかな青が混じったぱっちりとした黒い瞳が特徴的。
語彙が少ないので、何と言うべきかは分からないが……可愛い。
誰が見ても、10人中10人が可愛いと言うと思うのだが……本人曰く、コンプレックスがあるらしい。
背が小さい事とか、胸が小さい事とか。年齢的に仕方ないと思うのだが。
どこにでもそういうのを好む野獣はいるので、俺が守ってやらねば。
(……どうしたんですか?)
(いや、なんでもない)
いかん、じろじろ見すぎた。視線をどこか別な場所に逸らそう。
台に立っているのは校長。
髪のように伸びた髭や髪は白髪で、威厳を漂わせている。
耳がとがっている所を見ると、エルフ……それも、人間と交わっていないいわゆる『純系』のエルフだ。
台の下に立つ教頭も同じで、どうやらこの学園には純系エルフの教師が多いようだ。
まだ制服が支給されていないため、周りの生徒はスーツを着ている。が、数人私服で来ている勇者もいるようだ。
俺もその一人。今朝スーツを捜したのだが、そもそも持っていなかった。
黎もその一人で、スーツが用意できないというか、そもそも体に合うスーツが見つからなかったらしい。
★☆★☆★☆
さて……どこから自己紹介すれば良いだろうか。とりあえずは、簡単な紹介だけさせてもらうとしよう。
俺は小泉空也。神様です。
隣の妹の名は蒼井 黎。こっちも神様です。
……諸君らは神を信じるだろうか。まぁ信じるとか信じないとか、そんなものは宗教によって各々違うことだろう。
だがまぁ、ここは一つ俺の知る神についてを聞いてほしい。
神は無数にいる。
もうわんさかだ。俺の知り合いや部下などは軽く俺の脳の記録量をオーバーしている。
神は人間と同じ姿をしている。
……というよりは、人間やエルフといった種族に見られる形は、全て神がモデルだ。
神は世界……即ち、一つ一つの『時空』を管理する。
時間と空間が孤立した箱、それが時空。それらは各個の時間、各個の空間、文化、種族、歴史の流れに至るまで、他の時空と被ることはあり得ない一つの世界だ。
それら時空を管理するのが一般の神の仕事というわけだ。
そんな神の所属する組織、神域の目的は恒久的平和なのだが……何事にも、平和を好まないものというのは居る。そう、神域にも敵がいるのだ。
それは神域の者が闇に魅せられた成れの果てであったり、どこかから湧き出た邪悪な意思を持つものであったり……それらを統べる邪神であったりする。
突如として現れた、邪神セト=イングリシア――――。
奴は、神を殺し、時空を壊し、その住民を殺し、万物の絶望を食糧とする。
神域の中でも特殊な神である俺達は、そのセト=イングリシアを討伐することが仕事だ。
まぁ、自己紹介はこんなところだな。あまりに唐突すぎて解りにくいかもしれないが、俺自身は神というより神の力を持った人間って感じだから安心(?)してくれ。
これまでの話を聞けば大体わかるだろうが、俺達が今回この時空に来たのはセトを追っての事である。
この時空の何処かには居るのだが、実に上手いこと姿を隠しやがる。
本気で隠れたセトは、気配も感じず、魔力も感じず、存在すら消えているため、こっちから探し出すことはまず不可能。
故に、このファルシオン魔法学園で何かしらの戦力を得てセトを迎え撃つこととした。
まぁ、学校ってのは楽しいもんだからな。どうせなら行っときたいってのも本音だ。
★☆★☆★☆
入学早々校長の長話を聞かされるという拷問を耐え切った後、入学した生徒全員はクラス分け検査を行った。
クラス分けの方法は少々変わっており、「まず全生徒の魔力の量を検査し、その量ごとにクラス分けをする」らしい。
そして俺の魔力量検査が回ってきた。
血圧計みたいな器具に腕を入れ……数十秒後、ピーッという音が鳴った。
「え……あ……。」
検査員の人が戸惑っている。
「どうしたんですか?」
「えー……あー……いや、その、貴方はトパーズクラスです。
トパーズクラスの教室は1階の隅ですので……」
どうも検査員の挙動が気になった俺は、一旦出てから聞き耳を立てる。
『さっきの子、魔力少ないわね~……史上最低の魔力じゃない……?』
何だと。
史上最低!?
