【やる気へ】むしろお前の方から来てください。

【やる気へ】

むしろお前の方から来てください。

大体やる気の奴、やる気あんのかな。やる気がないのはさもこっちのせいみたいな顔してさ、いつも受け身でさ。そう思ったからお問い合わせフォームの欄にメッセージを書いて、送信ボタンを押した。え、私今めっちゃ頑張ったよね。やる気ないのに。

返信は三日後に来た。三営業日以内に返信いたしますとはあったけれど、それにしてもギリギリだ。

【私様】

お問い合わせありがとうございます。

誠に恐縮ではございますが、弊社のやる気は現在休暇中でございます。代わりに私のん気が当面の対応をさせていただくこととなっております。なお、やる気の復帰時期は未定です。

ご不便をおかけしますが、ご理解のほどよろしくお願い致します。

「あーもうっ」

ベッドに寝転んでメッセージを読んでいた私は馬鹿らしくなってスマートフォンを投げた。けれどさすが、現在対応しているのはのん気なだけあって、次の瞬間にはまあいいかと思えてきた。急ぎの用件がある訳でもないし……いや、明後日締め切りのレポートがあったけど、まぁ大丈夫でしょ、明後日だし。

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とかなんとか言ってだらだらしているうちに、あっという間に締め切り前夜になった。私はさすがに焦り始める。

やる気、自力で調達してみるか。

「やる気 出すには」で検索してみる。瞬時に幾つもの記事がヒットする。

“まず始めてみることが大事。「5分だけ」と思ってとりあえずスタートさせてみましょう。”

“気分転換しましょう。軽い運動や散歩が効果的です。”

違う、そうじゃない。

だからそれをするだけのやる気がないんだってば。もう一歩も動きたくないほど末期なわけ。

「やる気を出す(、、)」というくらいだから、まずやる気の在庫確保が必要ってことかな。ダメ元で、Amaz◯nで「やる気」と検索してみる。

【〈正規品〉やる気　急速チャージ式】

普通にあるんかい！！

良かったぁ。どうせならまとめ買いセットをお急ぎ便で買っとく？　こんなんなんぼあってもいいですからね〜って5パック18万って高っか！

ふと見ると、その下にお手頃価格のやる気があるのに気がついた。商品名「やる気スイッチ」、なるほどスイッチタイプのやる気ってことね。一つ2000円でかなりお得だ。これなら買えそう。そう思って一応説明文に目を通すことにする。

“本商品は非常にとっても優れたグレード、大くのお客ちまに大満足のお約束です。水に塗れても強く、また、軽く、持ち運びにも便利です。お客さんに責任をもって販売し、速やかなサービス。”

あ、多分買っちゃ駄目なやつだコレ。

やる気は最後の一滴まで失われた。労力を使い果たした私は開き直り、明日の朝にかけることにした。今日はもう寝て早起きして、大急ぎでレポートを仕上げよう。大丈夫、間に合う。

ところがだ。やる気の失われた私はスマートフォンをダラ見する手を止めることが出来ない。そういう時に限って運悪く遭遇するのがそう、飯テロである。

“トロ〜リふわふわ！甘じょっぱさがたまらない親子丼！”

美味しそうな写真に釘付けになっていたら、不意に懐かしい声がした。

(ごめんね……待たせちゃったカナ？)

「え…やる気……？！」

待ちわびていた神出鬼没のやる気が、ついに帰ってきたのだ。私は歓喜した。

(作っちゃう？　親子丼。ちょうど冷蔵庫に材料あるよ！)

「作っちゃう！！！！！！！！」

なんだこのみなぎる感じは。今なら何でもできる気がする。そうそうこの感じ、欲しかったのこれ！やる気、お前が来てくれて良かった！

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現在。午前10時である。一応目を覚ましたが、とてつもなく眠い。

「え…やる気……？！ 」

あれほど昨晩一緒にはしゃいでいたやる気は、姿を消していた。

眠い。

遅刻確定。

レポート、間に合わない。

一瞬ひやりとしたが、やる気不在の今、代わりに対応しているのはのん気である。

（失敗は誰にでもありますやろ。今日はもう休んだらええのんちゃいます？　ひと休みして夜に集中してレポートを仕上げたら完璧ですやん)

そっかぁ、そうだよね。

私は安心して布団を深くかぶり、至福の二度寝へと突入していった。

〈了〉