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9番ピッチャー鳴沢さん  作者: タケヒロ
第3章 ゆらぐ思い
7/15

1 非難

 高校硬式野球公式戦に出場した初の女子高校生ということで、全国的に話題が爆発した秋期県大会。予想していたことではあるけれど、賛否さまざまな意見が風にあおられる炎のごとく広まっていた。

 そして肌寒さを感じ始めるこの季節、来春まではこれといった大会もないため個人強化練習をメインにチームの能力アップが行われる時期だ。しかし、夏帆効果と言っていいと思う、近県のみならず遠方も含め、多くの高校から練習試合の申込みが殺到していた。

 併せて、女子生徒でも野球ができる高校という評判が広まり、滝岡高校宛に野球入学についての問い合わせも数多く寄せられ、同時にグラウンド脇の一般道路にはたくさんの見学者が見られるようになっていた。


 そして、今日も授業が終わり、気持ちを部活動モードに切りかえる夏帆と翔子。

「ねーねー、今日も夏帆目当ての見学者がいっぱい来てるかな?」

「どーだろうね? でもわたし、ジロジロ見られるのって嫌なんだよね」

「えっ、そうなの?」

「そうなのっ。わたしは翔子ちゃんとは違いますから」

 そしていつものように、この日も雑談をしながら昇降口へと向かう夏帆と翔子。

「でも、夏帆は今や、時の人だよ」

「んーー…………」

「有名人だよ、有名人。そしてあたしは、有名人の一番のお友達」

「ヤダよ、わたしは……」

「ええっ、一番のお友達が?」

「そっちじゃなくて。有名人になんてならなくていいよ。わたしは、ただ野球ができればそれでいいの……」

 ワクワクの翔子と戸惑いの夏帆。正反対の会話をしながら昇降口の下足箱へとやってきた。そして夏帆はいつものように、こげ茶色が傷みかけてきた通学用ローファーを取ろうと手を伸ばしたとき、何やら違和感を持たせる光景が目に入ってきた。

 

「えっ?」

 止めた手の先を改めて見てみると、それは一通の白い封筒だった。ドラマや妄想の世界でありがちなシーンだけれど、今まで野球に打ち込むばかりで全く男っ気のない夏帆には、想像すらしたことのない初めてのシーンだった。

「どうした、夏帆?」

 固まる夏帆に近寄りながら、その視線を追う翔子。

「えっ? ラヴレターじゃん!」

 翔子のキンキラ声は廊下の先まで響き、夏帆はその状況に恥ずかしさを覚えて周りを見渡した。 すると数名の生徒がこっちに目を向けてはいるけれど、幸いにも同じクラスの人も野球部員もいなさそうだ。それでも日に焼けた面長の顔が見る見る赤面し、封筒を慌ててバックにしまい込む夏帆。

「見せて見せて!」

 身体をはずませて楽しげにまくし立てる翔子。その言葉も姿も眼中に入ることはなく、不意打ちを喰らった夏帆はこういうときにどうしたらいいのかわからず、ただ速足でグラウンドへ向かうことしかできなかった。

「ちょっとぉ、待ってよ夏帆ぉーーーー!」


 そして夏帆はグラウンド、翔子はバックネット裏。マネージャーはよほどのことがない限りグラウンドに入ることはできず、部活動が終わるまで待つしかない翔子だ。

「夏帆め、うまく逃げあがって。でも、あたしはあきらめないよ。部活終わりを待ってなさい!」

 悔しさと楽しみを感じながらも、いつもと変わらない練習風景を横目に見ながら、これまでのスコアから選手たちの特徴をまとめる作業を行っている翔子……なのだけれど、この日は全く身が入らずに手は止まったまま、マネージャー用の机の右端に置いたスマホの時計に何度目をやったことか。結局マネージャーとしての作業をほとんど進めることができないまま、今日の部活動が終わった。

