2
ウイン爺さんとトウルは、アベル爺さんの一言を待っていた。
ウイン爺さんの瞳は、『心を作らせてくれ』と訴えているようにアベルを見つめていた。
首をうな垂れ、大きくため息を零しながら二人に向けた顔には、二人の思いに『降参したよ』と苦笑いが浮かんでいた。
「アベル、いいのか?ホンとにいいんだな?」
ウイン爺さんは、信じられない驚きと、自分の気持ちを察してくれた友の気持ちが嬉しくてたまらなかった。
「頑張って、素晴らしい心を与えてやってくれ!」
「あぁ......ありがとう」
「ウイン、娘の名前はセレネだよ。よろしく頼むよ」
「アベル、ありがとう」
一週間の時が流れた。セレネはウイン爺さんの工房の奥、ウイン爺さんの寝室にひっそりと佇んでいた。
まだ、人形のままで.....。
そして、ウイン爺さんは、セレネを連れて帰ったその日から、心を込め、セレネの心を作り始め、毎晩、ベットに入る前に必ずセレネに
「セレネ、頑張ってるからな。もう少し待っていておくれ」
と、囁きかけるようになりました。
何度も何度も心を込めて作りました。
でも、ウイン爺さんが作り上げたものは、温かみのない冷たい,ただ綺麗なだけのガラス細工でしかなかったのです。
『何故なんだ?どうして.......俺には作れないのだろうか? 』
そんなことを思う時もあります。
でも、ウイン爺さんは、諦めることなく作り続けます。
そして、やっと満足のいく心が出来上がりました。
それは、不思議と眺めてると、暖かい何かにそっと抱きしめられてるような、そんな気がしてくるのです。
ウイン爺さんは、出来上がった心をセレネの目の前に差しだし、
「セレネ、見てごらん、綺麗だろう」
と。
そっと、テーブルの上に置き、ウイン爺さんはベットに入りました。
やっと、セレネに見せることができたことに安心したせいか、深い眠りへと落ちていきました。
静かな部屋に、ウイン爺さんの寝息が密かに聞こえます。
テーブルの上に、置かれたガラスでできた心が、ホワンと優しい光を放っていました。
そして、その光は吸い込まれるように、セレネの胸に吸い込まれていったのです。
「お父さん、お父さん、起きて! 」
ウイン爺さんは、誰かに肩を揺すられ眠りから覚めようとして、
『誰だぁ.......俺を揺さぶるのは......』
うつらうつらとしながら、自分を起こす人などこの家にはいないはずなのに、誰だ........。
優しい女性の声が、段々とはっきり聞こえてくると、その声は、自分の事をお父さんと呼んでいるように聞こえます。
『お父さん、俺のことなのか ?ありえない.......俺には子供はいない.......そうだ! セレネがいるなぁ.........俺の娘だ.........』
と、夢のように考えていたウイン爺さんは、「セレネ!! 」
と、叫ぶように飛び起きました。
そして、ウイン爺さんの目の前には、不思議そうに自分を見つめ、そして、花がほころぶように笑うセレネがいました。
「お父さん、おはよう」
「...................」
『夢の続きを見ているのだろうか...............』
瞬きもせず見つめるだけのアベル爺さんに、セレネは
「お腹空いたわ。お父さん、ご飯の作り方教えて!」
「あぁ、お腹空いたな。何でも教えるよ」
目の前に起こってることは、自分が望んだ事なのに、自分の前で動き、話すセレネを見ても信じられない気持ちでした。