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*ある男子生徒の天使との邂逅について

いつの間にか100部超えました

たくさんの方に読んでいただけて感謝でいっぱいです!いつもありがとうございます!


ありがとうの気持ちを込めて、

ほぼ本編と関係のないオマケ話を書きました


本日2話投稿してますのでご注意ください






名もなき男子生徒は、静かに絶望していた。



―――最悪だ、厄日だ、もうダメだ…



昼休み、彼はタイミング悪く教師に呼ばれてしまう。しかもそれがまた女子生徒に人気のチャラい金髪の教師だったことで気分は急降下。呼び出された理由は課題の不備で、放課後居残りが決まってさらに気分は落ち込んでいく。



―――お腹空いた、疲れた、クソ…



遅ればせながら食堂に行っているはずの友人を追いかければ、食べたかったAランチは完売。しかも友人たちの姿は見当たらず、ふらふらと食堂の外を彷徨ってみるも見つからない。それならば部室の方だろうか?と、彼は部室に置きっぱなしにしてあるクラッカーでも食べようと歩き出したところで、何もない地面に躓いて転んで、近くに居た女子生徒に笑われた。


―――消えてしまいたい、俺なんかもうダメだ。


こうして積み重なったマイナス点で、彼はなんだかもう死にたい気持ちになっていた。

婚約者も居ない、大して家柄もよくない、顔もパッとしない、成績もよくない。その上運まで悪い。友達にも見捨てられたかもしれない―――自分の良くないところばかりに目がいく、そんな年頃の彼はフラフラと歩きながら、自分が惨めで恥ずかしくてたまらなくなっていた。



―――どうして、俺はこうなんだろう。もっといい家に生まれたかった、もっとイケメンに生まれたかった、もっと賢く、もっと金持ちに、もっともっと、もっと…!!!



―――そうすれば、俺だって。




彼は卑屈な性質だった。いつも周りと自分を比べては落ち込んで、負のループにはまってしまうのだ。そんな思考に囚われてよく前を見ていなかった彼は、ドン!と人にぶつかってしまった。どうやら相手も前を見ていなかったようだが、ガタイの差で自分だけ地面に倒れ込む。


「チッ!」

「あ、す、すみません」


思いっきり舌打ちをされて、反射でペコペコと謝る自分が情けない。ぶつかった相手は仁王立ちのまま、赤い髪と相まってさらに鋭く見える視線をこちらへと向けている。

確かこの赤髪は王子の護衛で、現騎士団長の息子だったはず。…それならば、ごく平凡な生徒である自分が敵う相手ではないなと、卑屈な気持ちで笑みを浮かべてやり過ごす。


「……前くらいちゃんと見ろ」


『そっちも前見てなかったからぶつかってきたのでは?』とは、言えない。小市民な男は言えないのである。


「へへへ、すみません」


急いでいるのだろう、大股で去っていくその背中を見送ってから「はぁぁぁあああ」と深い深いため息をついて立ち上がる。あんだけガタイがよけりゃ、俺だって強気になれるのに!ぶつかられたら「なんだコラ」とか言えるのに…!と、そんなことを考えてしまう。



自分を嫌いになりたいわけじゃないのに。



「どうして、俺って…」



もう泣きそうだった。

そうして彼は視線を上げた。



遠くの方で、二人組の男女が歩いている。学園の制服である白いジャケットがよく似合うスラリとした二人組だ。


下を向いていた女の顔が上がった。





時が止まる。




遠目に白金の光がきらめいた。その光に引き寄せられて、食い入るように女を見つめる。



太陽の光を集めて輝くような白金の髪は艶やかで。まるで家庭教師(ガヴァネス)のように、後ろにキュッとひっつめられているというのに…その美しさをちっとも隠せていない。小さすぎる顔に、大きな目がパチパチと瞬きをして動いている。瞳は紫色に輝いて上も下も長い睫毛が回りを囲み、薄い唇はピンク色に濡れている。

透き通るような白い肌で、細い手首は今にも折れてしまいそうなほど華奢だ。歳は十五、六歳頃だろうか?

スラリと背筋は伸びていて、細い首筋がいやに目に付いた。大人と子どもの中間の、危うげな色香にくらりとする。



男子生徒は思わず胸を押さえた。



―――誰だ、あれは。



その造形美は天使のようだった。彼はこんなにも美しい人間を見たことがなく、魂を抜かれたようにその場から動けなくなる。絵画が生命の息吹を受けて動いているのでは?と本気で考えるのも、どこかその顔に既視感を覚えるからだ。



―――そう、どこかで、この顔を見ている…?絵?彫刻?いや、あれ、どこで…?



