11話
(――はい、わたしにしかできないことなら、やります)
戸惑いと不安が滲み出た声で、誰かが喋っている。若い女の人――いや、女の子かもしれない。
ふわふわと、気持ち良い温もりに包まれながら、声だけが頭の中に響いている。
(わたしは、何のとりえもないただの女学生です。学校を卒業したら、父が紹介する方のもとへ嫁ぎ、子を生み育て、嫁いだ先の家を守っていく……ただそれだけの人生を、過ごして行くだけ。何も考えなくても過ぎ去っていく人生です)
一体どんだけ古い家に生まれた子なんだろう。今どき、卒業したら紹介された人と結婚とか、家を守るとか、ドラマでしか聞いたことがない。
それに、女学生って。明治時代じゃあるまいし、そんな言葉を使う人、初めて見たよ。
って、見たわけじゃないか。声だけなんだから。
ああそうすると、これってもしかして、夢……なのかな?
(わたしが何も考えずに過ごす時間の中で、たくさんの人が苦しんでいて……わたしが頑張ることで救われる人がいるのなら。それが、わたしにしかできないというのなら)
あれ、なんだろう。
この子の言い分、どこかで聞いたことがあるような気がする。いや、聞いたというより……
『わたし、頑張ってみます』
――ああ、分かった。これは、神様にこの仕事を引き受けた時のわたしと同じ、台詞だ。
ガタゴト、ガタゴト、と遠くで音がする。
程良い眠りを誘う振動は、心地よい揺りかごだった。身体を包み込む大きな腕は、安心の温もりを教えてくれる。
こういうの、おかあさんの腕の中にいるみたい、っていうのかな。
うんとちっちゃい頃には、当たり前のように感じていた感触を、今はおぼろげにしか思い出せない。少し、寂しい。家に帰ったら、お母さんに抱きついてみようか。びっくりされるかもしれないけど、たまにはいいよね。親子のスキンシップってことで許してもらおう。
ガタン、と世界が大きく揺れた。
ゆっくりと目を開けると、低い草木がちらほら生えている草原が目に入った。視界が、不規則に小刻みに揺れている。
あれ? ここは……馬車の上? わたし、眠ってた?
ぼんやりと周囲を見回すと、ちょうど馬車の横についていたフィオンさんが、ニコリと笑った。パッカパッカと馬の蹄の音が、ちょっと牧歌的だ。
「ハル、起きたのかい?」
「あ、はい。わたし、眠ってたんですね」
「ぐっすりとね。ヤーティンの腕の中は、よほど気持ち良かったみたいだね」
「うっ……」
からかうように言われて、わたしは顔を赤くした。
わたしは今、フィオンさんの言葉通りに、ヤーティンの腕の中にいる。……いやまぁ、正しくは、馬車に乗っているヤーティンの膝の上に、ちっちゃい子みたく乗っている、てな態勢だけど。
しかし、寝てるところを見られたのか。涎は……垂れていない、よね? 確認のためにヤーティンをぺたぺた触って、自分の口元を拭う。うん、大丈夫みたいだ。
視界の端っこで、フィオンさんが笑ってるけど気にしない。
ほっとしてから、御者台を見る。エイハブさんの丸まった背中が見えた。
さらに視線を左に動かすと、馬に乗っているディーンさんもいる。馬車の荷台には、すっぽりと全身にマントをかぶったヤーティン。その膝の上には、少年の格好をしたわたし。
エイハブさんの助手ってことで、変装している。……子ども用の衣装らしいんだけど、普通に着れるってどういうことなんだろう……。
ふ、深く考えるのはやめよう。
「今、どれくらいですか? と言うかわたし、どれくらい眠ってました?」
「もうすぐお昼ってところだよ」
と言う事は、そんなに時間は過ぎていないってところか。
ほっとしてから、ヤーティンの上からもそもそと動いて、御者台のエイハブさんの隣に移った。
ヤーティンが、ちょっと寂しそうな眼差しでじっとわたしを見てる……気がする。いやいや、気のせいだ気のせい。
わたしが隣に座ると、エイハブさんはちらりと横目で見る。手綱を握っているから、すぐに前に向いたけど。
「ハル、起きたの」
「……すみません」
「いや、君に手綱は任せられないからね。謝る必要はないよ」
それ、実は嫌味なのだろうか……。
エイハブさんを見るけれど、至って普通の表情だ。ってことは素で言った?
