エピソード:7『魔修羅、燃える』
みなさんこんにちは、ライダー超信者です。
魔人冒険譚、投稿4ヶ月ぶりってこれマジ?
ブレイズと交流し、親睦を深めた宝笑達。
しかし前回ブレイズに倒された魔王軍の男が再びやってくる。しかも今回は様子が違い……?
「………………………んごぉ………んぐぅ…………………」
「…………宝笑さん」
「……………………ンがっ………………どぅへへ…………」
「宝笑さん起きてください、朝ですよ」
体を優しく揺すられて目を覚ます。なんじゃらほいと見ると、そこにはキラキラとした美少女…………
「Oh、朝チュン……」
「???」
…………ではなく、ブレイズさんがいた。
俺のジョークに戸惑い気味の笑顔を向けるブレイズさんに誤魔化しの愛想笑いをするとベッドから這い出る。
昨日、様々な依頼を達成して何とか信用を勝ち取れた俺達(というより俺)は、どうにかこうにか宿屋に泊まることが出来た。
俺を見張るという都合や、そもそも他メンバーが全員女性ということもあって同室は必然的にブレイズさんになり、今に至るというわけだ。
「いや~~にしても布団っていいなぁ!フッカフカだフッカフカ。ちゃんとした寝具で寝るのって何日振りだっけ……こっちの世界に来てから時間とか日にちの感覚狂ってるなぁ」
「こっちの、世界……?宝笑さんそれはどういう……」
「あ、そっか…………実は俺、この世界の人間じゃないんですよ。気付いたらこの世界にいて……」
そう言って俺の身の上を話すと、ブレイズさんは目を丸くさせて驚いた。
「そんなまさか……だから宝笑さんからは魔力を感じないのか……」
「えーとブレイズさんは確か聖剣使い?
ソードセイヴァー?でしたっけ?」
「はい。聖剣に選ばれた人間を聖剣使い、その聖剣使いが変身した聖剣士をソードセイヴァーといいます」
「…………そもそも聖剣って……?」
「かつて大戦の際に天界、つまり神々から授けられたと伝わっている神器です。炎、水、雷、風、土、光、闇の七本と各々に選ばれた剣士が存在していて大戦があった神話の時代から今に至るまで、歴代の剣士達が受け継いで世界を護ってきたんですよ」
神話の時代から受け継がれてきた剣……すげぇファンタジーの世界だよこれ。…………あ、本当にファンタジーの世界だここ。
素でボケた自分に突っ込みを入れつつ壁に立て掛けて置かれている剣と盾に目を向ける。
「ブレイズさんが使ってるそれは……確かアグニ?でしたっけ?」
「はい。炎の聖剣・烈火爆炎剣アグニ。師匠から、そして偉大な先達から受け継いだ大切な物です。
『邪悪なる者あらば豪火の如く焼き尽くし、全ての命を照らし出す剣在り』……古くからそう伝わってきた希望の証です」
「うわカッケェ…………あれ……?じゃあ俺って聖剣使いの人達からしたら最優先抹殺対象ってコト……?」
「い、いえ、少なくとも僕はもう宝笑さんが敵だとは思っていませんよ。ただ、宝笑さんが持つ魔修羅の力はやはり危険な物なので引き続き観察は必要です」
「ワ、ワァ…………ワァ……」
「な、泣かないでください!?もう攻撃したりしませんから!」
ブレイズさんから説得されていたその時、外からフィーニアスさんの声が聞こえてきた。
「宝笑、もう起きてるかしら?」
「ワ……あ、はい!起きてますよ!」
「朝ご飯食べましょう。ヒノカさんとフラムちゃんのお腹の音がすごいの」
「宝笑さん『くきゅるるるる』すみません『きゅう~~』お腹が減っ『くるるる』しまって~」
「宝『ぐぎゅううぅぅぅぅぅぅぅぅぅ』」
「フィーニアスさん今そっち怪獣いる?」
着替えを済ませてブレイズさんと共に部屋を出るとフィーニアスさん達女性陣は既に全員揃っていた。
「おはよう」
「おはよう宝笑。よく眠れたかしら」
「もうバッチリですよ!久しぶりに布団で寝れたんで夢も見ないくらい爆睡してました。フィーニアスさん達もよく寝れました?」
「はい、朝までぐっすりでした」
「自分もぐっすりっす!涎垂れてました!」
「フラムちゃんそれ報告しなくてもいいよ?」
「あの、まずは酒場か料亭に向かいませんか?姉様がお腹を空かせていますので」
