ピリッときたんだ
触れ合った指先が電流の衝撃音で反射的に離れていく。瞬間に手渡そうとした書類が宙に飛び、舞い落ちる隙間から目を見開いたアキラが見えた。
「ご……めん! 静電気にびっくりして離しちゃった」
「私も。結構バチッときたよね。こっちこそごめんね」
散らばった書類をお互いに拾い集めながら、痺れたままの人差し指の表面を親指で撫でた。
季節は乾燥に満ちた冬。静電気が頻発に発生することなんて理解している。ドアノブに触れた時の強い衝撃が走ったわけでもないし、痛みが尾を引くようなものではなかったのに。
「悪かったなミチル。棚の下とかに紛れてなければこれで全部だよ。確認してもらえるかな」
「う、うん。待って、今確認するから」
差し出された書類を今度は触れないよう、気を付けて受け取る。しかし何故だか人差し指が痛む。アキラに背を向けて枚数を確認しながら、少しだけ赤い気がする指先へと視線を落とした。
(今までも手が触れ合ったことはあるのに)
アキラと私は新卒で入った同期だ。お互いに大卒の中に紛れた唯一の高卒同士ということもあり、仲間意識で何年も一緒に頑張ってきた仲だ。
性格も馬も合った私たちは、プライベートでしょっちゅう一緒にでかけた。似た同士だからこそ仕事でぶつかり合うこともあれば、仕事の悔しさからお互い涙を見せあったりもした。
しかしアキラと私は一度だって“そういった”仲になる雰囲気はなかった。
嫌というほど「付き合ってないの?」と質問されたことがあるが、その度に鼻で笑って一蹴してきた。
私たちは最高の相棒なのだ、と。
それなのに。指先が触れて静電気が流れただけなのに。
衝撃で回路が変わったように、心臓が高鳴って仕方がない。
「ミチル? 大丈夫そう?」
「だ、大丈夫! じゃあこれお願いね!」
半ばアキラへ押し付けるようにしてその場を立ち去る。不思議そうな顔をしていた気がするが、今の状態でまともに見られない。
(たかが静電気で……馬鹿みたい!)