それもそれでなんかイヤだなぁ。
「もうすぐドゥーア遺跡に着くよ。何か感じることとか、普段と比べて違和感ないかい?」
「そういうのは特にありません」
「そっか……まあ、君自身は普通の子みたいだから、そういうものかもしれないなあ。あ、ペンダントのほうは? ヤーティンも変わりなし?」
「多分、変化はないと思います。大人しく座ってますし」
そっかー、とエイハブさんは少し肩を落とした様子で呟く。
この人、本当に世界は魔法王国を中心に回っているのかも。苦笑しつつ、わたしは前を向く。
低い草木がちらほらと生えているサバンナ風味の中を、のんびりと馬車が進んで行く。車や電車に乗りなれた身には、ゆっくり感じられた。
道は人の行き来で自然に出来た道なので、まったく舗装されていない。おかげで、馬車はガタガタと揺れて、乗り心地は良くはない。おまけに空気が乾燥気味のせいか、土埃もよく立ち上っている。でも、それはそれでいいかも、と思える光景だった。
本当に、ファンタジー映画に入り込んだ気分だ。
でもこれは映画じゃない。わたしにとっての現実。
ガタガタと揺れる馬車に、お尻がちょっと痛いと思うのは気のせいでもなんでもなく、わたしの感覚だから。
そうは思いつつも、のんびりとしたこの空気は、ひと眠りしたばかりのわたしを、もう一度眠りへと誘っているかのようだった。だんだんと瞼が重くなってくる。
ああそういえば、さっきはヘンな夢を見たなあ。
誰か、女の子の声だった。その子は何かを決意して、その理由がわたしがこの世界へ来ると決めた時のものと、ちょっと似ていた。
自分が安穏と暮らしている同じ時間、誰かが苦しんでいる。でも、それはわたしが頑張ることで何とかなるのなら――それなら頑張ってみよう、と。
我ながら、ひどく安易な理由だと思う。
だって、地球でだってわたしが何も考えずに生活している傍らで、貧困や戦争で死んでいく人達はたくさんいるのだから。でも、それをどうにかしようなんて考えたことはないのだ。にもかかわらず、異世界の危機に何とかしようと立ちあがっている。
ああ、なんだか罪悪感が湧いてくるな。
地球の人達、ごめんなさい。
戻ったら、もう少しボランティアとかに目を向けていこうかな。参加もしていくのがいいかな。ああ、報酬の1億円を使って寄付もしてみようかな。
きっと、できることはたくさんあるはずだ。
少しでも誰かのために動こうって思えるのって、いいことだよね。
うん、それならこの世界のために働くのも、決して悪いことだけじゃないってことだ。そう思おう。
ああ、そう思ったら気が楽になってきた。
がくん、と首が垂れて、わたしはハッとした。どうやら、また寝ちゃっていたらしい。
「ハル、寝るなら後ろに戻ったほうがいい。落ちるよ」
エイハブさんが横から言う。その通りだったので、わたしはちょっと恥ずかしい思いをしつつ、素直に荷台へと振り向いた。
と、ヤーティンが顔を上げてじっと何かを見つめていることに気付く。
何だろうと思って、視線を辿っていく。すると、その先に四角い建物っぽいものが見えた。その場所は遠くて、とても小さいからよくは見えないけれど、台形の形をしたピラミッドみたい?