ナハトさんの発言を受けてみんなで食事処に向かう。その最中、ふと先日街を襲ったあの男性を思い出した。
あの感じからしてあれで終わったとは思えないんだよな……前に戦った牛の奴もそうだったし、またいつ襲ってくるか…………
(モンスターを斬るのも気持ちのいいもんじゃないけど人が変身してるとなるとなぁ。今度あいつが来たら俺、ちゃんと戦えんのか……)
こんなことを言っていたらきっと『甘い』と言われるだろうけど、いくら悪人とはいえ因縁も仇も復讐心も持っていない相手に刃物を振り下ろせる、引き金を引ける人間なんてそう多くはない。俺みたいな一般人なら尚更の筈だ。
頭の中でモヤモヤと悩んでいるとそれが顔に出ていたのであろう、フラムちゃんが覗き込むように声をかけてきた。
「宝笑さん?大丈夫っすか?」
「え?あ、うん、大丈夫大丈夫!」
「典型的な大丈夫じゃない人の返しですね……」
「オホホホ」
「宝笑、何かあるなら話して。話すと楽になることもあるわ」
フィーニアスさんに促され、思っていたことを話す。
「なるほど…………確かに戦いに巻き込まれた人間としては当たり前の感覚ですね」
「ははは……すいません、やるって言ったのは俺なのに」
「宝笑さん、あまり無理はしないでくださいね。戦いなら私達がいますから」
「そうっす!自分達に任せてくださいっす!」
「まぁ思い詰めなくてもいいのではないでしょうか。
自分の意思で魔王軍に下るような人のことなんて気に病むだけ損かと」
みんなから励まされ、少し気が楽になる。
「よーしなんか楽になった!さぁ飯だ飯!」
「「おー!」」
軽い足取りで五分もせずに酒場に到着する。中に入ると、見覚えのある人物が既に酒を飲んでいるところだった。
「お」
「あ、昨日のお兄さん」
それは昨日、この酒場で出会ったあのお兄さんだった。
向こうも俺達に気付き、手招きして俺達を呼ぶ。
「やぁやぁ昨日の子達じゃあないか。どうだい調子は、その感じだと宿屋には泊まれた感じかな?
まま座って座って」
「はい、おかげさまで」
「ぐっすりでした!」
そりゃあ良かった、とお兄さんは笑う。
落ち着いてから改めて見るととんでもない美形であり、彫刻か絵画のように均整の取れた顔に宝石をはめ込んだような乳白色の透き通った瞳、肌は優しい淡い光を放っているかのように白く、綺麗な黒い髪には赤、青、金のメッシュが入って…………とにかく言葉を尽くしても足りないくらいの男前だった。
「そりゃ良かったねぇ。そういえば君たち噂になってるよ、魔修羅の妙なパーティーが人助けしてるって」
「あらあら。妙なパーティーだなんて」
「心外です。妙なのは宝笑さんだけでしょう」
「ひどい。否定できないけど」
「あーらら随分冷たいんだねお嬢さん。せっかく美人さんなのにもったいないよ?笑って笑って」
「い、いえ、別に…………」
「そういえば貴方は?昨日もこの酒場にいましたが……」
「あー俺?通りすがりのしがない旅人だよ、大したもんじゃないさ」
お兄さんはブレイズさんの質問に笑って答えると酒を呷る。実にいい飲みっぷりでジョッキは一瞬の内に空になってしまった。
「あ゛ぁ~~んまいねぇ~」
「一瞬ですっからかんになっちゃったっす……」
「よい飲みっぷりですね~」
「でしょー?良かったら君たちも好きなの頼みなよ、お兄さん奢ったげるからさ」
「えっ?いやいやいや、流石に悪いですよ!」
「いーのいーの気にしない気にしない、何かの縁だと思ってさ。ほら、目が合うのも縁、石ころに躓くのも縁って言うじゃない。
あ、お姉さーん!注文いいですかーい!」
お兄さんはそう言ってウェイターを呼ぶ。結局押し切られる形で注文し、ご馳走になることとなった。
「へぇ~~お姉さん達大和の人なのか、どーりでえらい美人さんだと思ったよ」
「びっっ…………?姉様はともかく、私は違いますっ」
「いやナハトさんも相当美人さんだと思「宝笑さんも恥ずかしいこと言わないでくださいっ!」はい」
「あの、本当にいいんですか?ほとんど見ず知らずの僕達にこんな……」
「いいのいいの、食っちゃって食っちゃって!」