「お疲れ翔子ちゃん。わたし、着替えてくるね」

「お疲れ夏帆。さっきのラブレター、絶対に見せてもらうからね!」

「ラブレターかどうかって、わかんないでしょ!」

「まだ見てないの?」

「見るひまなんてないでしょ」

「そっか。でもその分、楽しみが大きいね!」

 いつものようにバックネット越しにひと言ふた言をかわすと、レフト側通路から正門に向かう翔子。そして夏帆はライト側通路から宿舎内の女子更衣室へと向かった。


「早く来ないかなぁ……」

 正門を照らす街灯の下、いつものようにスマホのゲームで時間をつぶす翔子。

「今はシャワーを浴びてるころかな……」

 でも今日はゲームどころではなく、ワクワクソワソワ。待つ時間の長さが気になってしかたがない翔子。

「そろそろ着替も終わったころでしょ!」

 独り言で自分の気持ちの高ぶりを抑えながら待つ翔子に、うす暗い照明に照らされた野球部員の声が届いた。

「あれ? 夏帆さんならもう帰りましたよ」

「えっ? 帰った? 一人で? いつの間に? あたしを置いて? 声もかけずに?」

「練習着のまま走って行きました」

「ウッソ!」

「ホントっす。それじゃ自分は、失礼します」

「あり、がと……」

 言葉づかいからして教えてくれたのは後輩だということはわかったけれど、それが誰だったのかは眼中になく、ただ一人たたずむ翔子。自分に声をかけずに帰ったことがショックなのか、封筒の中身を知ることができないことがショックなのかは定かではないけれど、それでも急いでスマホの通話履歴を開く翔子。

 でも、その手が止まる。


 親友、仲間、同士、一番のお友達…………


 悔しさと寂しさが同時に心をめぐり、そのままポケットにしまい込んだスマホ。そして、街灯に照らされる駅までの田んぼ道を、しかたなく一人複雑な思いで歩く翔子。その心境は、夏帆への思いが辺りの暗さのように深まっていくものだった。


 そのころ、情報に振り回されるかように夏帆フィーバーに沸く世間の高校野球事情。しかしその反面、女子生徒を試合に出す滝岡高校への否定的な考えをあらわにし、同意者を募ってはエキサイティングなトークを繰り広げる、打倒滝岡サイト、なるものが出現していた。


 神聖なる硬式野球グラウンドに女を立たせていいのか!

 伝統ある高校野球をバカにしているとしか思えない!

 滝岡高校野球部は女の手を借りないと勝てない!

 甲子園大会には女は出れない。滝岡高校はそんなことも知らないで、目指せ甲子園などと騒いでいる!

 男の中に女が一人、何考えてんだ!

 高校野球は、チャラチャラしたお遊びじゃない!


 その内容は、文として出すことができないくらいの誹謗中傷もあり、実名入りのうえかなり誇張された表現で日々更新されている。

 また、滝岡高校にも同じ内容のメールが届き、野球部にとどまらず学校中の話題となっていた。

「まただよ、夏帆ちゃんの悪口!」

「見た見た。あり得ない作り話まで載せあがって、ホント頭にくるよな!」

「いったい誰なんだ、こんなサイト作りあがって!」

 登校して来た生徒たちの朝の挨拶も、野球部の部活動も、このような会話から始まるのが当たり前になっていた。


 みんな、ごめんなさい……

 わたし、やってはいけないことをやっているのかな……

 わたしは、ただ野球をやりたいだけなのに……

 せっかくみんなのおかげで野球ができるようになったのに、そのみんなに迷惑をかけている…………


 夏帆、大丈夫かい?