なんだろう、あれ。
「ハル、どうかした? ……ああ、ドゥーア遺跡が見えてきたんだね」
緩く首を傾げたわたしに気付いて、フィオンさんがそう言った。なるほど、あれがドゥーア遺跡なのか。
納得しつつ、わたしはヤーティンのそばにいく。ヤーティンは視線を遺跡からわたしに戻すと、ゆっくりとした動作でわたしを抱きあげた。そして、そっと膝の上に座らせる。
ううむ、膝の上に座るなんて言ってないんだけど……まあ、いいか。固い荷台の上に座るよりはいい、ということにしておこう。
おとなしくヤーティンの膝の上に座って、やや時間が過ぎた頃、遠目には台形のピラミッドに見えたドゥーア遺跡に、到着した。
近くで見ても、やっぱり台形のピラミッドという印象は消えなかった。
四角い石を積み上げてできている遺跡は、雨風にさらされているだけあって、階段の一部が崩れていたり、石が欠けていたり、門の柱が数本倒れていたりと、かなり古びている。でも、建物のほうは壁が崩壊している様子がないのはすごい。そうとうしっかりした造りになっているんだろう。
馬車から降りて、遺跡の入り口らしき場所に立つ。
入口にドアはなくて、廊下が一本中に伸びているだけなので、みんなで入っていく。既に何度も遺跡調査された後なので、危険はないことは分かっているらしい。
にしてもこの遺跡って……
「何にもないですね」
廊下を進みながら、わたしは周囲を見ながら呟いた。
そうだ、この遺跡、何もないんだ。廊下が一本伸びているだけで、部屋に入る入口がない。最初の遺跡のような、魔法で出入りするための幾何学模様もない。正真正銘の、ただの廊下だ。
「そうだね、この遺跡も用途がまったく不明のままなんだ。構造上、謎の空白部分がたくさんあるはずだからその場所に部屋があるんだと思うけれど、そこへ至る道がまったく見付かっていない。中を調査しようにも、ここは教会管理の遺跡だから破壊するのは禁じられているしね」
「じゃあ、中がどうなっているのか誰も知らないんですか?」
「ああ、少なくとも僕は知らない」
「知ってるのは古代人くらいだろーな」
ディーンさんがつまらなさそうに言う。
フィオンさんが苦笑しつつ、そうだね、とディーンさんの言葉に同意した。それから、わたしに向く。
「ハル、こういった遺跡は公式認定されたものだけで100はあるんだ。非公式を含めると倍かな。そのどれもが、用途不明の謎の遺跡のままなんだけど、君が来たことで何か分かるかもしれないね。本音を言うと、俺はそれがちょっと楽しみかな」
「ああ、それは言えてるな。ついでに、見付けたお宝がイイ値段になってくれれば……いや、マジで睨むなフィオン」
「君はまだ懲りないのか! 先日も勝手に遺跡から物を持ちだして――」
ああ、フィオンさんの説教タイムが始まった。
ガミガミと始まった二人を横目に、エイハブさんがわたしにそっと近付いてくる。
「で、本当のところはどうだい? 何か変わったことは? 入口は分かるかい?」
この人はこの人で、自分の好奇心を満たすことで頭がいっぱいらしい。
わたしは苦笑しつつ、いいえ、と正直に首を横に振った。
「何もありませんよ。とりあえず、この廊下の突き当たりまで行ってみたいです」
「突き当り? そんなものはないよ」
「え?」
廊下に突き当りがない? そんなバカな。
そんなわたしの考えが表情に出ていたのか、エイハブさんは小さく肩を竦めた。
「この通路を過ぎたら、中庭らしき場所に出るだけさ」
「それじゃあ入口は? 遺跡を動かすスイッチは? スイッチの場所が分からないと、遺跡を動かせません」
「その場所に辿り着くための鍵を握っているのは、君だけだよ」
そう言って、エイハブさんはペンダントを指で示す。
入口が分からないなんて、話にならないじゃないか。どうしよう……。
「そんなの、ヤーティンに聞けばいいじゃねーか。こいつは魔法王国時代の生き証人みたいなもんだしな」
「あ、そうですね」
ディーンさんがヤーティンを指差しながら言う。
確かに、ヤーティンなら遺跡の入り口が分かるかもしれない。
わたしがヤーティンを見ると、ヤーティンはじっとわたしを見つめ返してくる。なあに? とでも言いたげな表情だ。ああ、可愛いなあ。
「ねえ、ヤーティン。この遺跡の入り口はどこにあるの? 教えてくれる?」
わたしがそう尋ねると、ヤーティンはゆっくりとした足どりで、真っ直ぐ前に歩き出した。
このまま廊下を突き進んで行く。
廊下はエイハブさんが言った通り、通り抜けとなっていた。すぐに出口の明かりが見え始める。ヤーティンはそのまま真っ直ぐ廊下を通りぬける。あれ、入り口は? と思いつつ、後ろをついて行くと、もとは噴水があったっぽい丸くくぼんだ場所に出た。その中央にある変なオブジェの前まで辿り着くと、わたしに振り返った。
そのまま、じーっと見つめてくる。なんだかとっても褒めてもらいたそうに見える。ものすごくそう見える。
しかし、肝心の入り口っぽいものがまるで見えない。
でも、入り口を教えてって頼んで、ここまで案内してくれたのだから、ここが入口のはず……だよね?