そうして運ばれてきた料理をおそるおそる食べていた時、フィーニアスさんが鋭い眼光でお兄さんを見据えながら問い詰めた。
「………………………………貴方、何を企んでいるの。私達にこんな施しを与えてどういうつもり?良からぬ目論見でもあるのかしら?」
「ちょちょちょちょちょちょちょフィーニアスさんステイステイステイ!!めっちゃ失礼だから!ね!?」
唐突に辛辣なフィーニアスさんに冷や汗をかく。
「えぇ~~心外だなぁ。純粋な善意と男気だって」
しかし、お兄さんは怒るでも気を悪くするでもなく笑って流し、料理をつまんで酒を流し込む。
内心めちゃくちゃホッとし、他の皆も同じように胸を撫で下ろしていた。
(なんか妙に刺々しいなフィーニアスさん…………こういうタイプ嫌いなんかなぁ……?)
「あ、そういえば魔修羅のお兄さんはさ、本当に世界をどうこうって気は無いわけ?人畜無害って感じの顔してるだけど、実は腹に一物抱えてたり?」
「いやいやないですよ、そんな大それたこと……多分やろうとしても皆に瞬殺されると思います」
「宝笑はそんなことをする人ではないから大丈夫よ。ねぇヒノカさん、ナハトさん」
「そうですね…………多分」
「もうナハトったら。宝笑さんは良い人ですよ」
「宝笑さんは良い人だから大丈夫っす!そんな悪いこと企むような人じゃないっすよ!」
「僕もそう思います。今まで聞いていた魔修羅とは、何か根本的に違う存在に感じて……クエストにも一緒に行きましたが、決して悪い人ではないと思いました」
「へぇ~~…………♪」
お兄さんは楽しそうに、どこか嬉しそうに笑う。
「聖剣士さんのお墨付きなら大丈夫そうだねぇ。
あ、俺そろそろ行かなきゃいけないから、後はごゆっくり。代金は全部支払っていくから安心してね。
それじゃ!」
そうしてお兄さんは支払いを済ませるとお店が出ていった。
「どこの世界でもコミュ強っているんだなぁ」
「ああいう馴れ馴れしい方は苦手です……何故ああもグイグイ来れるのか……」
「ナハトさんは照れ屋さんっすね~」
「そうなのよフラムちゃん、昔からはにかみ屋さんで~、そこが可愛くもあるんですけどね~~」
「ね、姉様!」
「それにしても結構な品数ですけど、あの人お財布は大丈夫だったんでしょうか……?」
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「うぅ……くそっ、くそっ……!後がない、後がないぃっ……!」
「にゃっほ~~調子どう?」
「……!? だっ、誰だ貴様っ!!」
「ん~~?まぁ同好の士ってとこかな。はいこれ、魔王様からのプレゼント」
「魔王様からの……?これは…………」
「〝モンスライザー〟 これに魔我魂を装填すれば更なる力が手に入る…………まぁ、もう元には戻れなくなるけどね」
「………………………………………………」
「どうする?」
「っ…………やってやるっ!どうせ後がないんだ……!」
「了解。頑張ってね……♪」
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食事が終わった俺はカウンターでクエスト一覧を見ていた。今日はどんな依頼からこなそうかと目を通していく。
「とりあえず今日一発目だし採取系かなぁ……」
「軽く肩慣らしはしておいた方がいいわね。私達は兎も角、宝笑はまだ実戦経験が少ないから」
「そうなんですよねぇ、少しでも経験値を積まないと」
フィーニアスさんと話しながら悩んでいると、聞き慣れない声が後ろから掛けられた。
「よぉ、てめぇが魔修羅か?」
振り返ると、そこには屈強な男が立っていた。一言で言えば荒くれ者な風体で背中には剣を背負い、俺達を見下ろしている。
(あ、なんか嫌な予感)
そう思った瞬間、男は予想していた通りの言葉を口にした。
「表に出な。ちょっと面貸してもらうぜ」
「~~~~ッッ、やっぱりこうなるか~~!!」
頭を抱えそうになったその時、フィーニアスさんが俺の前に出る。
「あん?なんだお前は」
「この人の付き人よ。彼に用があるなら、まずは私を通すことね」
「はっ、お前みたいなのに何か出来んのかぁ?
