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9番ピッチャー鳴沢さん  作者: タケヒロ
第2章 選手へ
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2 夏帆の秘密

 冬の訪れを感じさせるようにときおり冷たい風が吹き、秋のなごりの淡い日差しがそれをやわらげながら降り注ぐ滝岡高校野球部グラウンド。

 選手たちは試合用のユニフォームを着用して一塁側ベンチに集合していた。ウインドブレーカーで身を包んではいるけれど、やっぱりメタボを隠しきれない三津田監督は、何やらウキウキしている?

「いいか、今日は以前から予定していた練習試合だ。鳴沢コーチを迎えて、また夏帆もユニフォームを着用して挑む初めての試合でもある」

「「ハイ」」

 隣町の高校と行う練習試合。夏帆も試合用ユニフォームを着用してはいるけれど、番号のない細い背中はみんなの整列する一番はしに並んで立っていた。

「いいか、前回の三校合同の試合後の練習の成果を、そしてみんなの今の力を、さらにこの先の滝岡高校野球部の希望を見せてくれ!」

「「ハイ!」」


 滝岡高校先発ピッチャーはエースナンバーを付けた二年生の菅里志郎、威勢よくマウンドに登り右腕をグルグル回すパフォーマンス、いつもと変わらない姿だ。

「よーし、俺が抑えてやるから見とけよ!」

 そして、いつもと変わらない試合前の強気な発言。

「始まったよ、いつもの菅里節」

「あの勢いが、段々と愚痴になって文句になって怒号を吐くんだよなぁ」

「試合終了が怖いよ……」

 試合前にもかかわらず重たい試合展開を予想する選手たち。

「おいおい、キミたちは菅里と同学年だろ。少しは応援したらどうだ?」

「あっ、監督さん。それはそうなんですけど……」

「キミたちからも菅里に伝えてほしいんだ。菅里もチームの一員としての自覚を持ってみんなと同じ目線でプレーすれば、それが結果にも現れるし信頼にもつながるがるってことを」

「監督さんの期待に応えたいのは山々なんですけど、菅里にはまともな話は通用しませんし、あの性格は小学生のころから変わらないんです。小中学校の先生方や野球クラブ時代の指導者の方々も、こと細かに言い聞かせていましたけど、結局あの調子なんです」

「そう言わずに……」

「すみません。菅里に関してだけは、触らぬ神にたたりなしです……」

 三津田監督もわかっていること。しかし、このままでは菅里は孤立して人を信じられなくなってしまう。また、小中学校とピッチャーを経験してきたからこそ、本当のエースになって欲しいという思いが三津田監督の心の中にあるのだ。

「ヨシッシャ、初回を三人で終わらしてやるぜ!」


 対戦相手は、近年力をつけてきたとはいえ格下のチーム。しかし、この試合も菅里のパフォーマンスが空回りしてしまい滝岡高校は大苦戦。フォアボールでランナーを出してはストライクを取りにいった球を狙い打ちされ、打たれてはふてくされて人のせいにし、あげくの果てにフィールド上にもかかわらず怒号をぶつける始末。

「打たせれるんだからしっかり守れよ!」

「守れる範囲ってのがあるし……」

「どんな打球にでも飛びつけよ! そんな生半可な気持ちしかないから勝てる試合も勝てねーんだぞ!」

 暴言を吐きながらグラブを地面に叩きつけるというだらしなさ。まぁ、これがいつもの菅里ではあるけれど、いくらなんでもという思いにもなる。

 ベンチではしかめっ面でその状況を見つめ、腕組みで拳を隠していた三津田監督。

「ここまでか……」

 小さい声でそうつぶやくと、そのまま主審の方へと足を踏み出した。


「タイム願います!」


 菅里が活躍できるのは身内同士の紅白戦だけと見切りを付けて、四回表ノーアウトのところで菅里をマウンドから降ろして二番手に嶋内を指名した。

 嶋内は菅里と同学年で、いつもはバッティングピッチャーを務めている選手だけれど、菅里のあまりのふがいなさにベンチに入れていたのだ。しかし、嶋内は菅里の威圧的な態度に押されてしまい、思うような投球練習ができていないことと、何よりも高校入学後は試合経験がないことが心配な投手であった。

