1 夏帆の答え
週末の休みが明け、またいつもの一週間が始まった。授業と部活動を終えてジャージに着替えた大和と猛は、今日の自分たちの練習内容を振り返りながら帰路につこうとしていた。そして正門を出ようとした瞬間。
「大和君、猛君!」
暗くなった正門を照らす街灯の灯りに、うっすらと映し出されたシルエット。
「夏帆ちゃん! どうしたの?」
「もしかして、俺たちのことをずっと待ってたの?」
コクリ
「寒かったでしょ?」
「ううん、大丈夫。それよりも二人に相談があって」
「そうなんだ。それなら、ここは人が来るから……」
大和の言葉にうながされながら、三人は街灯の灯りが届きにくい所まで移動し、正門の周りに植えられた大小の木々にまぎれて話しを始めたた。
「心配かけてごめんなさい……」
「そんなことないよ」
「そうだよ。気にしなくていいよ夏帆ちゃん」
「だって、嫌がらせのメールとかサイトで、みんなに迷惑かけちゃったし……」
「迷惑だなんて、誰も思ってないし」
それぞれの部活動帰りの生徒たちが正門を通り抜けて行く。中には野球部員もいたけれど、夏帆たちに気付く生徒はいなかった。
「わたしがいなくなれば誰にも邪魔されなくなるから、みんな野球に集中できるかなって思ったんだけど……」
「やっぱり、そんなふうに考えてたんだね……」
「でも……」
「んっ?」
「でも、もし許してもらえるなら」
「……」
「……」
「またみんなと野球がやりたい。お兄ちゃんのためにも!」
おぼろに照らす月灯りでは、はっきりとは見えないお互いの顔。むしろそれが夏帆の背中を押す力となり、思いの全てを伝えることができた。
「何にも遠慮することはないよ!」
「そうだよ、夏帆ちゃんはずっと野球部員じゃないか!」
「でも、また皆に迷惑がかからないか心配で……」
「それは大丈夫!」
「えっ?」
下校する生徒たちに気付かれないようにヒソヒソと話す声なのに、思わず力が入る大和と猛。
「もう嫌がらせの手紙、来なくなったでしょ?」
「最近は、確かに……えっ? どうしてそれを!」
「実は、翔子から聞いていたんだ」
「翔子ちゃんから……」
「うん。それで翔子が監督さんに相談しててさ、そこから俺たちも一緒に何とかしなきゃってことで……」
「そうだったんだ」
「でも、事情を知ったときはビックリしたよ。夏帆ちゃんが直接嫌がらせをされていたなんて……」
「翔子もそうだけど、大和が一番心配したんじゃないか?」
「当たり前だろう、俺たちの大事な仲間だぜ!」
「大和君……」
「それで、夏帆ちゃんにだけ苦しい思いをさせるわけにはいかないからって、監督さんも協力してくれいるんだ」
「そうなんだよ夏帆ちゃん。監督さんの指示で、翔子ちゃんと翔子ちゃんの弟と、そして猛と俺で動いていたんだ。もちろん、他のみんなには内緒でね」
「そうだったんだ」
「何を言っても翔子が心配しててさ、夏帆ちゃんを無視して悪いことをしたって、苦しんでいることに気付いてやれなくて申し訳なかったって言いながらね」
「翔子ちゃんが……」
「その翔子ちゃんを心配してるのが猛だけどね」
「よ、余計なこと言うなよ大和!」
一度は翔子に相談をした夏帆、しかし、それも自分から諦めて自分の中に封印したことだった。
「それでね、今まで調べたことでわかったことなんだけど、実は夏帆ちゃんの下足箱に手紙を入れていたのは、同じ野球部員だったんだ」
「えっ……滝岡の野球部員?」
「うん。ショック、だよね?」
「うん……野球部員っていうワードは聞きたくなかったな。でもわたしの心のどっかで、そうなんじゃないかなって思ってたかも……」
自分を信じ、一緒に苦しんでくれる仲間たちだと思っていたのが野球部員。けれども、そういう人ばかりではないということが、夏帆にとっては一番辛いところだ。
「でもね夏帆ちゃん、監督さんに止められてるから、今は誰がやっていたのかって、夏帆ちゃんにも言えないんだけど、その野球部員っていうのも犯人ではないだ」
「えっ?」