 苦しいよな、辛いよな。

 代われるものならばお兄ちゃんが代わってあげたいよ。


 それでも毎日届く厳しい投稿に、野球部員たちは夏帆を励まし続けた。

「気にすることなんかないよ、夏帆ちゃん!」

「そうそう、どうせ誰かのイタズラだし!」

「ウチの高校が本気で甲子園を狙えるチームになったもんだから、ひがんでるだけだって!」

「う、ん…………」

 でも、みんなの優しい言葉が余計に夏帆の心を締め付ける……


 ところで、このようなときこそ一番に頼りたい翔子はというと……実は、白い手紙事件以来、全く話をしていないまま時間は流れ、二人の間に変な距離感が生まれていたのだった。

 もんもんとした夏帆の心をよそに秋晴れのいい季節。週末には県内外の高校と数多くの練習試合が行われていた滝岡野球部。


 そしてこの日も……

 カキーン!

「ヨッシャー!」

 タイム!

「ピッチャー交代、椎名!」

「すみません……」

 ベンチに戻ると三津田監督の前で帽子を取り、深々と頭を下げる背番号14番。

「どうした夏帆。最近おかしいぞ」

「すみません……」

 一人苦しむ夏帆の視線は助けを期待する翔子に向けられるけれど、頼りの翔子はイソイソとスコア付け。夏帆のその視線に乗せた感情は、自分の胸の中にしまい込むしかなかった。


「お疲れ様です三津田監督さん。今日は、お相手ありがとうございました」

「いえいえこちらこそ。わざわざウチの学校にまでお越しいただいて、ご足労おかけしました。おかげで貴重な体験ができました。監督さん、ありがとうございました」

「しかし三津田監督さん、さすがに手の内は見せられませんよね?」

「えっ? いや……ウチの鳴沢のこと、ですよね?」

「そ、う、で、す、よ」

「そういうわけではないのですが、鳴沢は今、体調がすぐれなくて、申し訳もないです……」

「またまたそんなこと言っちゃって。本当は鳴沢投手のことを研究されないように、バリアを張っているんでしょ?」

「バリアだなんて、そんなことはありませんよ」

「またまたぁ〜」

「いや、本当に、ですよ」

 最近の夏帆の投球は、まさにバッティングピッチャーそのもの。それを見た相手チームからは、いやみを込めた小言までいただく始末。滝岡高校野球部としても夏帆の今のありようでは相手チームに迷惑をかけてしまうと考え、しばらくの間は他校との練習試合を封印することにした。


「みんな、ごめんなさい……」

「何言ってんだよ夏帆ちゃん。調子の悪いときだってあるよ」

「わたしのせい……だよね?」

「確かに、打たれるとピッチャーが目立っちゃうけど、別に夏帆ちゃんだけが悪いわけじゃないよ。試合なんだし、必ず勝ち負けがあるんだから、気にしなくていいって」

「そうだよ。俺たちも夏帆ちゃんに負担をかけすぎていて、守備がおろそかになったてたところもあったんだと思うし」

「わたしのせいでみんなにも迷惑をかけちゃって……それに、わたしの…………ううん。ほんとにみんなに申し訳なくて……」

「そんなことないって、夏帆ちゃん」


 寒さを感じる季節になり、チーム内のしっくりとしない雰囲気を見すかすように冷たい雨がグランドを濡らす日々が続いた。そのため室内練習場での個人練習が多くなり、夏帆もピッチングの勘を取りもどそうと大和を相手に投げ込むけれど……いつもの夏帆の球筋は見られないどころか明らかに別物。

