表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Visitor at Daybreak  作者: つゆくさ
1/12

序章

ひどく憂鬱な気分で、彼はその場所を訪れる者を待っていた。

世界は乳白色に包まれていて、彼が腰掛けるイスも、カップを置くテーブルも、彼自身すらも、同じ色に染まっていた。それは、今まさに抱く彼の心情とはまるで正反対の色彩で、それがまた、憂鬱な気分に拍車をかけているかのようだった。


「時が、きてしまいましたよ」


ぽつり、と彼は呟いた。

その呟きは誰の耳に届くこともなく、乳白色の色彩の中に砕け散った。


「千年。それは、わたしにとっても決して短い時間ではありませんでした。ならば、あなたにはもっと長く感じられたことでしょう。その長き時間を、あなたは幸福に過ごすことはできましたか? 少しでも安らげる時間として過ぎていきましたか? 後悔に嘆き悲しんではいませんでしたか?」


彼はそこまで一気に言うと、ふう、と小さく息を吐いた。


「届かぬ言葉を紡ぐのは、虚しいものですね。けれど――約束の時は、きてしまいました。私は貴女の願いを叶えなければならない」


ゆらり、と乳白色の世界が揺らいだ。

それは合図だった。

彼がずっと待ち続けた、来客が訪れた合図。


こつん、とパンプスが床を蹴る音が彼の耳に届く。

続いて、


「……あれ?」


戸惑いを含む気の抜けた声が、世界に響き渡る。

彼女はまだこちらに気付く様子はない。乳白色に染め上げられたこの異空間を、まだ理解していないのだろう。その動揺が、同じ色に染まっている彼を景色と同化させて見えなくさせている。

彼は小さく、息を吐いた。

そして、立ち上がる。

ガタン、とイスが動く音に、彼女はびくりと肩を震わせてこちらを見た。そして、ようやく彼の存在に気付いたらしい。

目をまん丸にした。

その表情は、かつての友人を思い出させた。

それがまた、彼の気分を憂鬱にさせた。

けれども彼は、彼女に笑みを向けた。口角を緩やかに持ち上げ、できうるかぎりに彼女を歓迎しているように見せるために。


「ようこそ、いらっしゃいました。あなたをお待ちしていましたよ」


そして、両腕を広げる。彼女を迎え入れる為に。

”彼女”の願いを叶えるために。

彼は内心だけで呟く。


お待ちしていましたよ。宵闇を打ち破る光を抱く者。

――暁の訪問者よ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