「そいつは事情がわからないまま、夏帆ちゃんの下足箱に手紙を入れるだけの役割りだっんだ」
「どういうこと?」
野球部員と聞いて正直ショックを感じていた夏帆だったけれど、ただの役割という言葉にちょっとだけ気が楽になった。
「まだ詳しくは言えないんだけど……実はね、手紙を置きにきたそいつを翔子の弟が見つけて監督さんに伝えたんだ。それで今は監督さんが直々に動いてくれてる。だから安心して大丈夫だよ、夏帆ちゃん」
「猛君……」
「俺たち野球部みんなは、どんなことがあろうが夏帆ちゃんを守るって決めてるからさ!」
「大和君……」
「みんな待ってる。もちろん翔子も」
「翔子ちゃん……」
夏帆は感激し、みんなを信じることで迷いを吹き飛ばせると確信した。そして、その決意の分だけ涙が止まらなかった。
「お疲れさまです!」
自分たちの世界に浸っていた三人に、正門の方から元気の良い声が届いた。この暗闇の中でよく気付いたものだと感心しながら、誰かはわからないながらもとりあえず声をかけてみる猛。
「お疲れ、気を付けて帰れよ!」
「はい……あれ、夏帆さんじゃないっすか!」
夏帆は一言も発していないうえに制服姿。それなのにこの暗闇のなかから夏帆を見つけた一年生部員。そして、ツカツカと三人のもとに駆け寄って来た。
「なんだ、康大じゃないか」
すぐ近くまで来てやっと気付いた大和と猛。
「はい。夏帆さん、お久しぶりです」
「ひ、久しぶり、お疲れさま……」
と答えてはみたものの、正直誰なのかは夏帆の記憶にはなかった。
「この三人でいるってことは夏帆さん、もしかして野球部にもどって来るんですか?」
「当たり前じゃないか!」
夏帆よりも先に大和が答えてみせた。それほど大和も猛も嬉しいのだ。
「ほんとっスか! 姉も喜びます」
「……?」
「ああ、こいつ、翔子の弟」
声には出せない「えーーーー!」を心の中で叫ぶ夏帆。
「あ、ありがとね、弟君……」
「はい!」
自分のことだけ考えているときにでも、翔子や三津田監督、大和に猛、それに翔子の弟、みんなが動いてくれていたことに、これが絆というものなのだろうと感じていた夏帆。
「夏帆さん、帰ってきたら夏帆さんの投げる球、また打たせてください!」
「えっ?」
「こいつも中学んとき荻野原クラブだったんだ。そんとき夏帆ちゃんと対戦してるんだぜ、なっ、康大」
「はい。自分は小学生のときから鳴沢光輝さんに憧れていました。といっても年齢の違いで対戦することができませんでした。でもその分、夏帆さんと対戦することができて凄く楽しかったんです。だけど、何であのとき夏帆さんの球を打てなかったのか、今でも不思議です……」
「だよな、みんながそう思うんだよ、夏帆ちゃんの球は」
「でも今は、鳴沢コーチが二人のお父さんだと聞いてすごく納得しているんです。だってコーチの言うことを聞いて練習していると、自分の野球が出来あがってくるのがわかるんです!」
「生意気言ってるぜ、コイツ!」
「自分はそんな夏帆さんやコーチと野球ができて、とても嬉しいです!」
生き生きと話す大和と猛、そして初めて話す康大までも。そのはずむ言葉や笑顔が、夏帆の心にはいろいろな意味を含んで届いていた。
先日、父から言われた「みんなの気持ちに応えなくていいのか」「みんなを信じてみたら」その意味を、今の夏帆はしっかりと理解している。
「みんなありがとう。わたし、野球やる。お兄ちゃんのために、そしてみんなのために!」
「うん、野球やろう!」
「滝岡野球部、絶対エースの復活だぜ!」
暗闇だということも忘れて四人のトーンは、ビンビンにはち切れていた。
「しかし康大、オマエ、この暗い中でよく夏帆ちゃんのことがわかったもんだな」
「はい。自分、目だけはいいんっス! どんなに細かい物でも、まぎらわしい物でもしっかり見えるんっス!」
「その目を野球に活かせよ!」
「えっ……、あっ、はい……」
大和に突っ込まれ猛にちゃかされる康大。その会話に、夏帆のあふれ出す涙は気づかれずに、笑いに変えることができた。