「どうかしたの、夏帆ちゃん?」

「ごめん、何か、おかしいよね、わたし……」

「何かあるんなら遠慮しないで言って。俺でよかったら何でも聞くよ」

 いろんなしがらみを一人で背負う夏帆にとって、暖かく届いた大和の言葉に、つい心の奥にしまい込んでいたものが出てきそうになった。

「わたしの気持ちがわたし自身の…………でもそれはわたしが……」

 しかし、視線を反らしてその言葉を胸の奥へと飲み込んだ夏帆。

「ううん、ありがとう。わたし、ロードワークするね」

 そう言い残し、そのまま背を向けて室内練習場の壁際を走り出した夏帆。段々と離れて行く細い背中、そのどこか寂しげな後ろ姿をただ見つめるだけの大和だった。


 そして今日の練習メニューが終わり、いつものように汗を流して帰路につく部員たち。

「夏帆ちゃん、一緒に帰ろう」

「えっ、うん……。待っててくれたの、大和君、猛君?」

 秋の夜長という言葉通りに、この時期は日が沈むのが早い。滝岡高校の周りは田んぼと果樹畑、すでに辺りは真っ暗で、防犯用に設置されている多くの街灯に照らされている一本道を、夏帆をはさんで大和と猛の三人は最寄り駅までトボトボと歩いた。そして、とにかく夏帆の胸の内を探ろうと、むりやり出した大和と猛の言葉。

「夏帆ちゃんをねたんでの嫌がらせなんて、気にしないでいいから」

「そうだよ、こんな汚いやり方しかできない小心者なんか、すぐに消えてなくなるよ」

「夏帆ちゃんの実力を見れば誰もが納得するし!」

「夏帆ちゃんのおかげでウチのチームもまとまってきたし、勝てるようにもなった」

「夏帆ちゃんは滝岡の絶対エースだよ!」

 電車の発車時刻に間に合うかどうかなんて全く眼中にない大和と猛。余計な話も交えながら夏帆をできるだけ元気付け、夏帆の本当の気持ちを聞き出すための雰囲気作りに必死だった。


 しかし……


「もう……」

「んっ?」

「もういいの……」

「はっ?」

「わたしの存在も何もかもがなくなれば……」

「えっ?」

「わたしの身体がわたしの身体じゃない。手も指も、心も、何もかもがわたしじゃない」

「いや……」

「わたしなんか、野球をやらない方がよかった!」

「なにを言っ……」

「わたしの全てが、消えてなくなればいいの!」

「そんなこと……」

 今までこらえていた何かが爆発したように、心からの声が叫んでいた。そして、全てをなくしてしまいたい衝動のままに駆け出していた夏帆。


 二人が優しいから、つい甘えたことを言ってしまってごめんなさい。


 大和も猛も、夏帆の心の奥底にあるものが見えていなかったことに気づいた気がした。夏帆の心のキズは測り得ないものなのだということを。

 それ以降、野球部グラウンドに夏帆の姿を見ることはなくなった「しばらく休みます」の言葉だけを残して。


 夏帆、一人で悩んで一人で解決しようなんて無理すぎる。自分がいなくなれば、なんて考えないで、もっと彼らに甘えてもいいんじゃないか、それが仲間だろう?


「監督さん……」

「どうした祥子、深刻な顔をして?」

「夏帆、大丈夫でしょうか?」

 あの時以来、夏帆との距離を縮めるどころか、ますます気まずい雰囲気が加速してしまっていた翔子。それでも内心は夏帆のことが気がかりでしかたがなかった。

「んーー。とにかく、夏帆の気持ちが落ち着かないことには何ともしようがない。今はそのときが来るまでそっとしておこう」

 心配する三津田監督はじめ部員たち。部活動中も合間を見つけては自然と夏帆の話題になっていた。特に大和と猛は夏帆の最後の言葉を聞いていたこともあり、じっとしてはいられないほどだった。

「でも監督さん、このままっていうのも、やっぱり心配です……」

「確かに大和の言う通りだな。それじゃ、ここは同じクラスで親友の翔子に頼むことにしよう」

 ということで翔子には夏帆のことを観察して、何かにつけて三津田監督へ伝える役目が与えられた。

「いいか、どんなに細かいことだろうとも、きちんと知らせてくれよ」

「はい、わかりました」

「とにかく何とかしなきゃいけない。俺たちの分まで頼んだぞ、翔子」

「うん、わかった。猛君、大和君」


 教室にいても一人で考え込むことが多くなっていた夏帆は、その心境そのものに学校も休みがちになっていた。ボクの病気のことを聞いていた祥子は、まさか夏帆も野球につぶされてしまうのではという心配が頭をめぐり、部活動帰りは大和や猛と一緒に夏帆のことについて話しをせずにはいられない日々を送っていた。

