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俺の孤独な人生に光をくれたのは、12億円ではなく、山奥の洞窟で見つけた異世界獣耳少女でした。  作者: ウィースキィ
第01章 名もなき獣の少女と、独りの億万長者

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第03話 手に入れた自由


 高額当選という劇的な出来事から、季節は二つ巡り、四ヶ月の月日が流れた頃。


 根村 亮の姿は、地図にも小さくしか記されない、人里離れた東北の片田舎、鬱蒼とした森のさらに奥深くに佇む一軒家にあった。


 そこには、周囲の自然と調和するように、古き良き時代の趣を残した和風住宅がポツンと、しかし確かな存在感を放って建てられており、奇しくも今日、幾度かの打ち合わせを経て進められてきた内装のリフォームがついに完了したのであった。


 事の始まりは、亮が前々から胸に秘めていた願望、『純和風の平屋建て住宅で、静かに暮らす』という夢を叶えるためだった。


 十二億円という想像もつかない大金を手にした彼は、その有り余る資金を投じて理想の住まいを探し始めた。複数の不動産屋に足繁く通い、インターネット上の物件情報と睨めっこし、思い描く建物との巡り合いを求めて、ただひたすらに丸一ヶ月という時間を費やしたのだ。


 そして、やっとの思いで見つけ出したこの山奥の住宅は、彼が探し求めていた全ての条件を奇跡的に揃える、まさに運命的な物件だった。


 その譲れない条件とは、まず一つに、日本の伝統美が息づく純粋な和風建築であること。二つ目に、暮らしやすさを追求した平屋建てであること。そして三つ目に、最も彼の心を捉えた、敷地内に天然の温泉が湧き出ていること。この三つの厳選された条件を元に、彼はこの隠れ家のような物件を見つけ出したのである。


 この山奥に佇む住宅は、物件自体の価格に加え、彼のこだわりを詰め込んだリフォームの費用を合わせると、優に一億円を軽く超える出費となったが、宝くじの高額当選で文字通り桁外れの十二億円を手にした彼にとって、それは決して手が出せない金額ではなかった。むしろ、長年の夢を形にするための、必要経費とでも言うべきものだ。


 山奥にあるという立地ゆえ、築年数もそれなりに経っており、相応のリフォームが必要不可欠ではあったが、亮にとっては、それこそが好都合だった。逆を言えば、間取りの変更から内装の細部に至るまで自分の思い描く理想の形に、自由自在にアレンジできるということなのだから。


 夢の実現に向けて随分と張り切った亮は、リフォーム会社の担当者に対し、熱意を持って自らの思い描く理想の住まいへの想いを全て告げた。そして、その言葉の通り、彼の新しい家は、まるで生まれ変わったかのような大規模な改修工事が行われたのだった。


 真新しい畳の匂いが微かに漂う玄関から、引っ越し業者が彼の荷物を運び入れる姿を、亮はただ静かに眺めている。


 トラックから次々と運び出される段ボール箱や家具が、かつて見慣れた彼のアパートの生活を物語っている。それらが、この広大で美しい空間に収まっていく様子を見ながら、こんなにも素晴らしい建物が、これから自分の、誰のものでもない自分だけの住まいとなるのだという現実を、彼はゆっくりと、だが確かに噛み締めていた。


 視線を庭へと移せば、そこには中規模ながらも手入れの行き届いた、苔むした石や木々、竹垣が配された絵画のように素敵な和風庭園が広がっている。そよそよと風に揺れる木々の音に耳を傾けながら、亮は安堵と感動がない交ぜになった溜息を、「はあ」と一つ漏らした。


「本当にこんな素敵な家が、自分の家になるなんて……」


 彼は、独り言のように、しかしその声には微かな感動と、どこか現実味のなさが滲んでいた。


「……まさか、妄想の中以外では、絶対にありえないと思ってたけどな。こうして、本当に目の前に建っているのを見ると……なんか少しあっけない感じもするな」


 なんて、まるで遠い過去を振り返るかのように、少しノスタルジックな気分に浸りながら呟いてみる。しかし、口元が自然と弧を描き、ニヤニヤとしてしまうことは、どうやっても抑えられなかった。


 引っ越し業者の手前、あからさまに顔を歪めてニヤニヤすることは流石に控えたが、内心では『ヒャッハー!』と奇声をあげて飛び跳ねたい気分であり、抑えきれない高揚感に浸っていた。


「さてと、俺もそろそろ荷物整理でも始めるか……と言っても、あんまり荷物ないんだけどね」


 亮は、現実的な行動へと意識を切り替えるべく、そう呟いた。


 彼の荷物が少ないのには理由がある。最近、彼は動画サイトでミニマリストというライフスタイルを知り、その考え方に色濃く影響を受けていたのだ。必要最低限の物しか持たないという考え方が、彼の性格に妙にフィットしたのである。


 元々住んでいたアパートが六畳一間の『1K』という狭い間取りであったことも影響しているが、彼の私物は、普通乗用車にして僅か三台分に積める程度のものしかない。


 今回、宝くじの高額当選で文字通りの大金を手にしたこともあり、家具や家電にはある程度のこだわりを持って選定した。最新の機能やデザイン性の高いものを選んだが、それでもミニマリストの影響は彼の購買基準に根強く残っていた。


 結果として、お金を手にしても、本当に必要最低限の、厳選された家具家電しか新規には購入しなかったのである。


 ちなみに、今回彼の新しい生活のために新規に購入された家電は、雨の日でも洗濯物を気にせず済む『乾燥機付きのドラム式洗濯機』、広々としたリビングで映画鑑賞を楽しむための『七十五インチの大画面モニター』、いつでも美味しい水が飲める『浄水型ウォーターサーバー』、臨場感あふれるサウンドを実現する『サラウンドシステムスピーカー』、食材を豊富に保存できる『大容量の冷蔵庫』、部屋の空調を快適に保つ『エアコン』、清浄な空気を保つための『空気清浄機』といった、生活の質を向上させるための必要最低限のアイテム群であった。