そして後日、誰よりも早く姿を見せてグラウンドを整備する細い練習着姿があった。
「おはよー、夏帆!」
「遅いよ、翔子ちゃん!」
「ヘヘ、ゴメンゴメン」
「夏帆ちゃんおはよー!」
「おはよー」
「夏帆先輩! もどってきたんスね!」
「おはよーみんな! これから、またよろしくね!」
そして何のへただりを感じることなく、活気あふれる部活動が行われた。
いや、それ以上のパワーが野球部グラウンドを輝かせていた。
そして、これからの日々は一雨ごとに寒さを増し、街路樹の落葉が一層寒さを助長する季節。そのため室内練習場を使い、個々のプレーを高めるための練習がメインになっていた。
その室内練習場の一角にある監督室、そこからは練習場全体を見渡すことができるような設計になっている。逆を返せば、どこからでも監督室が見え、窓越しに監督と選手が話をする光景がよく見られるのも、滝岡高校野球部室内練習場の特徴だ。
そして、この日も二年生選手の姿が窓越しに見られた。
林崎仁。夏帆と同学年で入部初グラウンドのときに、清野遥香マネージャーに話かけられたことで皆にうらやましがられた林崎仁である。
その林崎と三津田監督が、何やら強張った表情で向かい合っ座っているのがガラス越しに見えていた。
「林崎、いつも悪いな。みんなのエスコート役をしてもらって」
「いいえ、これは自分から望んだことですし、むしろ僕はみんなの役に立てて嬉しいです」
「そう言ってもらうと助かるよ。これからも頼むぞ」
「ハイ」
林崎は二年生になると同時に、レギュラー争いからは離脱し、周りの選手の補助役にまわっていたのだ。勇気のいる決断であるとともに、自分の実力を見定めての思い切った判断だ。
「ところで林崎、夏帆がターゲットにされて、学校を含め嫌がらせを受けていることは知っているな?」
「はい」
「それについて何か林崎が知ってることはないか?」
「いや、特には……」
「それじゃ、夏帆の下足箱にときどき入れられている手紙は?」
「それは自分です」
「誰から頼まれたか言えるか?」
「はい、以前ここの野球部にいた菅里さんです」
「何のために?」
「えっと、それは……すみません。個人的な話しになるので勘弁していただけませんか?」
「そうか。それじゃ、話を変えよう」
「すみません……」
困った表情をした林崎に、追い詰めるような雰囲気になっては話を進めることはできないと考えた三津田監督。一度、話題をそらして改めて夏帆の話題にもどすタイミングを計った。
「ところで、この騒ぎになった原因は自分にあると考えた夏帆は、みんなのことを思って野球部を辞めようとしていたことは知っているか?」
「えっ、夏帆ちゃんが、ですか?」
「その様子だと、知らなかったようだな」
「はい、練習試合でも成績を残せませんでしたし、渦中の存在ということで部活動に顔を出し辛いのかと思っていましたけど……まさか、そこまでとは知りませんでした」
林崎の言葉が終わるのを待っていたかのように、三津田監督はディスクの引き出しを開け、数十通の手紙を取り出した。
「こ、これは!」
焦りと同時に険しい表情を見せる林崎だったが、間髪を入れない方がいいと判断した三津田監督は、そのまま話し出した。
「悪いが、夏帆の下足箱に入れられた手紙をあずからせてもらった」
「ど、どうして、ですか……これは、プライベートではないのですか?」
「林崎、そのプライベートの中身を見てみろ」
無作為に数枚の便箋を取り出す三津田監督。林崎の険しい表情の意味を察していたからこそ、手紙の内容を見せたのだ。
「ま、まさか……信じられないです!」
愕然とする林崎。さっきまでの険しさは消え、今度は複雑な表情を見せながら、しかも呼吸も少し早くなっている。
「詳しく話してくれるか?」
「は、はい……」
自分が運んでいた手紙、その内容を知った林崎。夏帆や野球部、それに学校に対して申し訳ない気持ちがジワジワと湧き出してくるとともに、信用していた菅里への怒りと、幼馴染として悲しい感情も込み上げていた。
