Battle.7 VS寝言
ソルの目の前まで来ると、不可解なめまいに襲われた。
それだけではない、何かおかしな感情……怒りのような、焦りのような。
――――殺せ、と。
心の底で何かがささやくと、意識が飛んだ。
★☆★☆★☆
「フ……ッ、ハハハハハ、ハッハッハハハハハハァ!!」
「や、やめろ! 空也!?」
突如、空也は狂ったような笑い声を上げ、ソルの首を絞めた。
ハウエルの叫びも、今の空也の耳には届かない。
この場にいる全員が空也の暴走に危機感を覚えていた。
……否、正確に言えば全員ではないが。
しかし、直後に空也は自我を取り戻し、ソルを開放した。
ルシフェルが神妙な面持ちで空也に近づく。
「失礼しました、空也さん。
どうやら先ほどの傷薬……調合を間違えていたようです。
回復魔法のほかに……異常魔法をかけてしまっていたようです」
「異常……魔法……?」
「ええ。一時的に対象となった者の戦闘意識を覚醒させ、戦闘力を倍増させる魔法……。
ただし敵味方の区別がつかなくなるため、使用には注意が必要な魔法です」
「あ……」
空也はようやく自分の置かれた状況を理解した。
恐怖か何かで失神しているらしいソルが、自分のすぐ側に倒れていた。
そして突然、思考を遮る激痛が体に走る。
「っ!!」
「調合ミスによる異常は体にも影響しますからね。体を休めたほうがいいでしょう」
「待て、その前に……」
言いかけて、激痛が走る。
言葉が遮られ、視界が歪んでいく……。
だが、意識が途切れる前にこれだけはやっておかなきゃな……。泡を吹いて失神しているソルの手から竜の幼生を抜き取る。
ルシフェルに竜の幼生を投げ渡す。キーキーと鳴きながら竜が空を舞う。
そして俺は、意識を、手放した。
★☆★☆★☆
『貴様あああぁぁぁぁぁぁ~~~~っ!』
ぎゃあああああああああーーーーーー! びっくりした!
な、なんだなんだ……? 夢……?
『久々の脳内通信だ。俺だよ、ソルだ。
今お前は意識を失ってる。お前の夢の中に通信中だ。
つーかてめぇ! 俺の竜の幼生を……奪いやがったなあぁぁぁぁ……!?
おかげで俺は2次試験不合格だ! どうしてくれる!?』
ちなみに脳内通信とはソルが使う便利なPCに搭載された念話魔法の事。
時空の管理神は時空に基本的に実体顕現できないため、よくソルが使っていた。
『誰に対して喋ってるんだお前……』
気にするな。つーかさっきの件、自業自得だ。そもそもお前が襲い掛かってきたんだからな。
1次試験で80点以上取れなかったのは誰だろうな?
『くぅ……! それは反論できない……』
んで、俺は一体……。
『2次試験が終わってから遠足が開始されたんだよ。……とはいってもキャンプみたいなもんだがな。
俺らアメジストもグループごとに宿泊だ。面倒くせえ。で、お前は多分医務室キャンプにいると思うぞ。』
医務室か。じゃあ今治療中?
『多分な。滅茶苦茶なスピードで回復してるから魔法による治療だろうな』
なるほどねぇ……俺も魔法が使いたいぜ……。
『って、お前は魔法使えないのか!?』
そうだ。魔力が無いんだから。使うに使えねぇ。
『なぁーんだ、そんな事。
そういう時にはな、購買でマナ・ストーンを買うのさ』
マナ・ストーン?
『そうだ。魔力を凝縮した石。砕く事で一時的に魔力を得られる。
それさえあれば、魔法の使い方さえ知ってれば使えるぞ』
でもなぁ……『マナ』ストーンがな『い』っ『た』って魔法が使えるヤツとか……
――――ぎぃぃぃぃやぁぁぁぁあああああっ!?
か、体がっ!?
★☆★☆★☆
「う……うぅ……。な、何が……」
「…………」
ムッとした表情の黎と……何か傷だらけの俺。
「あのー、黎さん?」
「…………。」
「怪我が増えている気がするのですが……」
「…………ふんっ」
俺は……何やったんだ……?
★☆★☆★☆
「あっははははははははは! ヒー面白ぇー」
「笑ってねぇで何があったのか説明しろよ」
全く分からずにソルに相談。ソルは魔法のようなもので俺の様子を見ていたらしい。
ソルはそれを見て大爆笑し、瞳に涙を浮かべている。……殴ってやりたい。
「まぁまぁ、ゲホッ、見たほうが、早いぜ、ハッハハハハハハ」
な、なんなんだ……?
ソルは魔法で空中に映像を投影した。
『まったく……空也さんはすぐ無理をして……』
あ、黎だ。
「黎様は保健委員に入ったらしいな」
ちなみに、ソルは俺や黎からすると部下にあたる。
なので黎の事は様付けで呼ぶんだが……俺とソルはどちらかというと悪友、といった感じなので、様付けはしないしさせない。
『私の心配ばかりして……自分の事は……ブツブツ……』
「言われてるぞ~、空也サン?」
「黙りなボウヤ」
『う……』
ここで俺の腕が動く。
『あっ、気がつきましたか? 空也さん』
ぺたっ
無意識に……だ。無意識に俺の腕が動いた結果、その……まぁ、黎の……触ってはいけない部分……まぁ、具体的には胸に手が触れた。
絶句する黎。
悲劇はこれだけではなかった。
『マ……ナ……い……た……』
爆発音が響いた。
「あっはっはっはっはっはっは!
まったくお前は……確かに黎様はまな板だけどな、もう少しお年頃の少女の気持ちを考えてあげてもいいだろう」
「ちがっ!? 誤解だ! そもそもあれはお前と脳内通信していたからだろう!?
そもそも俺が言ったのはまな板じゃなくて、《マナストーンがないったって…》と言っただけだ!!
ていうか、お前も今はっきりまな板って……」
「フッ、良いんだよ、黎様は此処の声は聞こえな……」
ゾクッ
背筋が凍るほどの恐怖がソルの背後から……。
「ソルさん……?」
決して怒っている声色ではない……んだが……息が詰まるほどの圧迫感……!
「2人で私のことを馬鹿にして……!
私はまな板じゃないです! 少しくらいの凹凸はあるんですよ! ……多分」
「待った! 俺のは誤解だ! 意図してまな板呼ばわりしたのはソルだけだ!」
「いやいやいやいや! それは言葉のあやで」
俺たちの間を巨大な魔法弾が通り抜けた。
頬が切れ、血が流れ出す。
「「…………!」」
「言い訳は無用です……! 覚悟してくださいっ!」
「「ぎゃあああああああ~~~~~!」」
次回予告
苦しみの2次試験は終わり、点数発表まではキャンプを楽しむことができる。
そこで空也、ハウエル、ルシフェルはグループを組んで、
ファルシオン・スタンプラリーを周る事にした。
そこに黎も加わり、波乱のスタンプラリーが幕を開ける!!
次回 Battle.8 VSスタンプラリー
「あぁいえ、何でもないですっ」