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暴れん坊辺境伯(暴れん坊王子)シリーズ

辺境伯領壊滅の危機! すい星激突の恐怖

作者: 水渕成分
掲載日:2026/06/10

暴れん坊辺境伯(暴れん坊王子)シリーズ二作目です

 辺境伯夫人クラリッサは鼻歌交じりでバルコニーに向かった。


 辺境伯シリルはドワーフの親方ファイブドラゴンマン=ニューゲートの家でしこたま飲み、今夜は泊って来るそうだ。


 クラリッサの方は最近のマイブームは天体観測だ。領内の商人の娘ジョケニーニ=ウエストリバーから贈られた望遠鏡で夜空を眺めるのが楽しい。


 だが、その晩はいつもと様相が違った。最近になって観測されたすい星の姿がここへきてやけに大きく見えるように気がしていたが、その晩はそれが顕著になってきたように感じられた。


(私の思い過ごしだといいんだけど)

 今のクラリッサは辺境伯夫人だ。領民の安全を守る責務がある。もうお気楽な侯爵家の末娘ではないのだ。


 クラリッサは意を決し、侍女を呼んだ。

「夜更けに悪いんだけど、ジョケニーニを呼んでくれる? 緊急事態かもしれない」


「それなら私が呼びに行ってきましょう」

 たまたまそこにいた執事のアーロンが答えた。


「そうしてくれると助かる。アーロンならヨシムネで行ってもらえれば早いしね」


「はっ」

 アーロンは白馬ヨシムネにまたがると、ジョケニーニを呼びに行った。


 ◇◇◇


 ジョケニーニ。辺境伯領にいくつかある有力な大商人の娘。商家は兄が継ぐので、本人は王都で天文学と占星術を学んでいる。そんなジョケニーニがこの時期に帰省してきていたのは辺境伯領にとって幸運だった。


 そろそろ寝ようかとナイトウエアに着替えていたら、白馬に乗った王子様ならぬ執事がお迎えにきて、「すぐに来てくれ、自分の背中にしっかりつかまって白馬に乗ってくれ」ときたものである。


 寝ぼけまなこのジョケニーニの顔は紅潮し、ポーッとしていた。


 しかし、クラリッサに促され、望遠鏡をのぞき込むと表情が変わった。

「紙を十枚。何か筆記用具と魔法計算機を貸してください」


 それまでしきりに気にしていたアーロンの視線のことも忘れ、九枚の紙を計算式で埋め尽くし、最後に図面を書いた。そして、言った。

「このすい星がこのまま進むと十日後にはこの城と城下町を直撃する可能性が高いです」


「やっぱり……」

 クラリッサも表情が変わった。

「アーロン。これは事情が変わった。シリル様をすぐ連れ帰って。そうね。ファイブドラゴンマン親方にも来てもらった方がいいかも」


「分かりました。」


「あの私はいったん帰ってよいでしょうか。実はクラリッサ様のお呼び出しでも、天文談義くらいかと思って、軽い気持ちで来てしまったので。いろいろ準備もしたいし」


「そうね」

 クラリッサはジョケニーニの申し出に頷くと、アーロンに話す。

「アーロン。先にジョケニーニを送ってあげて、シリル様と迎えるのはその後で」


「はっ」

 アーロンは頷くとジョケニーニの方を振り返る。

「お送りします。ジョケニーニ嬢、お手を」


「はっ、はい」

 ジョケニーニはまた赤面した。


 ◇◇◇


 その後もクラリッサは毎晩観測を続けていたがすい星の姿は日に日に大きくなっていった。こちらに向かうという状況に変わりはないらしい。


「では」

 すっかり辺境伯としての風格を身に着けたシリルが言う。

「領民はいったんクラリッサの実家のある侯爵領とシリル()の実家である王家に避難を受け入れてもらう。誘導はファイブドラゴンマン親方のところに頼むということでいいかな?」


「おうよっ!」

 鷹揚に頷くファイブドラゴンマン親方。

「うちの若い衆(わけえし)にやらせるさ。すい星なんぞに来られたんじゃ、おいらたちの採掘作業も鍛造作業もできたもんじゃねえしな」


「助かるよ。親方」


「それですい星が墜ちた後は……」

 クラリッサが続ける。

「騎士随伴の上で、王都の調査団に見てもらって、安全が確認された場所から随時帰国ということで」


 クラリッサの言葉にシリルとファイブドラゴンマン親方が頷きかけた時、アーロンが飛び込んできた。

「大変です。城下町でこんなものを売り歩いている奴らがいて」

 アーロンの手には竹筒が握られていた。


「おっ、おいっ!」

 血相を変えるファイブドラゴンマン親方。

「ドワーフのおいらにはすぐ分かったぞ。その竹筒には火薬が入っているぜ。危ねえ」


「えっ、ええっ」

 慌てるアーロン。

「何でもジョケニーニ嬢がこのままではすい星がきて、空気がなくなる。この竹筒で呼吸すれば助かると言ったという話で売られていたんです」


「そんな馬鹿な」

 クラリッサも血相を変える。

「ジョケニーニがそんなことを言うはずがない」


「おいおい、そいつあ拉致されて無理やり言わされているんじゃあねえのか」

 

