柘榴石の訪問者
「城の厩舎には、全ての領の“騎獣”が集う。世話役を一手に引き受けているのが、イブリダという爺さんだ」
「私の愛騎も、ここの出身でな」と、誇らしげに語るコンフォーコが案内したのは、城の東側。柔らかな日差しの当たる庭園だった。
色彩鮮やかな花々、小鳥たちの歌う豊かな木々、流れの穏やかな小川。そこに、小豆色の屋根が可愛らしい印象の厩舎が建っている。体育館を2つか3つ並べたくらいの広さだろうか。7つ、全ての領で活躍する動物たちがいるのなら、納得できるというもの。
どんな生物が居るかは聞いていなかったが、『愛騎』というからには馬か何かを育てているのだろう。ここがひとつの国ではなく、7つの領が合わさった共和国であるならば、自警団が騎馬兵を抱えていても不思議ではない。
「失礼! イブリダ爺さん、居るか?」
正面の扉を開け放ち、友人の家を訪ねる気軽さでコンフォーコが声を掛ける。
背後から屋内をそっと覗き見たシルクは、驚愕に息を詰まらせた。
「コン嬢か、久しいな。セルチェに何かあったか?」
僅かに訛りを感じるアクセント。“竜”の陰から現れたのは、千草色の髪を頭頂部でぴょこんと結んだ小さな老人だ。
「いや、セルチェは問題なく元気にしている。お転婆すぎるくらいだが、今日は別の用だ」
「ああ? ーー祭壇の方が騒がしかったヤツか?」
「耳が速いな」
「コイツらが聞いてンのさ」
傍らの赤い竜を顎で示し、老人は笑う。
「で、そっちで固まってンのがそうかい」
「ああ。シルク、大丈夫か? この方がイブリダ爺さんだ」
「り、竜……竜!?」
当然、インパクトでいえば竜の登場は小さい爺さんの比にならない。厩舎は、反対側まで続く通路が一本。残りのスペースが個室で区切られた造りをしており、1部屋に1〜2匹の竜が暮らしていた。大きな窓から差し込んだ日光を受け、キラキラと光る鱗。立ち上がった高さは馬と同じくらいだろうか。顔付きは個体差があるものの、概ね爬虫類のソレに近い。
「君の世界には、存在しないのか?」
「しないです。子供向けの絵本とかには出てくるけど、初めて本物見ました」
「髪の色といい、君の世界の魔力は相当澱んでいるな」
口元に指先を当て、コンフォーコが眉を顰める。さりげなく悪口だったような気もするが、今のシルクには届いていなかった。
「ホントにこのボウズが働けンのかい?」
「わからん。爺さんから見て、どうだろうか?」
「オレっちよりもコイツらにーー」
「あ、おいッーー!」
2人が目を見張ったのも無理はない。
フェンス越しにそろりと伸ばされたシルクの指先。プライドの高い赤竜は鼻先を寄せて、すん、とひと嗅ぎ。そうして自ら顔を寄せ、触れても良いよと言いたげに瞳を細めた。シルクの方も許容された懐の広さに敬意を払い、逆鱗を避けて優しく掌を滑らせる。
「頭のいい子だね。どういう相手か、理解してる……うん、意地悪はしないよ」
日の光を吸い込んで暖かな首筋を撫でてやれば、チェロのような声音が心地良さを伝えてくれる。
隣の部屋から覗き込んでくるのは幼さの残る、柿色の双眸が二対。好奇心旺盛な眼差しに誘われ、そちらにも手を伸ばした。見た目がそっくりな2匹の竜は、けれど警戒心が正反対で、片割れは少し距離が遠い。鼻頭に小さな突起がついた方は、初めて見る相手にも遠慮がない。大きく開いた口を見て、シルクは尚も掌を差し出す。
「……お前、あったかいな。オレンジ色は火の属性なんだっけ」