「嶋内、もう菅里がグチャグチャにした試合だ。勝ち負けではなく、キミの経験のために投げてこい!」

「は、はい!」

 嶋内をマウンドに送り、投球練習をさせている間に三津田監督が動いた。この練習試合は元々監督同士がツーカーの仲ということもあり、直々に三塁側ベンチへ足を運び、相手監督と何やらニヤケた顔で話をしている。

 それを相手監督も受け入れたようで、三津田監督の口が「よろしく」と動き、ニコニコしながら相手ベンチを出た。


 そして一塁側ベンチに戻ると早速二年生キャプテンにつぶやく声で指示を伝える。その声はスコアラーとしてベンチに入っている遥香と翔子にも届いていた。

「遥香先輩、次、夏帆です!」

「だね!」

「いよいよこの時がきたんですね、ワクワクしますね!」

「それはそうなんだけど、正直、監督さんが言うように男子と比べるとどうなんだろうって……」

「はい、確かにそれは。考えてみれば、やっぱり怖いです」

 祈るような心境で見守る翔子と遥香をよそに、一塁側ブルペンでウォーミングアップを始める背番号のないユニフォーム。


 試合は六回まで進み嶋内も何とか踏ん張ってはいたけれど、投球が真ん中に集まり始めたところを狙われて相手高校の得点は遂に二桁になってしまった。

 しかし、その裏の攻撃で滝岡高校自慢の打線が爆発して大量点を加えた。これを好機と見た三津田監督は七回表、滝岡高校が守備に着くタイミングで立ち上がった。

「夏帆!」

 ブルペンで投球練習をする夏帆に声をかけると、メタボ体形はキザにマウンド方向へ人差し指を向けた。

「大和、夏帆を頼むぞ」

「はい!」


 夏帆が試合に出る!

 待ちこがれ、届かなかったマウンドに、今、遂に立つ!


 三津田監督の指示を受けて小走りでマウンドに向う夏帆と大和。

「よかったですね、夏帆さん」

「はい。でも緊張しますね」

「夏帆さんも緊張するんですね?」

「そりゃしますよ」

「そ、そうですよね」

「あっ、わたしのこと、夏帆、でいいですよ」

「そ、そう。じゃ、そう呼ばせてもらおうかな。夏帆…………さん」

 試合よりも「夏帆」と呼ぶことのほうが緊張してしまう大和の純粋さが、久々の投球に胸踊らせて緊張している夏帆の心をやわらげた。

「ハハハッ、大和君おもしろい。結局、さん付けてるし」

「は、はい」

 敬語になってしまう大和。中学時代に感じた夏帆の偉大さが、今も印象深く残っているからだ。


「ところで大和君、わたしの球ね、少しフレるから」

「えっ?」

「あと、ジャイロも見づらいかも」

「はっ?」


 グラブで口元を隠すことはしないけれど、マウンドの足元を整えながら下を向いて話し出す夏帆。

「えっ? この前の投球と何か違うの?」

「あんな素直な球投げてたら打たれるでしょ、私の球?」

「そ、そ、そう、だよね! やっぱり、何か秘密があるんだよね、夏帆さんの球!」

 嬉しさとワクワク感が同時に沸き上がってきた大和。中学時代に味わった違和感を持つ球の正体が、今度こそわかるとばかりに!

「大和君はミットを構えててもらえば大丈夫だから」

「わかった。夏帆……ちゃん」

「ハハハッ、今度は、ちゃん付け?」

 調子に乗り、勢いに任せて「夏帆」と呼んでみようとした大和だったけれど、そうはいかない男の純情だった。


 良かったな夏帆。その笑顔、久しぶりに見るよ。

 マウンドで、思う存分暴れてこい!


 澄んだ空

 雄大にそびえる山々

 彩りの街路樹

 見慣れたグラウンド

 踏みしめるマウンド

 噛みしめる野球

 そして、ありがちな練習試合


「フゥーー」


 マウンド上で天を仰ぎながら大きく一息。

 そして、投球練習七球が与えられたその第一投。大和のど真ん中に構えたキャッチャーミットをめがけ、夏帆の試合用ジャイロボール。


 バシッ!