そして少しの間を取り、気持ちを落ち着かせてから口を開いた。
「菅里さんからはよく連絡がきて、ちょこちょこ会っていました。そのたびに夏帆ちゃんの悪口から始まって、何だかんだ言いながらこの手紙を渡されていました」
「なるほど。悪口を言いながら渡す手紙のことを、林崎はどう思って受け取っていた?」
「菅里さんとは幼馴染で、ひねくれた性格をしているのはよく知っています。なので照れ隠しの悪口であって、本当は夏帆ちゃんに好意を持っているんだと思っていました」
兄のように慕っていた菅里の恋を、何とかしてやろうという思いから手紙の渡し役を引き受けていたという。
「なるほどな」
「だとすれば、気になることがあります!」
「んっ、気になること、とは?」
「はい、以前、試合でサインが筒抜けだったり、ウチの選手の特徴を突いた攻めを受けているって言ってましたけど……そういったことも菅里さんから細かく聞かれてました」
「なんだって?」
「なんだかんだ言っても、滝岡野球部のことに未練があって、気になっているんだろうと思っていました……」
「それで林崎は、サインの中身や選手たちの苦手克服の練習などを教えていた、ということか?」
「はい、すみません…………」
思いもしなかった林崎の言葉にビックリした三津田監督。灯台下暗しとはまさにこのことだと実感した。
「そうか。林崎、よく話してくれた。ありがとう」
「いえ。それよりも自分が夏帆ちゃんやみんなを苦しめる手助けをしていたなんて……みんなに会わせる顔がありません……」
「そのことについてはオレに任せてくれ。林崎の口からは何も言う必要はない、いいな」
「すみません、ありがとうございます」
菅里を疑うことなく、訊かれるがままに答えてきた林崎。それが、滝岡潰しの法則とやらにつながっていたとは思いもしない展開だ。人の良さが仇となった林崎も辛いだろう。その思いやりを見せる三津田監督のなぐさめの言葉が、狭い部屋の中で林崎を包んでいた。
同時に、試合のたびに感じていた違和感も解消することができる。そのことについては素直に受け止める三津田監督だった。
後日、部活動開始とともに野球部員たちはミーティングルームに集められ、三津田監督が真顔で正面に立った。
「一連の嫌がらせのメールやサイト、それに夏帆への手紙は、菅里とその仲間たちがやったことであることがわかった」
「菅里って、あの菅里さんですか?」
「そうだ」
「なんなんですかそれ!」
「自分のいた野球部に!」
「やっていいことと悪いことの区別もつかねーのかよ!」
「こっちは、どんな思いで部活をやってると思ってんだ!」
「いくら元先輩だからって、許せないですよ!」
当然、怒りが込み上がるミーティングルームは騒然となった。
「キミたちの気持ちはわかる。というか、オレも正直同じ気持ちだ。だからといって、暴力を暴力で返すことはドン底に落ちることにしかならない!」
「「……」」
「菅里への対応は学校に任せてくれ。キミたちは楽しく野球をやっている姿を見せるんだ。それと、勝つ姿もだ」
「なるほどです。自分ありきと思っている菅里さんに、自分がいなくなったと思ったら楽しげに野球をやって、自分がいなくなったら急に勝てるチームになったということを見せつけてやるんですね?」
「それは菅里さん、悔しがるだろうな!」
「楽しみだぜ!」
だからといって部員たちの腹の虫が収まらないことは三津田監督もわかっている。しかし、ここは夏帆のためにも事を荒立てずに済ませることが最善の策と考えた三津田監督、そしてそれを理解した選手たちだった。
「しつこいようだがあえて繰り返す。この件については学校が責任をもって解決すことを約束する。だからキミたちは、くれぐれも菅里に対してアクションを起こさないように。いいな!」
「「ハイ!」」
また、菅里への情報元となっていた林崎のことは、夏帆、大和、猛、翔子、広大にだけに伝えられ、林崎の立場や事情を理解するとともに水に流すことにを了承した。
