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プレゼントは私(義姉)





ザビーのことを話し終えた後、メイドたちが二人とも戻ってきた。


私が食事をしている間に、明日の誕生日会に向けての準備が行われていく。

食後はシャワー、さらに蒸しタオルで首や顔を温められ、オイルやなんやらを塗り込まれていく。全身もマッサージしてもらって、非常に気持ちがいい。


(極楽極楽ぅ)


メイド長は今回のことをとても悔やんでいる様子で、本来ならすごく忙しいだろうに、この夜は私に付きっ切りでいてくれた。私もメイド長がいてくれると安心できるので、とても嬉しい。


最後に、他の二人のメイドを外に出してから、メイド長は私の前に膝をついた。

「お嬢様は、この公爵家の一員となられました。今後、ご不快な思いをされましたら、私へとお申し付けくださいませ」

「わかったわ」

私は立ち上がり、膝をつく彼女の手をぎゅっと握った。

「これからよろしくね、マリー」

「クリストフ様をどうか、よろしくお願い致します」


さらに深く頭を垂れる彼女の様子に、私は根深いクリストフの闇がもう始まっているのだと悟ってしまった。





誕生日会当日。

昨日来てくれたメイドたちが食事を運んでくれ、昼食後にそのまま部屋の中で手入れやら着付けやら化粧やらと、丁寧に仕上げられていくことになった。

今日はメイド長は忙しく、こちらには顔をだせないとのこと。誕生日会当日だもんね。しかたない。

(わ、すごい、私ってば天使…?)

夕方に完成した姿は、それはもうビスクドールや天使かと見まごうほどに美しかった。

鏡に映った自分の姿を見て、思わず息をのむ。


光に透けそうなほど白い肌に、アメジストの瞳、プラチナブロンドは編み込まれてハーフアップにされて、ぱっちりとした目の横をサラリと流れる。花びらのような唇には薄く紅が引かれ、正に人形のように私の幼い顔を彩っていた。

(顔が、顔が良すぎる)

「お美しすぎます、お嬢様。まるで天使のようですぅ」

「クリストフ様も、このように麗しいご家族ができますこと、感激されるでしょう!」

口々にほめそやすメイドたちは、すっかり自分たちの仕上げた作品にメロメロといった様子だ。


(照れたようにちょっと視線をずらしてから、満面の笑みで、照れた感じ…っと)

「ありがとう!ふたりの、おかげよ。とってもうれしい」

「お嬢様~!もったいないお言葉です!」

「なんて愛らしいのでしょう!」

(チョロイな。この二人は味方になってくれそうだ)


おそらく、屋敷の使用人たちは、私のことを快く思っていないだろう。ザビーや本を持ってきたメイドの反応からして、下級メイドたちの間でどんなひどいウワサをされているか察しが付く。そこで見せしめのようにザビーがクビになるわけだから「好意を持て」という方が無理がある。

(メイド長の声の届きにくい末端、下級メイドたちが問題かな)

内心の憂鬱をほほ笑みで隠しながら、呼ばれるまでの時間を静かに過ごす。


しばらく経ったころ、一人のメイドが様子を見に部屋を出て行った。

戻ってくると、会場の横へ移動するよう告げられる。

「クリストフ様が会場入りされましたので、お嬢様も横の部屋で控えていただきます」

「わかりました。いきましょう」

あとは公爵様の到着を待つ、ということらしい。

出会いの時が、やってくる。





誕生日の晩餐会(誕生日会)が今、始まろうとしている。


食事の前に、私をプレゼント☆ということらしく、公爵様が会場入りすると同時に、ドアの前に待機をさせられた。


公爵様が会場に入り、声だけが聞こえてくる。

『クリストフ、誕生日おめでとう。今年も1年健やかに育つことを望む』

『ありがとうございます。ごきたいにそえるよう、どりょくします』

『うむ』


(これだけ聞いてると穏やかな親子の会話みたいなんだけどな)

 

『今年は特別なプレゼントを用意した』

『…?』

『入りなさい』


メイドたちがドアを開く。

私は一礼し、歩み出す。

公爵様の横に立てば、背中に手を置かれる。


「クリス、誕生日プレゼントの義姉だ。大切にするんだぞ」


無表情のまま告げる公爵様に、ぱちりと赤い瞳をまばたかせて、クリストフ様は小首をかしげた。そして、「あぁ」と納得した様子で、小さく声を漏らしてから礼を述べた。


「ありがとうございます、おとうさま。なまえは?」


背を押され、前に一歩出る。

(誕生日に“姉”をプレゼントってトチ狂って…、いや、感謝するべきか。引き取ってもらえなかったら、死んでいたかもしれないんだから)

クリストフは生で見れば、ふっくらとした白い頬、ぱちりと見開かれた赤い瞳の、柔らかそうな黒髪の可愛らしい幼児だった。だが、見つめられているだけなのに、なぜかゾワゾワとした恐怖を感じる。


それはそうだ。この目の前の幼児はこれから、この世界ゲームの黒幕となり、連続殺人犯、人を人とも思わないサイコパス野郎に成長するのだから。


背筋に震えが走るのを気力で抑え込みカーテシーをした。


「シャルロッテともうします、これからよろしくおねがいいたします」

「ぼくは、くりすとふ。ぼくのおねえさま。たいせつにします」


(絶対に、まっとうに育ててみせる…!)


決意を新たに差し出された、柔らかく小さな彼の手を握る。

赤い瞳の奥にある、人に対する無機質な無関心をまずは取り除くのだ。


せっかく公爵家なんてお金持ちに引き取られたのに。ゆるゆるっとした悠々自適なスローライフみたいな食っては寝て生活をさせていただきたい。ぜひとも。そのためには、没落してもらっちゃ困る。

公爵家の繁栄のため、犯罪者の輩出、ダメ絶対!


その後の晩餐は会話もなく、黙々と料理を口に運んで終了した。

テーブルマナーが分かっていてよかった。静寂すぎて、全ての動作が気になってしょうがない、地獄のような時間だった。


「それではクリストフおめでとう、明日からも励むように」

「はい、おとうさま」

「シャルロッテはしばらくは屋敷に慣れるように。追って家庭教師を手配しよう」

「おそれいります、こうしゃくさま」


眉をぴくりと動かした公爵は言った。

「今後は、お義父様と呼ぶように」

「は、はい」

それだけ言い捨てて部屋を出て行ってしまった。

続くようにクリストフも「では、ぼくのことはクリストフ、とよんでくださいね。しつれいいたします」と言って居なくなった。


「では、お嬢様もお部屋に戻りましょう」

「そうね。きんちょうして、すこし、つかれたわ」


(つ、つっかれたー。すんごいつかれたー!)


ずるずると座り込みたい気持ちを抑え込み、そっと立ち上がる。

楚々として足音を立てず歩き、メイドの世話を受け、やっとベッドにもぐりこんだ時には一瞬で意識が飛ぶほどの睡魔に襲われていた。




こうして、私の長い1日が終了した。






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