「実はさ、夏帆ちゃんが部活に来なくなる前の日の部活んときにさ、なにか言いたそうにしてたような気がすんだよなぁ……」

「ああ、それな。大和、ずっと気にしてるもんな」

「ふぅ~ん、そうなんだ。大和君に何を言おうとしていたんだ、夏帆は?」

「んーー、わかんないけど……」

「祥子、夏帆ちゃんのことで思い当たることとかって、ない? 大和のためにもさ」

「俺のためってことじゃねーだろーよ」

 と言いつつも、その返事を気にする大和は、自然と翔子に視線を向けている。

「どーだろーー?」

「翔子ちゃん、何でもいいんだ。ちょっとしたことでも、なにか気になることとかでも?」

「気になること、んーー、特には……」

「例えば、こんなことがあった、あんなことがあったとか?」

「こんなこと、あんなこと? んーー、あるとしたら白い手紙の王子様、かなぁ……?」

 白い手紙の王子様というワードを初めて聞いた大和と猛は、息を合わせたように翔子に言葉を放った。

「「白い手紙の王子様?」」

「そっ!」

「何それ? 何で今まで言わなかったんだよ翔子!」

「いや、別話かなって……」

「夏帆ちゃんの一大事なんだからさ、どんなことでも言ってくんないと、翔子!」

「あっ、うん、ごめん。でも、野球とは関係ないことだと思ったから……」

「それで翔子ちゃん、その白い手紙の王子様って、どういうこと?」

 翔子は、数日前に起きた下足箱でのできごとを話した。

「誰それ?」

「わかんない」

「彼氏?」

「わかんない。でも、下足箱のラブレターを見つけたときに夏帆もビックリしてたから、彼氏というよりは……告られた?」

「告られた? だ、誰に?」

「わかんないってば」

「そんでその手紙は、どんな内容だったの?」

 大和と猛の質問攻めに、翔子はそのときの状況を思い出し、だんだんと感情が沸き立ってきた。

「いや、夏帆ったら見せてくんないままグラウンドに逃げ込んじゃったし、部活終わりも知らないうちに帰っちゃってて、あたしは正門のところに置き去りにされたんだよ! 寒いなかずっと待ってたのに、夏帆ったら一人で帰っちゃったんだよ! 信じられる?」