おもちゃを喰むように迎えられた口の中は通常の爬虫類にない高温で、先程までのコンフォーコの話を思い出した。牙は無く、ヤスリ状の歯がザラザラと肌に当たりはするが、手加減は心得ているようで皮膚が削られる様子はない。
そんな調子で、山吹色のゴツゴツした竜、タンポポ色のサラサラした竜、若芽色のフサフサした竜、天色のツルツルした竜、と、順に挨拶していくシルクの背中を、取り残された2人は唖然と眺めていた。
「ナンだい、ありゃあ。経験者か」
「いや、私も詳しくないが……」
竜に出会うのは初めてだと言ったばかりだ。子供のようなはしゃぎぶりも、純粋に彼の内から溢れたものに見える。何はともあれ、『世話ができる』と宣言した振る舞いは本当だった。
駆け足で戻ってきたシルクの表情は、ここにきて漸く楽しそうに輝いている。
「俺、ここで働いていいんですか!?」
「竜たちの面倒が見れンなら、オレっちは構わねェよ」
「ありがとうございます!」
勢いよく頭を下げたシルクが、コンフォーコに向き直る。
「コンフォーコさんも、ここを紹介してくださってありがとうございます! すぐには、何もできないけど、いつか恩返しさせてくださいね」
「ああ、困ったことがあれば訪ねてくれて構わない。こちらからも顔を出そう」
☆★☆☆☆☆☆
シルクの流され人生には、自分の功績だと誇れることが、二点だけ存在する。
「イブリダさん、14番まで床替え終わりました」
「ああ、速ェな。もうちっと進められるか」
「はい」
『調竜士』。ドワーフ族であるイブリダの持つこの肩書きは、エーラ共和国でも取得者の少ない国家資格だ。竜という種族そのものの扱い難さ、属性が一極化されてしまう世界の理などが要因で、全ての属性の猛獣を1人の人物が同じ場所で飼育することは困難を極める。
実際、イブリダとて手懐けられない種類や属性の竜は存在するし、性格的な合う合わないの相性もある。
だが、この青年は根本が違う。
どの種族、属性であっても、獣の方から及第点を提示した。シルクもまた、提示された線引きを過不足なく受け取って、それ以上は肉体的にも精神的にも一切踏み込まない。必要以上に馴れ合わず、必要なだけの世話をして、結果、飼育する上で十分な信頼を得ている。
元々イブリダが慣らしていたことを加味した上で、それでも、シルクの仕事ぶりは見事なものだった。
「ーー昼の鐘だ。飯にするか」
「はい」
この素直さも、初対面の青年に接し易くさせている理由の一つ。
自然豊かな緑の町、ボニフィカーレ領から鳴り響く鐘の音に、2人は作業の手を中断した。
「バウレット、フラスカ、日向ぼっこしよう」
岩肌のような硬い皮膚に所々鉱石が張り付いた、向日葵色の竜がバウレット。そのどっしりとした大きな背中に飛び乗り、爽やかな白緑色の体毛を風に靡かせているのは、三角形の大きな耳の先に木の葉を付けたフラスカだ。
2匹とも昼行性のようで、それなら紫外線を浴びるのも好きだろうと思い、連れ出した。
イブリダが用意してくれた昼食は、薄切りの食パンに野菜と干し肉を挟んだサンドウィッチ。異世界の料理を勝手に想像しては戦々恐々としていたシルクは、ひっそりと安堵したのだった。
ーーこの仕事は、性に合っている。
時折フラスカにサンドウィッチを齧られながら、シルクはぼんやりと空を見上げた。7つの月は、変わらず世界を見下ろしている。
シルクにとって、ひとつめの誇らしいことは、動物好きなこと。
幼い頃、子犬を拾って帰ったことがある。当然、両親は反対したが、泣き喚いて駄々をこね、一晩子犬と共に外で過ごし、漸く3人と1匹は家族になった。その後の世話も献身的で、友達との約束もそこそこに、雨の日も雪の日も散歩を欠かしたことはない。15年程を共に過ごした愛犬は、もう傍に居ないけれど。シルクの人生に多大な影響を与えたことは間違いない。