 ガタン


 ファイブドラゴンマン親方の言葉に、すぐ立ち上がるアーロン。

「すぐ助けにいかないと」


「まあ待て」

 アーロンを制すシリル。

「私が行く。アーロンも来てくれ。ジョケニーニ嬢はクラリッサの大切な友達だし、アーロンの大切な人にもなりそうだからな」


「シリル様。お願いします。本当にジョケニーニは私の大切な友達なんです」


 クラリッサの言葉に頷くシリル。

「ああ、すまんが避難はクラリッサとファイブドラゴンマン親方に任せる。私は悪党の成敗とクラリッサの大切な友達にして、アーロンの大切な人にもなりそう人を助けに行く」


 ここに至り、やっと気が付くアーロン。

「あのシリル様。私の大切な人って?」


「全く私のことを『ヘタレ』とか言ったくせに、自分のことはてんでかい。まあいい。行くぞ」


「はっ、はい」


 ◇◇◇


 白馬ヨシムネに二人乗りで怪しい竹筒を売る店に駆け付けたシリルにアーロン。

「この店に詮議に来た。すい星騒ぎに乗じて、火薬入り竹筒を売りつけるとは何事だ」


「貴様は何だ」


「私の顔を見忘れたかっ?」

 

 アーロンが後ろでカッという音を拡声魔法で出す中、シリルは自分の顔を悪党どもに見せつける。


「へっ、辺境伯閣下っ」


「神妙にお縄につけ」


「くう、もうちょっとですい星騒ぎに乗じて、売りつけた火薬入り竹筒を爆発させて、城下町を混乱させて略奪ができたのに」

「かくなる上はもはやこれまで。かかれっ!」


 一斉にシリルに襲い掛かる悪党ども。しかし、ここでアーロンの拡声魔法が炸裂する。


 ちゃーちゃーちゃ ちゃちゃちゃちゃちゃちゃ ちゃーちゃーちゃー


 このBGMが流れるとシリルの剣技は数段レベルアップするのだ。これもアーロンの前世の知識からの教えである。


 悪党たちは次々倒され、後から駆け付けた騎士たちに捕縛されていく。ついには悪党の親玉もシリルの「成敗っ!」の声の下、打ち倒された。


「アーロン。ジョケニーニ嬢を助けに行け」


「いやそれは閣下が行かれては」


「いいから行け。この『ヘタレ』」


 ◇◇◇


 アーロンに救出されたジョケニーニの再度の天体観測で、すい星は城下町直撃ではなく、郊外のサンフィールド村とエイトプリンス村の境目あたりに墜ちると分かった。


 ファイブドラゴンマン親方の指揮の下、ドワーフの若衆が避難誘導する中、すい星はサンフィールド村とエイトプリンス村の境目の山地に墜ちた。


 火災が発生しなかったのは幸運だったというしかない。


 ◇◇◇


 シリルの依頼で王都から調査団が到着。危険なものではないが周辺はしばらくの間立ち入り禁止に。


 調査団の中にはこれもまたシリルの依頼でジョケニーニも加えられていた。拉致された心の傷も癒えたようで、目を輝かせて墜ちたすい星を眺めている。


「アーロン。ジョケニーニ嬢に声をかけてこい」


「え? いや私は」


「「とっとと行け」」

 最後はシリル・クラリッサ夫妻に二人かかりで言われ、アーロンはジョケニーニに駆け寄った。


 紅潮しながら笑顔を見せるジョケニーニ。それを見ながら二人に幸あれと思うシリル・クラリッサ夫妻だった。 


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
そういえば1910年にハレー彗星が接近した時にも、「彗星が接近する時に空気がなくなる」というデマが原因で騒動になったみたいですね。 そして「竹筒で呼吸すれば助かる」という触れ込みで売っていた竹筒に火薬…
やはりあの音楽が流れると、剣技がさえるのですね (*´艸`*)
今回は白馬の執事様でしたが、こちらもヘタレでしたね。 シリルも成長しましたね。 BGMで「シリルの剣技は数段レベルアップ」に笑ってしまいましたが。 すい星の被害もあまりなかったようだし、アーロンにも幸…
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