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プレゼントは隠される2




「これがアンタの夕飯?あんた、坊ちゃまの性奴隷か何か?」

「……は?」


ドン、と机に食事のトレイを置いたのは、先ほどベッドを蹴りつけたザビーだった。

今度はノックもなくいきなり部屋に入ってきて、冒頭のセリフ。

私はあまりの不作法に、座っていたベッドから立ち上がり、彼女から離れようと後ろに下がった。


「こんな豪華な食事、使用人じゃ食べられないわ。あんたって、きっと性奴隷としてプレゼントされる使用人なのね。よかったじゃない、いい暮らしができるわよ」

そう言いながら、トレイから勝手にパンを持ち上げてかじり「わあ、やわらかくておいしい。これは私が食べてあげる」とのたまった。

あまりの身勝手さ、理不尽な言い分に、もはや知らないイキモノを相手にしている気分になって会話をあきらめた。無言のまま、手を出されそうになったら逃げようとザビーの動きを注視する。


ちらりと見た、机の上にのせられた食事は、修道院ではお目にかかれない肉が乗った、豪華なものだった。

(くっそ、お腹空いた。久し振りのお肉…!)

「1食くらい食べなくても死なないでしょ。これは先輩として、私が食べるわ」

そう言って、ザビーは立ったままトレイから皿を持ち上げ、なんと皿に口をつけて(!)フォークで掻き込むように食べ始めた。あまりの行儀の悪さに絶句してしまう。

次々と皿を空にして、カシャンとカトラリーを皿の上に放り出した時には、全ての食べ物はキレイになくなっていた。


「すんごい美味しい!やっぱ貴族っていいモン食べてるわね」

「……。」

「あ、水差しの水も足すように言われたけど、自分で取りに行きなさいよ。何様だっつーの。トレイは、しかたがないから返しておいてあげるわ。アンタ、明日は私の仕事手伝いなさい。タダでメシが食えると思ったら大間違いだからね!」

言い捨てるようにして彼女はトレイを持って去って行く。


(いや、私、ご飯食べてないんですけど…)


あまりの事態に暫く体が動かなかったが、たっぷり3分は経ってから、とりあえずドアに鍵をかけることにした。訴えても無駄だったが、これはあまりにもひどい。悠長に相談できる人を待っていたら、その間にひどい目に遭わされるに違いない。

(食べるなら働けと言われるなら、いっそ食べないでおくか)

たしかにザビーの言う通り、少しの間食べなくても死にはしない。あの暴君ザビーと関わる方が精神的に苦痛と判断した私は、鍵をかけて籠城しようと決めた。メイド長か家令が来たら鍵を開けよう。


(話の通じない使用人たちに、何を話しても無駄。最悪、二日後の誕生日になれば呼びに来るでしょう)


ため息をついて、私はとりあえず身を清めて寝てしまおうと考えた。

トイレの横に、小さな水道と洗面ボウルがあったはずだ。私はクローゼットを漁り、手ぬぐいサイズのタオルを見つけ出した。修道院から着てきたワンピースを脱いで、タオルを湿らせて体を拭く。そうすると少し気持ちが落ち着いた。

(なーんでこんな目に遭ってるんだろう。公爵家の養子なんて、少なくとも生活は保障されていると思ったのになあ)

ため息をつくが、現実は変わらない。

湿ったタオルを握りしめながら、私は早く寝てしまおうと支度を急いだ。







夜半に目が覚める。

(のど、かわいた…)

起き上がり、水差しからコップへ水を移すも、半分も満たされぬうちに 瓶は空になってしまった。


「あぁ、ザビーがなんか言ってたな…」


けだるい体で、窓の外を見れば、月が高く西の空に輝いている。もうだいぶん夜更けのようだ。今ならば、ザビーに会わずに水を貰えるのではないか。そう思い、水差しを抱えて鍵を開け、廊下の様子を確認した。人の気配はない。


(いっちょ行ってみるか)


この棟に案内された時に、おそらく食堂だろうという場所にめぼしがついていた。修道院でも、食堂に個人の水差しに給水できる樽や水瓶が置いてあったので、行ってみる価値はあるだろう。

そろりと足を踏み出して、部屋を出た。部屋が分からなくならないように、ドアノブに靴下を結び付けておく。静まり返る薄暗い廊下を進み、階段を下りる。しばらく進めば、すんなりと、目的地に到着した。


食堂に入ると、分かりやすく水瓶が壁際にならんでいる。

(はいビンゴー。これで明日も部屋にこもってやりすごせる)

いっぱい給水して、重くなった水差しを両手で抱える。

さて退散するかと顔をあげると、肖像画が飾られていることに気が付いた。

(これ、レンゲフェルト公爵様だ。ということは、横の男の子が、クリストフ)

肖像画の中で佇む黒髪の美幼児。ふっくらとした頬などは幼い顔の曲線だが、気品が漂う。顔の造形は左右対称で、作り物めいたその美貌は天使のようだ。しかし、その瞳は血液のような赤さで描かれ、白い肌の中で爛々と輝いている。



「ん…?この顔、どこかで…」



私の知り合い、特に男の子となると、そう多くない。

誰だろうと頭をひねって、ひねって、うーんと考える。





瞬間、頭の中で記憶が駆け抜けた。






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