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初めてのお茶会2




「俺が長居すると次が困るな。また後で」

「ああ」


ニッと歯茎を見せて笑うファージ侯爵は、もう一度お義父様の手を握った後にテーブルへと戻って行った。アンネリアの視線はシャルロッテからクリストフに戻り、媚びるように瞬きを繰り返す。

「また後でおしゃべりしましょうねっ」と、アンネリアが一生懸命に話しかけるが、クリストフにガン無視されていた。そのまま父親が去ってしまったために「私、待ってますからっ!」と、後ろ髪引かれるようにしながら彼女も戻って行く。


「ちょっとクリス、いいの…?」


あまりにもな最後のクリスの態度に声を潜めて聞けば、なにか問題でも?と言いたげな顔で首をかしげている。しかし、会話を続けようにも次の挨拶をするための人がやってきて、そこで話は終わってしまった。


やってくる人、人、人。

しかし大人の大半は好意的で、しかも意外とご年配の方はシャルロッテに優しい人が多かった。


(顔?顔なのかしら?いたいけな幼女だから?)


頬に手を当てて柔らかなほっぺをむぎゅりと持ち上げるシャルロッテに「もうちょっとがんばってね」とエマが声をかけてくれる。

「がんばります」

「お姉さま、あと三組ほどですので」

クリストフも横から声をかけてくれるのに頷けば、ちょうど次がやってくる。


「お久しぶりですシラー様!」

「久しいな」


でっぷりと太った彼は、確か子爵だっただろうか。同じくよく肥えたご年配のマダムを引き連れている。濃い紫のアイシャドウが乗っかった大きな目が、シャルロッテを品定めするように舐めまわした。


「お可愛らしいお嬢さんねぇ」

「シャルロッテと申します、よろしくお願いします」


従順にカーテシーをするシャルロッテを満足気に見下し、毒々しいほどに色を乗せた唇をギュゥッと吊り上げてマダムは笑う。


()()()()()()、屋敷も華やかになったでしょう」


(この人、家に居ないお義母様のこと当てこすってる…?)


ピンときたシャルロッテは顔を上げてどうするべきかを逡巡しながら、顔に笑顔を張り付けた。すると庇うようにクリストフが一歩前に出て「お久しぶりです、おばさま」と挨拶をした。


「まぁ!クリストフ様、ご挨拶が遅れてごめんなさい。また大きくなられて!ご立派な当主になる風格が、もうすでにありますわねぇ」


過剰ともとれる褒め言葉に「ありがとうございます」と短くクリストフが返す。


「お勉強も大変でしょうけど、頑張ってね。何か困ったことがあればいつでも言ってちょうだい」

「まあ、お心づかいありがとうございます」


エマが笑顔で割り入ってくれば、舌打ちでもしそうな目つきをした後に笑顔になった子爵夫人は扇を開いて口元を隠した。


「ああエマ様。本当に()()()()()ネ。()()()()この庭園でお茶ができなくて寂しかったのよォ」

「お久しぶりです。おば様をお招きできて嬉しいですわ」

「この会、()()()()()開いてくださっただけあって、素晴らしいわね。素敵な旦那様よねぇ。お茶会まで開いてくれるなんて」


それに比べてあなたは、と聞こえそうな子爵夫人の目線にも笑みを崩さないエマ。

シャルロッテがとっさに口を開こうとするも、クリストフに視線で止められる。その瞬間。



「私が何か」



ゴゴゴゴと音の付きそうな顔で、さっきまで子爵にべったりと張り付かれて話をしていたはずのシラーがエマの腰を抱いて引き寄せている。


「あ、いえ、ね。素敵な会を開いてくださる、素晴らしい旦那様でうらやましいですわってお話しですのよ。オホホホ」

「この場所での茶会は()()()の試みだったので、喜んでいただけて何よりだ」

「えっ、あ、そうだったわね」


ギロリと視線を子爵に飛ばし、無言で『下がれ』と言わんばかりの威圧感を醸し出すシラー。

あわてた子爵は夫人をつれて、ペコペコと頭を下げながら戻って行った。

それすら睥睨していたシラーはエマの腰を離すと、その手を握り口づける。


「あんな失礼な人間は、二度と呼ばない。エマの前に姿を見せないようにしておく」

「別に何を言われたわけじゃないのよ。ご夫人はちょっとアレなだけで…子爵自身とは私も親戚だし、長い付き合いだから、気になんてしないわ」

「しかし…」

「もうっ!いいの、ほら、次の方がいらっしゃるわよ。手を離して」


そうして最後の招待客まで挨拶を終わらせ、やっと一息。

基本的にシラーには全員が服従の意、嫡男のクリストフにも同様であった。

しかしエマには舐めた態度のご婦人が数名。

シャルロッテにはさらに倍、といったところだろうか。


(でも本当に、思ったより皆が好意的だわ。高位貴族で攻撃的なのは、あの最初の女の子…アンネリア様くらいね)


義理の娘とはいえ公爵令嬢に失礼なことはできないのか、内心見下していそうなご婦人方も、表面上はにこやかに接してくる。

何人かのご令嬢、おそらくクリストフを狙っているであろう若い子女からは敵意を感じることもあるが…しかしまあ、睨まれる、軽く無視される、といったくらいで大したことはない。

シャルロッテからすると、正直拍子抜けだったが、しかし。不満げなのはクリストフであった。


「お姉さまに敬意を持たない人間は何様なんですか。今後は話したくもありません」

「でも、ここに招かれてるってことは、お付き合いが必要な人たちってことだわ」


憮然とするクリストフに諭すように言えば、「でも」と返ってくる。


「お父様はさっき、お母様に失礼な態度の人を二度と呼ばないと言いました。何人かとの付き合いが消えても、公爵家は揺らがないのでは?」

「それは…」


それはそうね、としか言えない。シャルロッテは言葉に詰まる。


「お母様のことを、愛しすぎるあまりの、言葉の()()ってやつじゃないかしら」

「本気だったと思いますが」


正直シラーのことを掴み切れていないシャルロッテは、フォローのしようがなかった。エマに対しては盲目的だし、やりかねないと思う。しかし、ここでクリストフの人脈をつぶすわけにもいかない。

シャルロッテは苦し紛れに言葉を繋ぐ。


「それにね!私、()()()()()()()()()()()()認めてもらいたいの。だから、色んな人とお話ししたいわ」


にっこりと笑うシャルロッテに毒気を抜かれたのか「それなら、付き合いますけど…」と、ちょっともじもじしながらクリストフは矛を収めた。





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― 新着の感想 ―
[一言] 『お姉ちゃんだから』は便利だけど将来が怖いなぁ
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