面白ぇ。出ろ」
喧嘩を売られた当事者の俺を放って二人は外へと出ていってしまい、慌てて追いかける。
俺が外に出た時には既にバチバチの状態になっており、さっきとは別の意味で頭を抱える。
「悪いことは言わねぇ、そこをどきな。俺は魔修羅を討伐してぇだけだ。人間には興味ねぇ」
「勝手ね。大方彼を倒して名声を手に入れる程度の浅い思惑でしょう?相手なら私程度で十分よ」
「あぁそうかよ。なら死んでも恨むなよっ!!」
「えぇ、お互いにね」
男は剣に手をかけ、フィーニアスさんに突っ込む。
そして剣を引き抜くとそのまま躊躇なくフィーニアスさんに振り下ろした。
「フィーニアスさん!!」
叫ぶ俺とは真逆にフィーニアスさんは眉一つ動かさずに立っている。マズい、と手元に召喚していたバジュラブレードを男の持つ剣目掛けて投げようとした瞬間、フィーニアスさんが動いた。
振り下ろされた剣を軽く避けると同時に体を回転させ、勢いの乗った後ろ回し蹴りを男の側頭部に命中させた。
呆気に取られていると更に脇腹と顎に連続で蹴り込み、トドメと言わんばかりに体勢が崩れた男の脳天に踵落としを叩き込んでノックアウトしてしまった。
「うっそーん……」
「随分と呆気なかったわね。この程度なのは分かりきっていたけれど」
「いいぞぉ姉ちゃん!!」
「カッコよかったぜー!」
周りから拍手と歓声が飛ぶ。フィーニアスさんは優しく微笑んで手を振る。
「フィーニアスさん強いんすね…………」
「心得があるだけよ、大したものじゃないわ」
「宝笑さーん?どこに……うわっ!どうしたんですかこれ!?」
倒れている男を見て外に出てきたブレイズさん達が驚く。
「これは……何があったのかしら?」
「…………宝笑さん、貴方、何をしたんですか?」
「あぁいや、ナハトさんこれはですね……」
「見つけたぞぉ……!」
みんなに説明しようとしたその時、見覚えのある人物が人混みの中から現れた。それは先日、この街を襲撃したあの男だった。
目は血走ってギラギラしており、息も獣のように荒い。以前戦った牛獣人のように後がないほど追い詰められているかのような姿だ。
「あんた……!」
「殺す…………お前もこの街の連中も……全部!!」
男は取り出した何かを下腹部にあてる。するとその何かは腰に巻き付いてベルト型のデバイスになった。そして取り出した魔我魂を起動させーー
『アームザウルス!!』
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ベルトに力任せに装填しバックル右側のスイッチを押し込んだ。
『モンスライズ』
「ぁあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」
ベルトから飛び出した得体の知れない物質が男を包み、苦悶の叫びとともその姿を大きく変える。先日ブレイズさんに倒された時よりも更に大きく、更に異形となった魔獣の咆哮が轟いた。
「ゴガアァァァァァァァァァ!!」
「うわぁぁぁ!!」
「逃げろぉぉ!魔王軍だぁぁぁ!!」
「おいおいおい、なんかパワーアップしてる……!?」
「宝笑さん行きましょう!」
「はい!ヒノカさん達は周りの避難をお願いします!」
『魔人剣バジュラブレード!』
『烈火爆炎剣アグニ!』
魔我魂を装填してグリップを引く。
「魔人転生!!」
「変身!!」
俺は魔修羅、ブレイズさんはソードセイヴァーに変身し、魔獣と相対する。