それでも、この出来事で責任の一端は自分にもあると思っている林崎に、それならばと学校側から一つの役目が与えられることになった。
それは菅里を表舞台に出すことなく、密かにこの問題を終わらせる計画内容だ。元、滝岡高校の生徒だった菅里に対する、学校側からの配慮が伺えるものでもあった。
そして……
お疲れ様です志郎君、林崎仁です。
実は今、滝岡高校野球部への嫌がらせが起きていて大きな問題になっています。学校にもいろんな関係者が来て、自分たちもいろいろ事情聴取されています。まるでテレビドラマの取り調べみたいにです。
志郎君だから話しますけど、このことは外部に言わないように強く言われてますので、くれぐれも内緒にしてて下さい。
すると、メールを送信した直後、すぐに林崎の元へ菅里から電話がかかってきた。
「もう犯人はわかってるのか? 捕まったらどうなるんだ? オマエ、余計なことを言ってないだろうな?」
「えっ? 志郎君、犯人はって? 捕まったらって? ウチの高校で何が起きてるのか知ってるんすか?」
「いや、その……勘だよ勘。ピッチングもバッティングもそうだろう? 俺は勘で野球をやるタイプだからさ」
調子のいいことを言っている菅里だったけれど、幼馴染みの林崎には明らかに動揺している菅里の姿が見えていた。
「それで、その問題はどうなってんだ? バレそうなのか?」
「悪いことをしているわけてすから、それ相応の罪は課せられるでしょうね。関係者の人も『特にこういうケースの犯罪は現代を象徴するもので増加の一方にある。だから、今のうちから抑止力を持たせるためにも厳しく罰せられるはずだ』って言ってました」
「そ、そ、それで俺は……いや、犯人は……」
「んー……絶対に内緒ですよ。学校からも関係者からも絶対に口外しないように強く言われてますから」
「も、もちろん、大丈夫だ」
「ある程度のメボシは付けているようです。今は犯人を泳がせてその行動パターンを見ているそうです。その後、場合によっては逃げられないように包囲網を張るかもらしいですよ」
「お、俺じゃないからな! いいか、俺じゃないって言っとけ!」
「どうしたんっすか志郎君、そんなに慌てて?」
「い、いや……みんな何か勘違いでもしてるんじゃないかって思って。それでその犯人捜しは…………」
「あっ、すいません。学校から電話が入ったんで、これで切ります。また連絡します」
「おい! 俺じゃねーぞ! 俺は手紙もメールも『プツッ』送ってねーから『プープープー……』な!」
学校側からアドバイスを受けた通りに受け答えをし、無理に電話を切った林崎。
そして次の日、さっそく三津田監督にそのことを報告した。
「菅里らしいな。自分がやりましたって言ってるようなもんだ」
「はい。なんだか、すみません」
「キミが謝らなくていいさ。君は学校のため、そして野球部のために働いてくれたんだ」
「はい。そう言っていただくと助かります」
「あとは、菅里がこれからどう出てくるかだ。少し様子を見よう。何かあったらすぐに教えてくれ」
「はい、わかりました」
案の定、あれほど悪口を並べた学校へのメールはパタリと来なくなり、毎日のように更新されていた打倒滝岡サイトも存在すらなくなっていた。
危うく滝岡高校野球部、特に夏帆に大きな被害を与えられてしまうところだったけれど、部員たちの絆が夏帆を救い、自分たちを守ったのだ。
「いいか、これで余計な問題はなくなった。この件に関しては一切掘り返すことのないように。また、他人に話すようなことでもない。わかるな!」
「「ハイ!」」
ふたを開けてみれば菅里の嫌がらせ。一人では何もできないからこそ身近な仲間を集め、堂々とできないからこそサイトを利用し、小心者だからこそコソコソとした卑劣な犯行だった。
よかったな夏帆。嫌な思いをしたけれど、それ以上に仲間を信じることの尊さを学べたし絆も強くなった。
みんなに感謝だ。
そして何よりも、そんな仲間に出会えたことが、夏帆の一番の宝物だぞ。