 何だこのグルグル!

 初めて見る球に目を丸くする大和。間髪入れずに「次」と夏帆の口が小さく動いた。コクリとうなづきミットを構える大和。


 バシッ!

 思わず体が強張り、片膝を付きながらキャッチした大和。

 それはそうだろう。夏帆特有の試合用ストレートは、女子でも男子に通用するために仕込まれた、父直伝のストレートだ。

 まともに見ると、かすかにフレている。大和は夏帆の言葉を信じてミットを動かさずキャッチしていたけれど、思わず目まいでも起こしたかと思ったほどだ。

 しかしさすが大和だ。初めて見る夏帆の魔球に一瞬焦りを覚えたけれど、むしろ夏帆の秘密の投球に納得と満足感を味わい、とても強い興味を示していた。


「プレイ!」


 試合は再開し 、低くかがんだサイドスローからの記念すべき練習試合の第一球!


「よっしゃっ!」

 コキン!

「えっ?」


 バッターからすればしっかりと捉えたはずの打球なのに、なぜかボテボテのサードゴロ。打ち損じたのかという違和感に、思わずもれたバッターの声だった。そして続くバッターも凡打して簡単にツーアウト。


 そうなのだ。捉えているのに打ち取られているという不思議感。夏帆が「フレる」と言った球は、ここに来るだろうと見定めた位置からほんの少しだけズレてくる。バッターの目ではわからない程度のズレだ。これではまともに芯に当たらないのは当然。


 これが夏帆の投げる、魔球なのだ。


「ヨシ、あと一つ。丁寧にイコーゼー!」

「オーケー!」

「夏帆さん、後ろは任せて!」

「うん。お願いね、みんな!」

 続くバッターは、前の打席で長打を放ち大量得点をあげたスラッガーだ。まずは変化球でカウントをかせぎ、遊び球には首を振って三球勝負を狙う夏帆。勝負球として大和のサインにうなづいたのは、真ん中高目のジャイロボール。

 さっき長打した真ん中高めを選択した夏帆に対して焦りの色を見せる大和。一方、夏帆は平然と投球モーションに入る。


 大和、ここは夏帆に任せよう。ボクも驚くほどの投球術を見せてくれるから。


 夏帆が選んだジャイロボール。特徴として、球の回転は通常の縦回転でも変化球の横回転や逆回転でも、もちろん無回転でもない。風車を正面から見たようなジャイロ独特の回転をするのだ。そのため空気抵抗が通常とは違ってその軌道は沈まない。逆に言えばバッターの手元から浮かび上がってくるように見える魔球だ。

 このバッターは前の打席で真ん中高めを長打してる分、自信を持って手を出してくる。そこにジャイロボールを投げ込んで空振りを取る!


 ストライクスリー!


「ヤッター! 監督さん、夏帆やりましたよ!」

「あぁ、そうだな!」

「凄いです夏帆ちゃん! 男子相手に凄い! 凄すぎます!」

「そうだな! 本当にそうだ!」

 記録員としてベンチに入っている翔子も、そのアドバイスをしている遥香もビックリ!