乗用車ほどの本体に二階建ての建物に匹敵する両腕を持った異形の魔獣は吼え、その巨腕を振り下ろす。
横に飛んで回避し、俺が右、ブレイズさんが左から挟み込む形で立ち回り、バジュラブレードから斬撃を放って距離を保ちながら攻撃する。魔獣は巨体のせいで小回りこそ利かないが巨腕を利用した広範囲攻撃が厄介であり、必死に避けつつ着実に攻撃を加えていく。
『フレイムドラゴン!』
『ブレイブリーディング!』
ブレイズさんは鍔の裏で魔我魂を読み込むと盾に収めることなくそのまま剣を振るった。
「パイロレイン!!」
『フレイムドラゴン!烈火爆炎撃!!』
聖剣から放たれた無数の弾丸のような火の球が魔獣に命中して爆発し、巨体を揺らした。俺も続くようにグリップを引っ張り必殺技をぶちかます。
『バジュラ!デモニックブレイク!!』
「どぉうおりゃぁぁっ!!」
黒と紫の斬撃波が魔獣に直撃し、大爆発を起こす。
「ガァアァァァァ…………!!」
「げェッ倒せない……!?」
「あのベルト型のデバイスで強化されていると見るのが妥当ですね……宝笑さん、気をつけて!」
ブレイズさんの言葉に頷き、警戒しながら踏み込もうとした時、銀色の甲冑に身を包んだ騎士達が現れた。
「ノバリス王国騎士軍だ!!魔王軍に魔修羅!大人しくしろ!!」
「えーと……これ援軍?」
「多分一応は……皆さん!彼は敵ではありません!それより街の人達の避難を優先させてください!」
「全員展開!距離を取りつつ魔法で魔獣を攻撃せよっ!」
「「「はっ!!」」」
ブレイズさんの言葉は届かず、返事をするが早いか騎士達はあっという間に魔獣を囲んで陣形を作り、魔法での攻撃を開始する。
「「イグニスフランマ!!」」
「「エレクトリックトニトルス!!」」
「「ウェントゥステンペスト!!」」
騎士達の放った火、電気、風の魔法が四方八方から次々に魔獣に命中する。
「グギャアァァァ!!」
しかし、魔獣は怒りの咆哮と共に巨腕で騎士達をなぎ払ってしまった。鉄の鎧を着込んだ人間達がいとも容易く宙へと巻き上げられ地面に叩き付けられる。
「なっ……!!?」
「おい大丈夫か!しっかりしろっ!!」
「早く逃げろ!ここは俺達に任せて!」
「魔修羅が何を……!」
「彼は味方です!僕が責任を持ちますから早く!」
「ぐっ………………申し訳ない!我々は民間人の避難だ急げっ!!」
騎士達は直ぐに行動に移り、周囲の避難と撤退に専念するようになる。ひとまずこれで大丈夫だろうとバジュラブレードを構えた時、魔獣が虚ろな声で何かを呟く。
「殺ス……コろス……ろ、す……全ブ、ゼン部……」
心など無いようにそれだけ呟くと咆哮を上げ、道中にある物を薙ぎ倒し、押し潰しながら明後日の方へ走り出した。
「やっべぇ追っかけねーと!!」
「宝笑っ!」
「!? フィーニアスさん!?何してんの危ないよ、早く避難避難!」
「あの〝傲魔獣〟を追うなら貴方のバイクを使って!あれなら追い付けるわ!」
「バイク……あ、そっか!バイクがあるじゃん!」
停めてあったバイクに跨がり、魔獣もとい傲魔獣を追って走り出そうとしたその時、不思議なことが起こった。
「ん゛ん!?え、ちょっ、なにぃ!?」
突然バイクが光ったかと思うと見る見るうちに外装が変形、生成されていき、黒と銀の流線形のボディに猛禽類の目のように鋭いヘッドライトが輝くモンスターマシンへと変わった。
「フィーニアスさんこれなに!?」
「説明なら後でするわ!今は早く!」
