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「あァ、コイツこう見えても結婚してるんだぜ」
「そ、そうなんだ……てっきり僕と同い年くらいかなあと」
「えっ、そんなに若く見えますか?」
「おう、若い若い」
……成程。つまりこの人はこの食堂の女将さんみたいなものなのか。
道理で落ち着いた雰囲気を纏っていると思った。
「そんな黎一郎さんにサービスです」
「お、みたらし団子じゃねェか。しかもこんなにくれるのかよ」
「馨さんの分と併せて、です。一人で全部食べてはいけませんよ」
……かおる?また新たな名前が出てきた。
そもそも僕はここの常連でも何でもない。何なら一見さんだ。当たり前のように名前を出すのはやめて欲しい。
「お客様も、どうぞ」
「あ、ありがとう……」
僕の前にも同じみたらし団子が置かれる。
僕、あんまり甘い物好きじゃないんだけどな。しかしせっかくのサービスだ。食べないのも失礼に当たる気がする。
そう思いながらみたらし団子を口に運んだが、正直めちゃくちゃ美味しくてあっという間に食べきってしまった。
「そういやさ、なんか普通に僕に絡みに来てるけど、アンタ誰なの」
みたらし団子を食べ終わって一息つき、僕は先程から一番気になっていたことを口にする。
「そうですよ、黎一郎さん。お友達になるには、まずは挨拶からです」
「……あァ?お友達ィ?」
物凄く嫌そうな反応をされたが、同じ反応を返してやりたい。僕だってどう見てもホームレスみたいな奴と友達なんて御免だ。
「チッ……俺ァ、神々廻黎一郎だ」
思い切り舌打ちをして名乗られた。
《ししば れいいちろう》……何処かで聞いたことのある名前だが、思い出せない。何処で聞いたんだろうか。
「珍しい苗字ですよね。私は氷室純子と申します」
自分も名乗らないと失礼だと思ったのか、女性も名乗ってくれた。
この流れだと、僕も名乗らないと失礼な気がする。
「直樹将吾です。……よろしく」
純子さんはともかく、この男……神々廻さんとは絶対によろしくしたくはないけど。まあ、形式的に。
「……そういや、馨ってのは誰なの?」
先程名前が出てきた女性。いや、男性かもしれない。馨なんて、どっちでも有り得る名前だ。
「あァ……馨ってのは、口煩い奴だ」
物凄く簡潔に説明された。分かる訳が無い。
「こら、そんなこと言っちゃ駄目ですよ。そういえば、馨さんは今どちらに……?」
「いつもは俺に執拗いくらいぴったり《ついてきて》離れないんだがなァ……たまにこうやって気まぐれにどっか行きやがるんだよ」
これじゃあ男性か女性かすらも分からないのだが……口振りからして恐らく子供、なのだろうか。
まあ、別に僕には関係の無いことだし、どうでも……。
「……まァ、どうせ陰魔に魅入られた人間でも探してやがるんだろうが」
……どうでも、良くは無くなった。