Battle.18 VSデス・レーベル
「…ところで空也さん。
デス・レーベルという集団を知っていますか?」
放課後、ルシフェルがそんな話を出した。
その直後、ハウエルは慌てたように教室から出ていく。
「…最近ハウエルのヤツ、何か俺たちを避けてないか?」
「そうですか?単に何かの用事があるだけではないでしょうか。」
まぁ、そんなところだとは思うがな。
よし、用事か全て済んだら何か奢らせよう。
「…それで、先程の話の続きですが。
最近、『デス・レーベル』という組織がこの学園で蔓延っているらしいですよ。」
デス・レーベル…?
「まぁ、所謂ギャング集団でしょうかね。
夜に出歩いたりすると、ストレス発散や強盗などの理由で襲われるらしいです。」
「へぇ…黎に気を付けるよう言っておかないとな。」
「空也さん、貴方は大丈夫なのですか?」
「ん?俺は大丈夫だ。そこらのチンピラ集団ごとき朝飯前だよ。」
「それは頼もしいですね」
そう言ってルシフェルは笑みを浮かべる。
ルシフェルのこういった表情は第3試験以降によく見られる。
少しずつ俺達に対して心を許してくれているようだ…。
「ですが、今あまり夜に出歩くことはお薦め出来ません。
暫くすれば、風紀委員や教員の方々が解決してくれるでしょう。」
風紀委員、ねぇ…。
そういえば、俺は風紀委員に知り合いがいたんだった。
…ちょうどいい、ちょっと発破かけてくるか。
★☆★☆★☆
「失礼しま~っす…。お、いたいた久城サン。」
「…あぁ、お前か。何の用だ?風紀委員に入りたくなったのか?」
風紀委員室。
相変わらず極端なまでに飾り気のない部屋だ。
白髪とツリ目が特徴的な風紀委員長、久城 透矢。
俺はアメジスト生徒の校則違反を連行したことでこの男と知り合ったのだ。
「残念だがそのつもりはない。…ちょっと小耳に挟んだ話があってな。
デス・レーベルっていう…。」
久城がピクリと反応する。
首から提げられた赤い十字架のネックレスが小さく揺れる。
「…あいつらか。
風紀委員としてはアイツらほど迷惑な奴らはいねぇな。
まぁ、所詮は一、二年生徒の集団だ。俺に敵う奴は1人もいねぇよ。」
ほほぅ…それは頼もしい。
だったらとっとと動いて欲しい所だが、色々都合があるのだろう。
★☆★☆★☆
「へぇ…それは怖いですねぇ…。」
「だよな。やれやれ、全く物騒な限りだぜ。」
この学園は世界でただ1つの魔法学園。魔法が使えるゆえ傲り高ぶる奴もいれば、何かしらの苦しみを抱えこうした事でしかウサを晴らせない奴もいるのだろう。
だから俺は無理にその居場所を奪ったりする気はない。
教員や風紀委員に任せておくとしよう…。
「…そういえばさっきお買い物の帰り道にハウエルさんを見ましたよ。
挨拶しようとしたんですけど…何だか声をかけづらい雰囲気で…。」
声をかけづらい、ねぇ…。ハウエルのヤツ、ホントにどうしたんだ…?
…仕方ない。友人のためなら体を張るのが男というものだ!!
「く、空也さん!?こんな時間にどこに行くんですか?」
「ちょっくら夜遊びに行ってくる。怪しい人が来ても扉開けるなよ?」
★☆★☆★☆
さぁて、ハウエルはいないかな~?
今度こそあいつを問い詰めて何を悩んでるのか吐かせてやろう。
あいつが俺達を避ける理由…あいつが夜に出歩く理由…。
その2つを繋ぎあわせると、どうしても平和的な可能性が思い浮かばない。
まぁ、俺は考えすぎる癖があるからな。杞憂であることを祈ろう…。
教員寮の廊下には運良く誰もいなかった。
呼び止められれば部屋に返されるに決まってるからな。
教員も事態の収集に忙しいのだろう。
ファルシオン学園の寮は3種類ある。
俺と黎、及び教師のいる教員寮。
男子生徒の住んでいる女子禁制、男子寮。
女子生徒の住んでいる男子禁制、女子寮。
全てをあわせると一般の大学レベルの大きさだ。
ファルシオン学園の規模の大きさがわかる。
★☆★☆★☆
夜の学園。
不気味さが漂う校舎には門が閉じているため近づけず、近くにある旧校舎には容易に入ることができる。
…旧校舎のあまりの不気味さに、誰も近寄ろうとしないからだ。
学園から寮までの距離は徒歩5分程度。
俺はその場所を先程から往復している。
当然この行動には意味がある。
先程から俺をつけてくる気配がするからだ。…恐らく、デス・レーベルだろう。
そろそろあちらから行動を起こす筈。
「オイ、そこのお前。」
思った通り…振り替えると仮面で顔を隠した男が立っていた。
「デス・レーベルだ。とりあえず覚悟はいいか?
お前の有り金全部貰おうか!!」
男は剣を抜く。
まぁいい、そっちがその気なら…
「上等だ…」
俺は一瞬で間合いまで踏み込み、軽い蹴りを喰らわす。
相手は剣で防ぎ、少し怯んでいる。
待てよ、あの剣…
考え事をしていると相手が斬りかかってくる。
後ろにステップして回避し、もとの構えに戻りきらないうちに顔面に鉄拳を浴びせる。
「ぐあっ」
同時に仮面が外れ、地面に落ちる。
男は慌てて仮面を拾おうとする、が…
それよりも早く俺が仮面を踏み砕いた。
男は明らかに狼狽し顔を隠そうとしている。
「無駄だよ…俺はもう気付いてる。
いつからなんだ…こんな下らないことやってるのは。」
目の前の男は答えない。俺は苛立ちから歯軋りする。
「いつからなんだよ……!
答えろ!!ハウエル!!!!」
接触不良で点滅する街柱電灯に照らし出されたのは…
――――――紛れもなくハウエルだった。
次回予告
空也に襲いかかった刺客はなんとハウエルだった。
ハウエルが語る己の過去、そして深い傷。
数々の複雑な感情が交錯するなか、空也はある決心をする。
次回 Battle.19 VSハウエル
「そのためなら俺は、何だって壊せる。」