 もちろん選手たちも盛り上がりを見せている。そしてその騒ぎにまぎれてはいるけれど、もしかしたら一番驚いているのは三津田監督かもしれない。

「本当に、こんな女子選手がいるのか? しかもピッチャーで……」

「スゴイぜ夏帆ちゃん!」

「これが新生滝岡だ!」


 さてはともあれ、相手バッターをキリキリ舞に取るきゃしゃな夏帆。みんなの目には、弱い者が強い者に挑む姿がとてもカッコよく見えたことだろう。

 三津田監督も驚いているのか喜んでいるのか、どっちも重なったような表情を見せながら両手を強く叩いて夏帆を迎える。

「ナイスピッチだ、夏帆!」

「ありがとうございます」

「夏帆ちゃん、ナイス、ナイス!」

「凄いよ夏帆ちゃん! まさかこれほどまでとは思わなかった!」

「夏帆ちゃんは実戦向けのピッチャーだね!」

 マウンドからもどってきた夏帆をベンチの全員がハイタッチで迎え、思いがけないスターの誕生に盛り上がりを見せた。

「よし、この勢いで追加点だ!」

「「ハイ!」」

「つないでいこう!」

「「ハイ!」」

 興奮冷めやらぬところではあるけれど、三津田監督の言葉に気持ちを切りかえるベンチ。


 その静まる流れに乗じて、グラブを手にしながら大和の隣に腰を下ろす夏帆。

「ナイスピッチ、夏帆さん」

「ありがとう。それでね大和君、わたしのフレる球、内緒ね」

「えっ?」

「これはお父さんとわたしの秘密なんだ。知ってるのはお兄ちゃんだけ」

 グラブの手入れをしているふりをしながら小さな声で伝えた。

「わかった。でも、一人だけ教えちゃダメ?」

「えっ、誰に?」

「猛、青野猛。アイツも荻野原クラブで対戦したときから、夏帆さんに興味を持ってるんだ」

「そうなんだ。じゃあ猛君にだけ、あとは絶対内緒ね」

「うん、わかった」

 大和の言葉を確認しながら、そしらぬ顔のままグラブの手入れを続ける夏帆。

「……ところで、また、さんにもどってる」

「んっ? あっ! でも、やっぱり夏帆さんが凄いから、つい、さんづけになるんだよ」

 照れ笑いをする大和に、何となく心を許せる人かなと感じている夏帆も自然と笑顔になっている。


 そして、その後も夏帆の球をまともに打てるバッターはなく、流れは完全に滝岡高校ペース。勢いに乗じてさらに得点を加えた滝岡高校は大差で勝利した。

 練習試合とはいえ久々の快勝。その大きな要因となった投手夏帆の話題で大盛上りしながら、今日の部活動は終了した。

 新たな戦力になごり惜しいけれど電車通学をしている部員が多く、話題の続きを話しながらジャージ姿で駅へと流れていた。

「お疲れ、遥香!」

 その声に長い髪をなびかせながら振り向くと、まるで夕日の輝きを後光のように背負う菅里が近づいて来た。

「お疲れ様です」

「おぅ、翔子もお疲れ」

「ちょうど今、翔子ちゃんと、夏帆ちゃんの話をしてたんだ」

「はーん。しかしカホ、あんな球じゃ、いつか打たれるぜ。今日は初お披露目だし、監督も打たないようにって相手監督に頼んだんじゃねー!」

「そんなことはないでしょう?」

「そんなことあるよ! じゃなきゃ…………」

「夏帆ちゃんにエースナンバー取られたりして!」

 夏帆の高校野球に賭ける思いも知らないで……とばかりに菅里の言葉に噛み付いた遥香。更に、その通りとばかりに翔子の表情も硬い。

「何ぃ! この俺からエースナンバーを取れるわけないだろ! 俺が滝岡のピッチャーをまとめてるんだし! 監督からの絶対的な信頼もある!」

「あーー、ハイハイ……わかってる、わかってるって。滝岡のエースは菅里君しかいないよ。えーーっと、そう、ただ、気を抜かないでって言いたかったの…………」

「そうか。そういうことなら俺は大丈夫だ! どう見ても俺を越えるピッチャーじゃねーし! まっ、滝岡の一本柱と言われる俺だから!」

「危ない危ない。またやこしいことになるところだった」

「んっ? 何か言ったか?」

「いや、何も……」

 逆ギレする菅里に驚き、それをなだめる遥香のうまさに感心し、上りの電車時刻に合わせて道を急ぐ翔子たち。


 そんな会話をしていることなどわかるはずもないけれど、その遥香や翔子たちの後ろ姿を遠くに見ながら田園の広がる道路を駅へと向かう大和と猛、そして夏帆の三人は下りの電車時刻に合わせてゆっくりと歩きながら話し込んでいた。

「そんな球を投げてたんだ」

「そうなんだ、夏帆さんはいろんな球を自在にあやつってるんだ!」

「中学んときもスゲーって思ったけどさ、実際を知ると想像以上だな。さすが光輝さんの妹さん、鳴沢兄妹だ」

「ありがとう。お兄ちゃんのことも覚えていてくれたんだ」

「もちろんだよ。だって、軟式野球界から突然現れてきたと思ったらさ、ウチら自慢の荻野原打線を完全に封じ込めた怪物だぜ! そんな光輝さんカッコいいし、忘れるわけないよ!」