「えーっと、これが入口……ってこと、ですよね……?」
「みたいだね。うーん、何か仕掛けでもあるのかな」
エイハブさんが興味深そうに、噴水の周囲を調べ始めてる。
ディーンさんとフィオンさんも、周囲を見渡してそれらしいものを探し始めている。その間、ヤーティンはじっとわたしを見つめている。それはもう、じーっと。
ほ、褒めてくれるまで見つめられるんだろうか……。
「ええと、ヤーティン、教えてくれて――」
わたしはそう言いながら、ヤーティンに手を伸ばした。と、その手がヤーティンの手に掴まれる。
いや、掴まれるっていうほどじゃないけれど、ヤーティンはわたしの手を持つと、オブジェへと触らせた。
とん、と冷たい石の感触がしたと同時に。
「う、そ……!」
石に手が触れた途端、周囲の景色が塗りかえられたように、変わっていった。
土や草が生え放題で荒れ果てた周囲は、美しく整えられた緑と石畳の敷き詰められている場所となり、ところどころ倒れていた柱が、欠けた部分もなく力強くそびえたっている。
まるで、荒れ果てる前の遺跡を見ているような気分になる。
わたしの周囲も、なみなみと水が張られていて、オブジェの先端からキラキラとした水が噴き出していた。わたしはその水の上に立っているようだった。
柱と柱の間の道は、色んな人が行き交っていた。その服装は、ディーンさん達のものと似ているようで少し違う感じがする。なんというか……ちょっと昔っぽいような。
じっと見ていると、ヤーティンがゆったりとした足どりで現れた。真っ白い毛並みがとても綺麗で、金色の瞳が穏やかな光を灯して人々の間を歩いている。しかも、一体だけじゃない。3体ものヤーティンが、噴水の前まで歩いてきていた。
(ここ、もしかして過去のこの場所……?)
でも、いきなりなんで? わたしはオブジェに触っただけだ。
よく分からないまま、わたしは噴水の前に立つ3体のヤーティンをじっと見つめる。
みんな同じ顔に見えるようで、ちょっと目元とか口元が違うように見えるような気がするなあ、とヘンな感想を抱き始めたところで、ヤーティンの背後から声を張り上げて近付いてくる足音が聞こえた。
ヤーティンが3体、揃って後ろを振り向いた。
その体の隙間から、足早にこちらに向かってくる人影が見える。
男の人だ。年齢はわたしと同じくらいか、少し上かな。黒髪と黒い目をしていて、なんだか親近感が湧いてくる、日本人的な顔立ちをしていた。こっちの世界でも、ああいう顔立ちの人っているんだー。
「おまえら、ヒマだったらこっち手伝ってくれないか? これから両殿下の親睦会をやるとか言い出してさ、おまけに、その料理を殿下直々に作らせるとかワケわかんねーよあの女!」
ひとしきり愚痴ってから、男の人はヤーティンに幾つかの指示を出してから、噴水へと近付いた。石段に飛び乗ると、まっすぐにわたしのほうへと向かってくる。
あ、やばい、ぶつかる?
そう思ったけれど、すぐにそれは無駄な心配だったと気付いた。男の人はわたしの体をするりと通りぬけたからだ。これは幻のようなものなんだ。
後ろを見ると、わたしを通りぬけた男の人は躊躇いもなく噴水の中へと突っ込んで行った。何故!?
(――あ、もしかして!?)