 二時間ほどかけての引っ越し業者による荷物の運び込みが全て終了し、業者が帰宅してから、亮は初めてこの広大な家に一人きりとなった。静寂に包まれた家の中を、彼は子供のように目を輝かせながら、部屋の隅々を見て回っていた。


 間取りとしては、一人で住むことを考えれば十分すぎるほどのゆったりとした3LDKとなっている。玄関を開けると、まるで高級料亭の入り口かと見紛うばかりの広々とした玄関ホールが迎え入れてくれる。続く廊下は、木材の温もりを感じさせる床に、随所には柔らかい光を灯す間接照明が配され、上品な障子や木格子が伝統的な美しさを醸し出している。


 リビングは、モダンな家具と和のテイストが融合した落ち着いた和モダンスタイルに純和風の小上がり。キッチンには、彼が選んだ『最新式のシステムキッチン』が備え付けられており、料理への意欲を掻き立てられる。


 この住宅は、純和風の美しいデザインでありながら、現代の生活に必要な機能性も兼ね備えた、洗練されたおしゃれな作りとなっていた。そして何より、彼が今回のリフォームで最も情熱を注ぎ、リフォーム会社に粘り強くお願いしていたのが、お風呂である。


 今回彼が見つけ出したこの物件は、文字通り家のすぐ近くに天然の源泉が湧き出ており、そこから直接、自宅の浴槽へと温泉を引いているという、まさに奇跡のような条件を備えていた。


 これにより、彼は家にいながらにして、いつでも好きな時に天然温泉に浸かることができるのだ。


 元々、仕事のストレス発散と癒やしを求めて、全国の温泉地を巡るのが趣味であった亮にとって、自宅で温泉に入れるというのは、長年心に描き続けた、最高の夢であった。今回、その夢が、想像以上の形で叶ったのである。


 亮は、吸い込まれるように風呂場へと足を進めた。脱衣所のドアを開けると、そこはまるで高級旅館のそれに匹敵するような、広々として清潔感のある空間が広がっている。


 脱衣所には、機能的に三箇所の出入り口が設けられていた。一つは、この脱衣所へと出入りするための入り口。二つ目は、広々とした湯船に浸かる内湯への出入り口。そして三つ目は、彼の心を最も躍らせた、露天風呂へと繋がる出入り口だ。


 彼は手早く脱衣すると、迷わず露天風呂へと続く扉を開けた。


 扉を開けた瞬間、目の前に広がるのは、息をのむような美しい光景だった。初夏の近づく陽光に照らされ、鮮やかに輝く瑞々しい新緑の緑が目に飛び込んでくる。


 そして、そこかしこから立ち上る、ほのかな硫黄の香りを纏った湯気。広々とした岩造りの浴槽からは、見るからに肌に優しそうな湯が満ち溢れている。浴槽の周囲には、惜しげもなく贅沢に芳醇な香りを放つヒノキ材が使用され、心地よい感触の広々としたウッドデッキも備え付けられている。


 そのウッドデッキの上には、温泉好きにはたまらない、木製のいわゆる整い椅子が二脚置かれていた。ここに座って、森林の緑を眺めながら、湯上がりの体をゆっくりと冷ます至福の時間を過ごすことができるのだ。


 浴槽の上には、雨の日でも温泉を楽しめるように、しっかりと屋根も備え付けられている。それに、浴槽の一部には、体を横たえて浸かるための寝湯として使用できる浅い部分が完備されており、夜には寝転がりながら、満点の星空を眺めてお湯に浸かるという、究極の贅沢を味わうことができるのだ。


 この周囲には、幸いなことに人の気配は全くない。それでも、亮のプライバシーへの配慮は怠られていない。露天風呂の周囲四方には、風情のある青々とした竹でできた高い塀がしっかりと完備されているため、外部から覗かれる心配は一切ない。


 湯船にゆっくりと身を沈め、手で湯を掬い上げ、その温かさを肌で感じる。硫黄の香りが鼻腔をくすぐり、体の芯から力が抜けていく。


「はえー……凄え。これ……本当に俺の家のお風呂なのか?」


 彼は驚きと感動がない混ぜになった声で、独り言を漏らした。


「これはもう、金取れるレベルだろ……いや、金払っても入りたいレベルだわ……」


 そして、湯船に浸かりながら、目の前に広がる自分だけの景色を眺める。


(これが、この全てが、俺だけのものなのか)


 改めて現実を噛み締めるように味わう。


「なんだろう……なんかもう、一生この家で一人で静かに過ごしてもいいかもしれないな……」


 彼は、湯気の中に溶けていくような、つぶやくような小さな声で言った。それは、この上ない幸福感と、どこか漠然とした孤独感が入り混じった感情だった。


 そもそも、現在の彼には結婚する相手も、付き合っている相手もいないのだ。この素晴らしい家で、一人きりで過ごす未来が、今のところ確定している。


(……いかん。このままだと、せっかくの温泉で感傷的になっちゃうぞ……)


 ふと、現実的な寂しさが胸をよぎり、彼は自らの思考を打ち消すように、頭を振った。


「気を取り直して……よし、風呂上がったらリビングでまったりするか!」


 彼は、努めて明るい声でそう呟き、湯船から上がった。


 この日はその後、誰に気兼ねすることもなく、ゆったりと流れる時間を過ごし、何度となく自慢の温泉を心ゆくまで堪能した亮だったのであった。


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