「そして、次の年には夏帆さんが登場してきて、俺たちに打たせてくれなかったし!」

「まぁ、そうだったね」

 久しぶりの試合に気持ちが高揚した夏帆。二人のことを信頼して球種の正体の他にも、ボクの今現在の話もしていた。

「えっ? あの、光輝さんが……」

「うわさには聞いていたけどさ、そんなにひどいことになっていたなんて……」

「何も知らなくてゴメン」

「ううん、そんなことないよ。ただ、わたしはお兄ちゃんのためにも野球をやりたいの。お兄ちゃんにマウンドで投げるわたしの姿を見せたいの。できるだけ多く、できるだけ大きな試合で!」

「それで、甲子園?」

「うん」

 ボクの病気回復への思いを込めた高校野球にかける夏帆の本気度、その重さを知り感銘を受けた大和と猛。三人は中学時代のライバル、そして今は夢を共にする同志として、後ろからふり注ぐこの夕日のごとく、心を熱くしていた。


 後日、大和と猛は改めて夏帆の投げるフレる球を打てるか試してみることになった。フレる球、という目で見て球の軌道をすくい上げるように合わせると、わりとドンピシャの打球を飛ばすことができた。

「球筋がわかると、狙えば打たれる球かもな……」

「フレる球を活かすために、ジャイロボールや変化球をうまく組み立てて効果を発揮させる、ということか……」

「さすがお二人さん。お父さんに言われている配球を見抜きましたね!」

「え、お父さん! あっ、ごめん、コーチからも言われてたの?」

「そう。特に中学の養成クラブに入ってからはこと細かにね」

 大和と猛は顔を見合わせた。この親にしてこの子ありといったところだ。


 そして、夏帆の戦力に期待を込めつつ日々の部活動をこなし、街中が雪化粧に包まれたころには年が明け、室内練習場での基礎トレーニングからグラウンドへと場所を移動するころには春の大会へ向けた新メンバーが発表された。

 エースナンバーは三津田監督により期待されて父により指導を受け、だいぶ投手らしくなってきた二年生の嶋内。しかし、経験不足からくるメンタル的な面が投球に影響が出ないか不安がある。

 背番号10、二番手ピッチャーとして一年生からスピード重視の椎名。しかし、力任せによるコントロールの乱れに不安がある。

 背番号11、三番手となるピッチャーにも一年生から先を見越して選ばれた鎌上。器用なところを買われたがピッチャーとしの経験は少なく、嶋内と似ているところに不安を感じる。

 そして背番号14は夏帆に与えられた。ただし夏帆は条件付きの背番号である。

「14番、復活だね!」

「えっ? 大和君、養成クラブのときのわたしの背番号、知ってたの?」

「当たり前だよ! 光輝さんから受け継いだ14番!」

「荻野原クラブはハッキリ言って、14番兄妹にはかないませんでした!」

「猛君まで……」

 大和、猛と話す夏帆の声は明るくはずんでいた。他愛もない会話に盛り上がれるいい関係がきずかれている。そして、このメンバーと野球ができる夏帆の喜びはひとしおなのだ。


 夏帆、一歩前進したな。でもこれから進む道は変わらず平坦なものではないかもよ。くじけるな、お兄ちゃんも付いてるからな。


 そういえば……

 部員の誰もが触れなかった、と言うか単純に忘れていたのか、元々なかったかのような扱いになっていたのは、二年生元背番号1番の菅里志郎である。

 新たな戦力として編成された投手陣には選ばれなかった菅里。三津田監督のはからいでバッター転向という指示を受けたのだが、それからの部活動に姿を見せることはなかった。そして時をおかずして野球部を退部、滝岡高校からも姿を消していた。

 部員たちがそのことを知ったのは、学校の正門に彩る桜が今にも咲きそうなおだやかな日のこと。進級を目の前に気持ちを新たにし、甲子園談義に話が咲いたときのことであった。


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