ってことはトパーズクラスってのは……
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クラス分け案内
魔力が多い順から、
・ダイアモンドクラス
・アメジストクラス
・エメラルドクラス
・サファイアクラス
・ガーネットクラス
・シトリンクラス
・ヘマタイトクラス
・トパーズクラス
当学園は以上の8クラスより構成されている。
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OK、最低クラスってことか。
「まぁいいだろ……最低だろうとなんだろうと、クラスメイトなんだし……」
魔力が最低なだけで性格や学力が最低なわけじゃないだろうしな。
教師が入ってきた。
メガネをかけた、背の高い男だ。
「はーい、適当に自己紹介してくれ。」
教師の言ったとおりの適当な自己紹介を軽く聞き流す。
暫く経ち、教壇の前に立ったのは黒髪に金髪ウィッグを混ぜている目つきの悪い男。
制服を着崩し、いかにも態度の悪い不良。
ううむ、顔とかは悪くないんだろうけどな……残念な奴。
そんな視線に気付いてか気付かずか、眼が合う。
……なんか視線を外したら負けな気がして視線を外さなかった。
「……ハウエル・シュタインだ。」
その男の自己紹介はすぐに終わり、次に俺の番が回ってきた。
(なに、さっきの人……不良?)
(しっ! こっち見てるぞ……!)
(うわ、恐ぇ……!)
「小泉空也です。まぁ、よろしく。」
我ながら雑な自己紹介を終えて席に着く。
先ほどのハウエルという不良がやたら睨んでくる。
どうやら眼をつけられたようだ。
まぁ、俺にとっては些細な事だが……。
★☆★☆★☆
俺は今日からこの学園の寮に住む事になる。
黎と合同の部屋。……やはり何か背徳感がある。
しかし黎が来ない。今日は顔合わせだけだから短時間で終わるはずだが……?
黎は可愛いので邪なる欲望を持った野郎が良く集る。
……違うぞ!? 決して俺はロリコンではない!
気になった俺は校舎へ引き返した。
★☆★☆★☆
「そーいや黎は何クラスなんだろうな……」
とか言ってみたものの心の底では分かっている。
……ダイアモンドクラスだ。
ダイアモンドクラスはトパーズクラスとは真逆方向の隅にある。
おおかた、ダイアモンドクラスの教師の話が長いとかそんなんだと思うが……?
教室の窓から中を覗き込む。
だが誰もいない。あるのは魔力を高める効果を持つ水晶……のレプリカ。
トパーズクラスにはこんな綺麗なものは一切無く、飾り気の無い教室だった。
いかん、何か腹立ってきた。
ともかく、教室にもいないとなると何処にいるのか分からない。
暫く途方に暮れていると、誰かが歩いてきた。
そちらの方向に目をやると、黎の姿があった。
「黎! 一体今まで何処にいたんだ?」
「あ、空也さん。今までちょっと試験を受けてたんです。
待たせてゴメンナサイ。今終わりました。」
「試験?ダイアモンドクラスでは初日からそんなものあるのか……?」
トパーズクラスは自己紹介後早々に解散。
後日の連絡とかそういうものも全然無かった。
「いえ、ダイアモンドクラスの人たちはもう帰ったと思います。
私が今まで受けてたのは進級試験です。」
進級試験?
あぁ、そういや生徒手帳にそんなものが書いてあったな。
12回の試験を全てクリアする事で卒業することができる。
但し挑戦できる限界は11回の試験までであり、最後の試験は3年間学園に通ったもののみ受けることができ、12回の試験をクリアした時点で卒業できる。
かなり酷いシステムだと思う。
だって12回の試験がクリアできなければいくらでも留年させるわけだ。
んで、黎は初日からその進級試験を受けたらしい。
「これで残ってるのは1回だけなんですけど、12回目はまだ挑戦できないそうです」
「あぁ、生徒手帳にもそう書いて……ってええ!?」
残ってるのが1回だと!?
「まさかとは思うが……黎、
初日から11回連続で試験を受けてこの短時間で全部クリアしたのか……!?」
流石にそれは無いと思う、が……
「はい。結構簡単でしたよ?」
「簡単なわけないだろぉーっ!?」
こうして俺の、波乱に塗れた魔法学園での生活は始まったのだった。
だが俺達は気づいていなかった。
こうしている間にも、邪神は息を潜めて動いていることを……。
次回予告
初日から不良に眼をつけられた空也。
翌日、空也はある光景を目にする。
次回 Battle.2 VSハウエル
「とっととどっか行けよ。それとも痛い目見たいのか?」