「まさか夏帆ちゃんが? 翔子をないがしろにするなんて、あり得ないよ」

「でしょ! あたしたち親友だよ……いや、そう思っていたのはあたしの方だけで、夏帆はそうは思っていなかったのかな……」

「翔子ちゃん落ち着いて落ち着いて。それよりも、それでその白い手紙の王子とはどうなったの?」

「実は、それ以来、それがきっかけで、夏帆とは話をしなくなっちゃったんだよね。そんなつもりはないんだけど、お互いに避けてるっていうか……」

「避けてるって……そこが一番肝心なとこじゃないか翔子ちゃん!」

「しょうがないでしょ。あたしだって、まさかこんなふうになるなんて思ってもみなかったし! じゃあ大和君が夏帆に直接訊いてみたら、今あたしを問い詰めたみたいにさ!」

「い、いや、別に、祥子ちゃんを問い詰めたわけじゃ、ないけど……」

 心配だからこそ気になってしまう大和の口調は強く、それと比例して顔の表情も強ばっていた。


 一方、猛は冷静なのか他人事なのか、落ち着いた声で話を展開させる。

「夏帆ちゃんはちょっと控え目だからなぁ、少し強引な男がいいかもな」

「うんうん、そうだね。あたしもそう思う」

「何言ってんの君たち?」

「甲子園出場経験のあるスポーツ系の大学生とか」

「そうそう、夏帆の専属トレーナーとして特別個人指導なんて!」

「ピッチャーは投げたあとのケアが大事なんだ、僕に任せて!」

「うわっ、ありがとう。なんて言って、身体をあずける夏帆。」

「じゃ、まずはここに横になって、この辺の筋肉が強張るからしっかりほぐしてやらないと、なーんてね」

「ヤメロヤメロ! なに言ってんだよオメーエら! よくもまあそんなデタラメを!」

「なんだよ大和。冗談だよ、冗談!」

「勝手な想像でわけのわかんない物語を作ってっからだろー!」

「落ち着こうよ、大和君」

「そうそう、そんなに興奮すんなって……」

「オメーらがそうさせてんだろーよ!」

「まっ、大和は夏帆ちゃんのことが好きだからな、気持ちはわかるけどよ」

「えっ! 大和君そうなの?」

「えっ……?」

「やっぱりそうなんだ。あたしも何となく、そうなのかなぁって思ってはいたけどね」

「翔子ちゃんまで何だよ! オマエたちじゃあるまいし!」

「俺たち? いやっ、俺たち、そんなんじゃねーし……なぁ?」

「そっ、そうだよ。大和君こそ、変なこと言わないでよ……」

 チラチラ目を合わせてモジモジしながら照れ顔の猛と祥子。さすがキャッチャー大和の頭脳プレー、形勢逆転か!

「だって猛は一年生の部活動見学んときから、祥子ちゃんのことかわいいって言ってたしな」

「えっ、ホント猛君?」

 大きな目を真ん丸にして喜びを表す祥子は、その勢いで猛を見つめた。

「よ、余計なこと言うなよ大和!」

 慌てる猛だが、猛も翔子を見つめる。

 トボトボと歩く三人。変な空気が田舎道を包んでいた。


「そんなことはどうでもいいんだけどよ!」

 思わず夢見心地を味わっている猛と翔子。それを現実に引きもどす大和は、強い口調をぶつけた。

「問題なのは夏帆ちゃんだろ!」

「あっ、そうだった、夏帆の話してたんだった。忘れちゃダメだよ猛君」

「忘れてねーよ。っていうか、翔子もだろ!」

「へへっ」

「それで翔子、白い手の紙王子って誰?」

「だから、わかんないって」


「打倒滝岡サイトと何か関係あるのかな……」


「わか……えっ?」

「えっ?」

「んっ?」

 目の前まで来ていた最寄り駅から届くうす暗い照明、その灯りに映し出されるそれぞれの顔を見合わす三人。たまたま思いついて出た大和の言葉に、想像のみだった会話が一気に現実味をおびたように思えた。そして、得体のしれない不気味ささえ感じる空気に包まれた気がしたのも事実。

「かっ、関係ないでしょ! たぶん……」

「何となくタイミングが同じだなって思ったもんだからさ……」

「でも、あたしが見る限りでは、手紙は夏帆の下足箱に直接入ってたし」

「そうか……」

「ってことは、その手紙を入れたのはウチの学校の誰かってことだろう? ウチの学校のヤツが、野球部打倒滝岡サイトなんか作るか?」

「んーー……確かに、猛の言い分にも一理ある」


「お知らせいたします。上り方面の列車が間もなく発車いたします。ご乗車の方はお急ぎください」


「あっ、発車だ! じゃぁ、あたし行くから!」

「お、おお。気を付けて、翔子ちゃん」

「また明日な、翔子」

「うん、バイバイ!」

 急いで電車に飛び乗る祥子の後ろ姿を目で追いながら、反対方向行きのホームへと向かう大和と猛。そして、大和の切り出した言葉が大きく引っかかりなりながら三人はホームを後にした。


「ところで猛、ウチの学校の誰なんだろう?」

「打倒滝岡サイトの犯人?」

「いや、夏帆ちゃんに手紙を書いたヤツ」

「そっちね……」


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