高雄奇襲攻撃
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1941年台湾高雄海軍基地の朝は抜けるような冬の青空に包まれていた。
街から離れた港に停泊する連合艦隊・第四艦隊の艦艇には色鮮やかな満艦飾が施されていた。基地内の司令部から兵舎に至るまで門松が立てられ、兵士たちは年に一度の「正月特別給食」である雑煮や汁粉に舌鼓を打っていた。
「いいよな・・・こういう時も、電探員だけは非番がないんだからな」
高雄要塞の地下、厚いコンクリートに守られた電探室。最新鋭の「一三号電探」のブラウン管を見つめる若き電探
員は溜息混じりに零した。画面上には円を描く走査線が虚しく回転し続けている。
そこへ、別の電探員が重箱を持って入ってきた。
「おーい、餅を持ってきたぞ! 厨房の親父を拝み倒して確保した特製だ。食うか?」
「食うに決まってるだろ寄越せ!全く、正月からこの暗い部屋で波形を見てるのは俺たちくらいなもんだ」
空腹に耐えかねた電探員が、同僚の手から餅を受け取ろうと席を立った、その刹那だった。
回転する走査線の上に、不自然な、そして強烈な輝点がいくつも浮かび上がった。
「・・・何だこれ? 電探に妙な反応があるぞ。かなりの大群だ」
「あ? なんだ故障か?・・・ああ、あれだろ。空軍から『正月の祝賀飛行で爆撃機が数機来る』って連絡があっただろ。それの事だよ気にするな」
同僚は餅を口に運びながら笑った。だが画面上の輝点は1つや2つではない。10、20、50とそれは瞬く間に増え続け、一つの巨大な「塊」となって高雄を目指していた。
その時、窓ガラスがガタガタと異様な音を立てて震え出した。何事かと思った電探員たちが窓の外の高雄港の広大な海原を見つめた瞬間、彼らの言葉は凍りついた。
水平線の彼方から黒い点のような機影が空を埋め尽くすほどの数で押し寄せていた。それらは帝国軍の40式艦上戦闘機ではない。翼には不気味に輝く中国海軍の紋章が刻まれていた。
「何だよ、あれ・・・」
「敵襲だ! 敵襲だぞ!!」
電探室に悲鳴のような絶叫が響き渡った。だがその声が受話器を通じて司令部に届くよりも早く港のあちこち
で爆発の火柱が立ち上がった。
港の中央に最も目立つ位置に繋留されていたのは、独特の超高層艦橋を誇る戦艦「扶桑」であった。
奇襲の警報が鳴り響く中、扶桑の甲板はパニックに陥ることなく即座に戦闘配置へと移行した。これは帝国海軍の長年の練度の賜物であった。
「撃て! 撃ち落とせ! 新年早々、どこの馬鹿野郎だ!」
対空機銃座の指揮官が叫ぶ。25mm連装機銃が猛然と火を噴き、曳光弾の筋が青空へ吸い込まれていった。確かに数機の敵機が火を吹いて海へ落ちていったが敵の数は圧倒的だった。中国海軍の空母から「遼寧・「上海」から放たれた攻撃隊は帝国の防空網を数で圧倒する飽和攻撃を仕掛けていた。
「ちくしょう! 全然足りねえ! 弾薬を持ってこい!」
機銃員たちが必死に応戦する中1機の急降下爆撃機が扶桑の巨大な艦橋を目標にダイブしてきた。
「伏せろ!!」
次の瞬間、凄まじい衝撃が扶桑を襲った。落とされた250キロ爆弾は運悪く扶桑の脆弱な部分第2砲塔付近の甲板を貫通した。爆発は艦の深部にある弾薬庫の誘爆を誘った。
「ドォォォォォン!!」という、鼓膜を破らんばかりの轟音と共に、扶桑の巨体が海面から浮き上がるかのように震えた。爆風が第2砲塔を文字通り「吹き飛ばし」、空高く舞い上がった。
かつて「帝国最強の盾」と呼ばれた戦艦扶桑の船体は、まるで薄い板のように真っ二つに裂けた。
「あぁぁ……助けてくれ、熱い、助けてくれ!」
「艦が折れたぞ! 逃げろ!」
甲板は瞬く間に、飛び散った重油と炎に包まれ、地獄絵図と化した。
艦橋にいた扶桑艦長は、傾斜していく艦底と、海に投げ出される部下たちの姿を見て、歯を食いしばりながら決断した。
「もはやこれまでか・・・総員離艦! 総員離艦だ!! 負傷者を優先しろ! 1人でも多く生かして、この仇を討たせるのだ!」
そして扶桑はわずか30分足らずで横倒しになり、その不恰好なほど高い艦橋を海面へと沈めていった。逆さまになった船体から気泡が吹き出し渦を巻いて消えていく。それは長年帝国の海を守り続けてきた老雄の、あまりにも残酷な最期であった。
高雄奇襲が終わったときかつての美しい港は黒煙に覆われ、海面には数千人の兵士たちの帽子や破壊された船体の破片が漂っていた。
夕刻横須賀の軍令部に届けられた「高雄被害詳報」は、居並ぶ将校たちの血の気を引かせるに十分な内容であった。
【高雄奇襲被害集計】
死者: 1254人(戦艦扶桑の乗員が大半を占める)
負傷者: 579人
沈没: 戦艦【扶桑】
大破: 軽巡洋艦【河内】・【龍田】
小破: 駆逐艦 多数
航空機損失: 92機(地上で撃破されたものを含む)
新年早々のこの惨劇は、号外として即座に日本全土へ伝えられた。
ラジオからは、震える声のアナウンサーが「中国海軍による卑劣な奇襲」を報じ、国民は正月気分の最中、自分たちの国が再び巨大な戦争の渦に飲み込まれたことを知った。