思い出せそうで、思い出せない。


しかし彼はそこで、ハッと意識を取り戻した。

横の男が、なんと天使の腰に手を回したのだ!!



「クリス、一人でも歩けるわ」

「僕がこうしたいんです」



彼は幸か不幸か、耳が良かった。二人の会話が聞き取れてしまう。撫でるように天使の腰を抱く手つきに、彼の中で怒りがマグマのように湧き上がった!



―――誰だあの男は!!!!



「クリスは心配性ね」

「すぐに拐われたりするのは、どこの誰ですか」

「未遂よ、未遂!もう、いつまでも昔のことを…」

「僕は昨日のことのように思い出せます。だから、まだ怖いんです…こうしてちゃダメ、ですか?」



弱々しい男の声に、天使は呆れたように手を伸ばして頭をくしゃりと撫でてやっている。まるで猫のように頭を手にすりつける男の目が、ぱちりと開いて()()()()()()


紅色の瞳。


瞬時、鋭く刺さるような視線に体がガチン!と固まった。すぐに視線は外されたが…あれは絶対にこちらを見ていた…!

そうして男の正体に気がついて、しおしおと男子生徒の気持ちは萎えてゆく。だって、あれは、あれは…!



―――クリストフ・レンゲフェルトかよ…!



氷の副会長、冷徹公爵、裏ボス、大魔王、生き人形など、呼び名がたくさんある超有名人。黒髪に紅い瞳などの色彩は、学園広しといえど彼しかいない。


それでも、男子生徒は一度自分の目を疑った。




「もう、好きになさい」

「はいっ!」



―――やっぱりこの天使も幻覚か?クリストフ・レンゲフェルトが笑っているなんて、ありえないだろ?


無表情で有名なレンゲフェルトが、頬を染めて笑っているのだ。驚きしかない。しかも子犬みたいな「はいっ!」とかいう返事が聞こえて、男はさらに混乱してしまった。


―――あれ誰だ?中身が別人なのか?


愛おし気に天使を見つめ、大切そうに腰を抱いてそっと支えながら前へと進む男の横顔。やはり、いつも学園で見ているレンゲフェルト副会長ではない。


「僕、この間のテストも一位だったんですよ」

「入学してからずっとよね、本当にすごいわ」

「この間、剣術の模擬戦も一位でした」

「まあ!さすが、がんばってるものね」

「足もクラスで一番速いんです」

「そうなの?!」


褒めて褒めて!とばかりに、自分の功績を上げ連ねるレンゲフェルトの声。冷静沈着で、なんでも無表情でそつなくこなす、人形のような男はどこへ行ったのだろうか。


―――いや、まさか、こっちが素なのか…?


男子生徒は驚愕の可能性に行き着いた。

レンゲフェルトはもしかして、普段は強がってるだけで、本当は繊細で可愛い奴なのでは…?!


『レンゲフェルトの皮膚を切ったら青い血が出る』という伝説があるのだが、どうやら普通の人間らしいと男子生徒は気がついてしまった。だって、あんな顔…まるで恋する乙女みたいな顔で、レンゲフェルトが笑うから。

男子生徒は、小さな声でつぶやいた。



「笑ってたら…レンゲフェルト副会長も可愛い顔してるんだな…」



―――ちょっとタイプかも…



そうして多少混乱しながら二人の背中が見えなくなるまで見送って、それから彼はへなへなとその場に座り込む。



―――今のは夢だったのかもしれない。



「まあ、なんか…もうなんでもいいや!天使に会えるなんて俺はツイてるぞ…!大魔王の笑顔も見たしな!!」



彼は、この日を境に無駄に落ち込むのをやめた。

何か嫌なことがあっても『まあ、俺天使見たしな』『俺、魔王の笑顔見たし』と、心を持ちなおす術を覚えたのだった。



「いつかまた、天使と会えたらなぁ…!」



内心で、レンゲフェルト副会長の笑顔でもイイ…!と思ったのはナイショだ。素はいい奴なのかもしれないが、だって、普段が怖すぎるから。



ある男子生徒の幸か不幸か分からぬ昼休みは、こうして終わった。








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― 新着の感想 ―
[良い点]  初めに題名を見たのはツイッターでお勧めされていた方がいたからですけど、サイコなのは黒幕なのか義姉なのかが引っかかって釣られました。作中のゲームのホラーミステリ要素も楽しめるかもしれないと…
[一言] デルパン、人とぶつかってその態度はどうかと。護衛としてもダメだし…。 モブくん、副会長がちょっとタイプ?あれ?目覚めてしまった? 楽しく読まさせて頂いています。
[気になる点] うっかりとこの件を誰かに話してしまい うっかりモブ君が法螺吹き扱いされて、いじめられる未来まである(ない
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