Battle.16 VSアルナス(前編)
第1試験、第2試験と合格して勢いづいた俺は、ハウエル、ルシフェルと共に試験受付に来ていた。
この2人も第3試験を受けておらず、実に好都合と言えよう。
第3試験の内容は、小型魔物アルナスの討伐。
この試験のような戦闘系統の試験では、最悪の場合、命を落とす危険もある。
そういった配慮のため、試験はグループで受ける。
…それが当たり前なのだが。
稀に黎のように例外の生徒もいるようだ。
「試験を始めます。
試験開始より一時間経過、或いは試験者が試験続行不可能と判断した場合は失格となります。
試験ターゲット撃破により試験合格となります。
試験中はいかなる魔法を使っても構いません。
では、用意はいいですか?」
「「「はい!!」」」
「では…試験開始!!」
試験官の声と共に試験室に結界が張られる。
外部からの不正な行為はこの結界により防がれる。
そして試験室に小型の魔物…アルナスが放たれる。
アルナスは獰猛な狼の背中に巨大な口がついた実におぞましい姿をしている。
ウウウ…という上下の口から漏れだす唸り声が、試験室の静寂の中に響く。
俺の武器は拳のみ。人間に対しては強力だが魔物相手でどこまで有効か…。
ハウエルの武器は剣。
本人曰く、魔法剣を専攻しているらしいが、習い初めて間もない為、余り頼りにはならない。
ルシフェルは魔法で俺達の援護に回るらしい。
ルシフェルは代表生徒。その力は未知数だ。
ピリピリとした硬直状態が続く。
お互い隙は見せられない緊張が試験室を支配する。
先に動いたのはハウエルだった。
「うおおおお!!」
ハウエルは剣を片手にアルナスに走り寄る。
アルナスは微動だにせずハウエルを待ち受ける。
「喰らえ!!」
ハウエルは剣をアルナスに降りおろした。
しかし命中したかに見えたその剣は、地面に当たりガランと耳障りな音をたてた。
――――アルナスは、そこにはいなかった。
一瞬にして跳躍し、ハウエルの背後に回り込んだ。
そして背中についた不気味な牙で
――――ハウエルの肩を抉った。
「がぁ…っ!!」
ハウエルはもがき苦しんでいる。そのハウエルにアルナスが迫る!
「ルシフェル、ハウエルの回復を頼む!!」
「わかりました!」
ハウエルに夢中なアルナスは俺に気付かない。
その隙を縫って、俺はアルナスに踵落としを浴びせる。
堪らずアルナスは俺と距離をとる。
そしてアルナスは俺に飛びかかる。
身を反らして回避して、アルナスの腹に蹴りを入れ頭に肘打ちを喰らわせる。
俺とアルナスの距離は再び離れる。
ウウ…と威嚇の唸り声をあげるアルナス。
再びの睨み合いが続く。
静寂を打ち破ったのはアルナスの咆哮。
咆哮にはどうやら質量があるようで、咆哮とともに突風が吹き、俺は吹き飛ばされる。
ズダン、という轟音と共に背中に鈍い痛みが走る。
「空也さん!!」
「大丈夫だ、ルシフェルはハウエルの回復を!!」
叩きつけられた俺に飛びかかるアルナス。
「…っめんなぁ!!」
アルナスの脳天に俺の拳がめり込む。
奴はガアア、と鳴きながら空中で体勢を建て直す。
「ガアアアアアアア!!」
奴は再び俺に飛びかかる。
が、空中に在るアルナスの体を炎が撃ち落とした。
「よおおし、汚名返上といこうか!!」
「援護します。…破壊の象徴たる力よ。
今ここに我らに宿らん!!『リアース』!!」
体に力がみなぎる気がした。
ハウエルは治療が終わり立ち上がり、剣を構え、俺は拳を構える。
対するアルナスは、キラリと光る鋭い牙を、上下の口からちらつかせる。
「グルル…。」
俺はハウエルとアイコンタクトをとる。
(お前は左から回れ、挟み撃ちする。)
俺の言いたいことを理解したようで、黙って親指を立てるハウエル。
次の瞬間、俺は右に走り出す。
…そしてハウエルも右に走り出す!?
「「何故お前が右に回る」」
そんなことをしているうちにアルナスが咆哮する。
俺達は咆哮の突風を挟んで左右に別れた。
「今度こそ行くぜ…!」
俺達は同時に走り出した。
次回予告
アルナスとの戦いが続く。
果たして空也たちは試験合格なるか!?
…時を同じくして、ファルシオン学園には
あるギャング集団が現れていた。
空也たちに新たなる闘争が迫る!?
次回 Battle.17 VSアルナス(後編)
「アァ?お前が俺の何を知ってんだよ…?」