2匹目を迎えようとは思わなかった。だって、別れの辛さは1度だけでも十分過ぎるほど。その代わり、大人になったシルクは動物に関わる職を探した。悩んで選んだ就職先は、動物園だ。知識が要る。体力も要る。毎日、頭も身体もフル稼働して、帰宅すれば泥のように眠った。
そんな生活も最初の半年ほど。最近は仕事にも慣れてきて、身体の使い方も板についたものだ。
「こんな役立ち方をするとは、微塵も思ってなかったけど」
手元に視線を戻せば、フラスカの悪戯っぽい視線と交わる。
「あんま摘み食いするなよ」
竜の食性は分からないが、フラスカが樹上性の生き物であることは身体的な特徴から想像できる。木を駆け上がる為の鋭い爪と小柄な身体。歯並びはギザギザの前歯と、臼歯も確認できる為、熟した果実や柔らかい幼虫などが主食だろうか。
一方のバウレットは、亀や鳥のような嘴はあれど、歯が無い構造。一口サイズに噛み砕いたものを、丸呑みするタイプに見える。そうやって、未知の生き物をひとつひとつ観察し、知識を深めていくことの愉悦。
「楽しい……」
月に住む神様なんてものは信じないが、空想の生き物に触れ合えたこの経験は、感謝してもいいかも知れない。
☆☆☆☆☆☆☆
夕方、イブリダは『領主会議』に呼ばれて行った。シルクの仕事は職人の眼鏡に適ったようで、『悪ィようにはしねェさ』と笑っていたのが心強い。
厩舎での作業は粗方終わっていて、シルクは川沿いの洗い場で使った道具を磨いていた。十竜十色、必要な道具も形状も様々。見たことのある物も、ない物も、興味と好奇心は尽きない。
「ん……?」
視界の端、何かが動いた。
この世界に来てから、自身の感覚に違和感を覚える。具合が悪いとか、どこかが痛むとか、そういうことでは無いけれど。他者の心境が肌身に伝わってくるような、自身の内情が外に漏れ出てしまうような、不可思議な違和感。
少し背の高い草花を掻き分けて、次第に近付いて来る何か。その何かから伝わって来るであろう、緊張感と焦燥感。胸の奥がざわついて、手入れ中の道具たちを大きな桶にさっとまとめる。
本能的な恐怖心に煽られるまま立ち上がりーー
「キュイ!」
「う、わッ!」
ヴァイオリンの音色で目の前に飛び出してきた塊を避けることもできず、尻餅をつく形で転倒。道具が宙を舞い、ガラガラと音を立てた。幸い、柔らかな草の上だったので、怪我らしい怪我は無い。
「……なんだ?」
胸元にしがみ付き、小さくなって震えている白藤色の毛玉。段ボールの中から拾い上げた、あの日の子犬が脳裏に蘇る。伸ばし掛けた指先がピタリと止まったのは、遠くから殺気立った二人組の声が聞こえたから。
そうして、理解する。
「逃げてきたのか」
散らばってしまった道具を集め、なるべく静かに厩舎へと。だが、遮る物の少ない草原。太陽が沈むには早く、傾いた夕日に黒髪が照らされる。
「ーー!」
距離があって単語までは聞き取れないが、気付かれた。そう確信して、シルクは全力で走り出す。厩舎は目視で見える程度の距離だ。体力的には問題無ーー
「いっ!」
左腕を掠めた何か。飛び道具のようなものは見当たらない。体の逃走は本能に任せ、わずかに酸素を回した頭が非現実を手繰り寄せる。
「ーー魔法、っ!?」
2撃目が飛んできて、いよいよ道具たちは手放す決心をする。壊れてしまったら、後で爺さんにごめんなさいと言おう。