わたしが閃いた瞬間、幻は一気に消えた。
「ハル?」
フィオンさんに名を呼ばれて、わたしははっと我に返った。
そして、ぐるりと周囲を見渡す。荒れ果てた遺跡の、枯れた噴水の真ん中に立っていることに、幻が終わったことを知った。
ヤーティンを見る。ヤーティンはじっとわたしを見ていた。
「うん、分かった。ここが入口なんだね?」
ヤーティンに尋ねると、ゆっくりと首を縦に振る。
ディーンさんが訝しげな顔で言う。
「ここが? 隠し扉でもあるのか?」
「最初の遺跡と同じカラクリですよ。このオブジェが、入り口なんです」
わたしはそう言って、あの男の人と同じように石段の上に乗る。そして、オブジェに向かって一歩を踏み出した。
ぶつかる衝撃が来るはずなのに、するりとした水の中に入り込む感覚がして、わたしは推測が正しかったのだと分かった。
薄暗い、窓のない部屋に出たからだ。
千年前の遺跡の中。今、そこにわたしはいる。
「でも、思ったより綺麗……」
人が入らず放置されていた場所のはずなのに、誇りっぽさはまるでなく、少し掃除がサボリ気味かな? と思う程度の汚れしか見当たらない場所だった。
山積みされている箱にも、埃はほとんど積もっていない。窓もなく密閉された場所だからだろうか。でも、空気は少しも澱んでいない。
それに、灯りもついたまま。壁にはめこまれている石が光ってるとか、いかにも魔法ですっていう感じだ。
あれ、でも魔法で明かりがついてるってことは、この遺跡はもう動いているってことだよね?
それなら、もしかして……
「神様?」
≪――カ、さん? ハルカさん? 聞こえますか?≫
「は、はいっ! 聞こえてます!」
≪ああ、良かった。つい先ほど、魔力の揺らぎを感じたのでもしやと思ったのですが、正解でしたね。無事に、二つ目の遺跡を稼働できたようでなによりです≫
「そう、なんですか? わたし、スイッチは探せていないんですけど……ただ、遺跡の中に入れただけっぽくて」
≪ええ、その場所は中に入ることで遺跡が稼働し始めたのですよ。なにぶん、倉庫なので人が中に入らなければただの箱ですから≫
「倉庫? ここ、倉庫なんですか?」
≪ええ、周囲にはたくさんの魔法道具があるので、注意してくださいね。うっかり触ると呪いに掛かる……≫
「ええ!?」
≪ということは、ありませんので安心してください。ほとんどが儀式用の道具のはずです≫
「無駄に怖がらせないでください」
≪ちょっとした冗談ですよ≫
この状況でそんな冗談はいりません。
≪ああ、そうだハルカさん。倉庫の中に銀色のカギを探してくださいね。最初の予定にしていたもう一人の守護者がそれで目覚めるので≫
「銀色のカギ? って、この中から探し出すんですか……?」
周囲は倉庫だけあって、まったく用途不明の物だらけだ。カギなんて小さなものを探し出せる気配はまるでない。
≪ええ、ペンダントが教えてくれますからすぐに見付けられますよ。――ああ、そろそろ時間ですね。ハルカさん、旅はまだ始まったばかりですが、どうか、次も遺跡を稼働させられることを祈っています。頑張ってください≫
「えええっ、ちょ、待ってください! 聞きたいことがたくさんあるのに! 神様? 神様!?」
何度か神様の名前を叫んでみるけど、もう返事はない。通信みたいなものが切れたのだろうか。
うーん、今回は何にも教えてもらえなかったな。
次の遺跡で聞くしかないのか。
「……とりあえず、銀色のカギでも探そうかな。あ、そういえばディーンさんやフィオンさんが続いて来ないけど、どうしたんだろ」
入口はもう開いているはずなんだけど。ま、しばらく待ってみようか。
ついでに、カギ探しでもしていよう。
でも、ペンダントが教えてくれるって、どうやってだろう。音声案内機能もついてるのかな?
なんとなくペンダントを掲げみる。すると、ペンダントがゆらゆらと揺れ出した。
自然の揺れじゃない。明らかに何かに引っ張られている感じの揺れ方だ。ってことは、この揺れている方角に銀色のカギがあるってこと?
少し考えてから、わたしはペンダントに導かれるまま、ペンダント探しを始めることにした。