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東の国の伝来品2



「これは…!」



それは、見まごうことなき“土鍋”であった。

フタは茶色で下は白く、ころんとしたそのフォルム、たぬきを思わせる淡い茶色の焼き物で、どう見ても土鍋である。シャルロッテは手を伸ばしてそれを受取ろうとするが、ハイジは渡してくれない。


「これ結構重いんですよ~」


そう言ってポケットから布を床に広げて、そこにささっと置かれてしまった。

すぐさま近寄って触ってみるとザラザラとした焼き物の感触が手に心地よい。はしゃぐシャルロッテが蓋を持ち上げようとすると、そっと制されてしまう。


「はい、蓋あけるとこんな感じ~」

「わぁ!これ、これっ」

「これは土鍋といって、この間言ってた“鍋”という料理の専門調理器具です。落とすと割れるんで、お嬢様は持ち上げたりしないでくださいね~」


(何言ってんの!米も炊けるし、蒸したり煮たりの調理もできるのよ!お鍋だけじゃないのよ土鍋は!!私の方が詳しいわ!)


不満をぐっとこらえて「わかったわ」と返して「ねえハイジ、東の国の料理ってどんなものなのかしら」と聞いてみる。


「んー、ライスが主食で、メインとなる“おかず”は様々ですね。この“鍋”を使用する料理は、野菜と肉を煮込んだものになります~」

クリストフが土鍋を撫でて率直な感想を言う。

「土器みたいな見た目だな。東の国はなめらかな磁器や鉄は発達していないのか?」

「これが味があっていいんですよ~。この焼き物のテイストはわざとです、わざと!発展のレベルでいったらこの国と変わんないですよ、クリス様は知ってるでしょ。なんか誤解されてて野蛮と思ってる人もいますけど~」

「私はすっごく素敵だと思います!これで出来たカップとか欲しいです!」


(なんちゃら焼きのマグカップとか、コーヒーカップとか、あったらぜひ使いたい!)


目をきらきらさせるシャルロッテを見て、クリストフは一瞬で意見を変えた。

「土を感じる、独特の美しさがあるな」

「見事な手のひら返し~」ハイジは嬉しそうにしながら拍手をした。「いいですねぇ、公爵家のお二人が気に入ってくれたら流行(はや)りますよぉ。カップとかは見たことないので、母に聞いておきますね~」

クリストフは言い返すこともなく、ハイジを無視してシャルロッテを見た。

「お姉さま他に欲しいものは?」

「えっ、と。もう少し見てもいいかしら」


(え、土鍋くれるってこと?でも宝物庫にあるくらいだし、これって大切なものでしょう。お義父様の許可なくそんなこといいの?しかも私だけ貰うのは気が引ける…)


多少混乱しつつハイジの助けを借りて棚を見ていく。

すると美しいガラス細工のおちょこやグラスを発見した。


「これ!素敵だわ!」

「見事な色ですね、異国風です。グラスと、これはミニグラス…?」

「小さいカップはショットグラスに近いもので、お酒用ですねぇ。お二人が使うなら普通のサイズのグラスがいいですよ~」

「これクリスの目の色みたい!こっちは私の目の色!二人で使えたら素敵じゃない?」


クリストフに底が紅く上にゆくにつれて透明になるもの、自分は濃紫の同じデザインのグラスを選んで電球の光に透かすシャルロッテ。

うんうんと一人で頷き、一つをクリストフに渡す。


「はい!おそろいね」

「おそろい?」

「こうやって同じデザインのものを一緒に使うのよ」

シャルロッテはグラスを揺らしてみせる。

クリストフは渡されたグラスを両手で包むようにして胸に抱き、小首をかしげた。


「どうしてですか?」


「どうしてって」

一瞬言葉につまるシャルロッテだが、すぐに笑顔を浮かべる。


「私はこのグラスを見たら、クリスのこと思い浮かべるわ。そしたら嬉しくなるでしょう?」

「お姉さまが、嬉しくなる?」

「もう!さっきから質問ばっかり!クリスのことを考えたら嬉しいわよ!たった一人の弟だもの。今日ハイジと三人で楽しくお宝さがしをしたことだって思い出せるしね」

「そういうものですか」


しげしげとグラスを眺めるクリストフ。

「僕も、お姉さまのことを考えるのは嫌いじゃありません」

「ほんと?!」

目をぱっと輝かせて嬉しそうなシャルロッテの手からグラスを抜き取り、自分の持っていたものを渡すクリストフ。紅い瞳が、シャルロッテを真っすぐ見つめている。

「お互いを思い出すことが目的なら、色は逆が良いのでは。僕はこれを見たら、お姉さまの瞳を思い浮かべます。お姉さまも、僕の瞳を思い出してください」


(な、な、なんでこの子は!バカップルみたいな恥ずかしいことを!言うのかしら!)


シャルロッテは固まった。

「まるで恋人同士みたいに仲が良いですねぇ」

ハイジがしみじみとつぶやくものだから、シャルロッテはもっと恥ずかしくなって下を向いてしまう。なんだか変な提案をしてしまったと後悔するも、クリストフは紫色のグラスをくるくるまわして眺めていて、もうこちらは見ていない。


「ハイジって目、何色なの…」

「えぇ、ホラ。ちゃんと見てくださいよぉ」

ホラホラ、としゃがんでこちらを見てくるがよく分からない。

「分からないわ。黒?」

即座にクリストフの声が飛んでくる。

「黒のグラスはありませんよ」

「それならしかたないかぁ」

三人でお揃いにしたかったのに、と胸の中で考えるシャルロッテ。


「じゃ、そろそろいいですかね。鍋は後で運んでおきますので~」

そこでハイジはシャルロッテの手を引きエスコートをして、出口のドアを開けてくれた。


「すみません、クリス様には最後の締めを立ち会ってもらうことになってまして。お嬢様は先に部屋に戻っていてください」

「私も手伝うわよ?」

「大丈夫ですよ~、すぐなんで〜」


(宝物庫だし、鍵の開け閉めには私が関わらない方がいいかしらね。ここで残るってワガママ言うのもよくなさそうだし)


「わかったわ。絶対あの土鍋持ってきてね、待ってるからね」


シャルロッテは念を押してから、一足先に部屋に戻った。

手にはクリストフの瞳と同じ紅いグラスを握りしめて。




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[一言] 弟が3歳から激重で草
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