右頬、右肩、左脇腹、背中。服ごと皮膚が裂け、集中力が痛みに持っていかれる感覚。このまま厩舎に戻って、その先は? もう寝ている竜だっている筈だ。出会ったばかりの彼らを、危険に晒すことも憚られる。だからといって、異世界初心者の自分が解決できるような問題とも思えない。
食いしばった奥歯の奥。祈りは、たった一つだけ。
『コイツを、守りたい!!』
「ーーーー!」
頭の芯に響く声無き聲。急ぎ、厩舎の扉を大きく開け放つ。
胸の内に湧き出でる、その感情のまま、名前を呼んだ。
「ヴォルティチェ!!」
ゴウッ、と厩舎の中から噴き出した渦潮は、圧倒的な質量でもって侵入者を巻き上げる。
厩舎の奥からぬるりと現れた青白い蛇。丸太のような胴、大人を飲み込んでも余り有る巨体。鱗の質感は魚に近く、顎の付け根に左右2対の鰭。
昼間は熟睡していたし、とんでもなく嫌悪感を含んだ『近寄るなオーラ』を発していた為、シルクが唯一手を着けなかった個室の主。シルクを……というか、毛玉を庇うように蜷局を巻き、空中に放り投げた侵入者を睨み付けた。
そうして、天高く舞い上がった人間を諦観しながら、シルクはひとつ確信する。
今、傍らの水竜は、シルクの感情に呼応した。守りたいという強い願いに、同じ強さで自身を呼ばせ、力を貸してみせたのだ。そうして今度は、侵入者に対する怒りを伝播してきている。
「だ、ダメだ、ヴォルティチェ。やりすぎてる。殺さずに捕まえてくれ」
「ーー」
『納得できない』。竜の憤りが身勝手に広がり、心臓のあたりがザワザワする。抱き締めた毛玉を頼りに、努めて冷静であろうとした。
「末端だけ排除しても意味がない。生け獲って、密売のルートを探ってもらう」
正義感の強そうな、燃える瞳を思い出す。数秒見つめ合い、水竜は溜息のように水鉄砲を吐き出した。ポワンと浮かんだ水球は、落ちてきた人間を柔らかく抱いて受け止める。
ゆっくりと墜落した水はシャボン玉のように弾け、大きな水溜まりに変わった。倒れた2人も、気絶しているだけだ。
「ありがとう。ヴォルティチェ」
「ーー」
つんと顔を背け、さっさと厩舎へ帰っていく水竜を見送る。本来、群れを作らない種類なのだろう。厩舎に居る他の竜たちとも、仲間意識はないように見える。それでも、こうして助けてくれたのはーー
「テレパシー……いや、シンクロ、同調が近いか?」
突如手にした謎の能力。扱い方も、本質的な所も、何もわからないのが不気味で、気持ち悪い。けれど、助けられたのも事実である。今はとりあえず、生きているから良しとしよう。
引いていく漣のように、落ち着きを取り戻した胸を撫で下ろすと同時、毛玉がもぞりと身動いた。
「キュ……」
「もう大丈夫だぞ」
笑いかけてやれば、解けた毛玉は長い首をもたげ、菫色の瞳でシルクを見上げる。
それは、小さな首長竜だった。20センチ程の俵形の胴体、四足獣の手足、首も尻尾も胴と同じくらいの長さで、全身に滑らかな被毛を纏う。額には、菱形にツノをつけたような、不思議な形の宝石が生えていた。柘榴色のそれが、夕日を反射してキラリと輝く。
「……厩舎の竜、じゃない、よな? 迷子?」
キョロキョロと周囲を見回した後、小さな竜は楽しそうに鳴いたが、無邪気な波長が伝わるだけで疑問は晴れない。
家があるなら帰してやるべきだ。人間に追われていた筈が、人間を怖がる素振りも見せないし、誰かのペットだった可能性もある。こういうことも、自警団とやらに任せていいのだろうか。
「いっ、てーー」
気が抜けて意識が散漫になってきたら、あちこち痛いのを思い出した。置いてきた道具も取りに行かねば。
「もう、後で良いか……」
「キュイ」
この数十分で、ドッと疲れてしまった。寝転がって見上げた空は、ほんの少し薄暗く。一等賞で輝き出した星を眺め、達成感に小さく微笑む。
◆☆☆☆☆☆☆☆
ドーナツ型のテーブルを囲んだ5人の領主は、中央の鏡に投影される厩舎の様子を観察していた。
「調竜士イブリダ。見解を聞きましょう」
鮮やかな若緑の髪に、淡い色合いの花を咲かせたエルフ。ボニフィカーレの領主、カランドが問う。驚きを引きずったままのイブリダは、静かに視線を上げた。
「……今まで、誰の言葉も聞かなかったヴォルのヤツが、ボウズの願いを聞いた。それが全てだ」
ヴォルティチェは厩舎の中でもかなりの古株だ。孤高を貫く種族の気質と、馴れ合いを嫌う個体としての性格が故、パートナーとなれる相手を探してやることができていない。過去には何人かの自警団員が迎え入れた試しはある。結局、誰も手が付けられず、治癒施設に送られる者まで出る有様だった。それを、突然現れた異界の住人が成した。
良く言えば有用。悪く言えば脅威。降って湧いた異物に対して、領主の方針は割れていた。
「そもそも。紫月の神が齎したものなれば、宝玉であろうと災厄であろうと、謹んで享受するのが我々の本懐ではないのかな」
にこにこと上機嫌なオックルタメント領の領主、カフィツィオーソ・オックルタメントの意見は徹頭徹尾変わらない。
「人間も竜も、等しく生けるもの。自然の中で心通わせ共存することは、全ての命の摂理であると心得ます」
首肯したカランドが続く。
「お前ェらが有事の全責任を取るのなら、好きにすりゃあいい」
冷たく跳ね除けるのは、青い短髪を緩く跳ねさせた体格の良い男。漁猟の盛んな港町オンダータ領の領主、コルサ・パランツァ。片方だけ組んだ足の上に頬杖をつき、カフィツィオーソを睨む。
「おやおや。君の指示でも動かなかった水竜が、彼を庇ったからヤキモチかい?」
「そんな事じゃねぇ! わかってて言ってんだろテメェ!」
「不在のアバルカは、貴方に意を託しましたか、クラテーレ」
「ああ、任されている」
小競り合いを無視し、藍色の髪を襟足で纏めたスーツの男が訊ねた。熱砂に囲われた商人の町、クラテーレ領のグレイヴ・クラテーレが、黄色い封蝋の手紙を差し出す。
「コンフォーコ殿が彼と接触を?」
「そのように聞いている。戦士の器ではないが、害意のある者でも無い、と」
「今のところは、そのようですね。私は、彼よりもこの幼竜が気掛かりですよ」
スーツの男、風車の町ラチェランテ領のジュスト・パラディゼーアが、鏡の中ーーシルクに貼り付き続ける小さな竜を示した。一同の視線が集まる。
「イブリダ翁、この種族に見覚えは?」
「……初めて見る」
「体色は紫月に近いですが、オックルタメント」
「いやいや。知らないコだよ。森の方から来たんだし、カランド君では?」
「イブリダの知らぬ竜なら、私はもっと存じません。額の石、赤月の物ではないのですか?」
「紫月と赤月、無くは無いですが。本日もペザンテ様はお休みですので……」
静まり返った会議室。長寿種族が入り混じる領主が5人と竜の専門家が顔を突き合わせ、誰ひとりこの生き物を言い当てられない。
ジュストが溜息混じりに口を開いた。
「青年のことは、厩舎から離してしまえば自警団の足元にも及ばないでしょう。けれど、こちらは少し警戒すべきです」
「はてはて。とはいえ、無理に引き剥がして逆上されても困るよねぇ。相当懐いてるよ、あれ」
鏡の中の1人と1匹は、片時も離れようとしない。
もう一度顔を見合わせ、6人は思い思いの未来を案じた
◇☆☆☆☆☆☆☆