「…………!了解!!」
ハンドルを握って走り出した瞬間、マシンは恐ろしいほどのスピードで走り出した。
「うおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉ!?早やややややややちょっちょっちょっちょぉぉぉ!!??」
生身の人間では到底扱えないブレーキという概念を落っことしたような暴走スピードでかっ飛んでいく。
「のわぁぁぁぁぁぁぁぁっっとぉっ!!??」
曲がりきれずに家にぶつかる……ことはなく、そのまま壁を走って屋根に乗り上げ、傲魔獣を追いかける。
必死になって制御しているとあっという間に傲魔獣に追い付き、後方にマウントしていたバジュラブレードを引き抜くと全速力で飛んだ。
『ブルタタッ!ブルタタッ!ヒッサツマッジーン!!』
「剛魔激烈斬!!」
『バジュラ!デモニックバースト!!』
全力全開で放った一撃が傲魔獣を斬り裂き、地響きと共に倒れる。起き上がろうと踠くが、その異形の体型のせいで上手く体勢が立て直せないようだ。
なんとか着地してマシンを止めると空飛ぶ何かに乗ったブレイズさんが追い付いてきた。
「宝笑さんっ!」
「ブレイズさうわぁなにそれぇ!?」
「エアランナーです!」
「カッケェ!」
「ってそれより魔獣は!?」
振り向くとちょうど傲魔獣が体勢を立て直したところで俺達を睨み付けながら見下ろしていた。
…………しかし、ふと傲魔獣が後ろを向く。
「ひいっ…………」
「た、たすっ、助けて……」
「あれって……!」
「逃げ遅れた人達か……マズい!」
急いで逃げ遅れた人達と傲魔獣の間に滑り込む。瞬間、放たれたエネルギー破壊波が直撃し宙を舞った。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
吹き飛んだ先の家屋に墜落し、衝撃で家屋は瓦礫と化す。瓦礫を押し退けながら立ち上がると再び人々を襲おうとする傲魔獣の前に飛び出して振り下ろされた巨腕をバジュラブレードで受け止める。
「がっっ…………ふぅ゛ん……!!」
「あ、あぁ、あ……」
「魔修羅……?なんで……」
「早く逃げてっ……ブレイズさんお願いします……!」
「……!こっちです、落ち着いて!」
ブレイズさんが全員を避難させる。俺もどうにかして脱出しようとするが傲魔獣の圧倒的な重量とパワーによって体が少しずつ沈んでいく。既に足首までが地面にめり込んでいる状態だ。
「ブレイズさんが戻ってくるまで保つかなこれ……っ」
苦笑しながらも全力で受け止める俺。
『フレイムドラゴン!烈火爆炎撃!!』
「破邪清弓!!」
「破邪正廉剣!!」
「ドラゴンファイヤー!!」
その時、みんなの一斉攻撃が傲魔獣の巨腕に直撃、爆発と共に傲魔獣を後退させた。その隙に足を引っこ抜いて離脱する。
「みんな!!」
「宝笑さん大丈夫ですかっ!」
「街の人達は、全員避難出来たようです!」
「さっきの人達も無事に避難出来ました!もう大丈夫です!」
「なら、後はあいつを止めるだけか……!」
バジュラブレードを構え、傲魔獣と向き直る。
「…………宝笑さん、やっぱり貴方は悪い人でも最低最悪の魔人でもない。身を呈して人々を庇った貴方の目に炎が見えました……師匠が僕に見て、僕も師匠の中に見た勇気の炎が真っ赤に燃えていたんです。
僕は貴方を信じます。この世界を護るために、一緒に戦ってください!!」
「当ったり前じゃないですか!
よっしゃあ!なんか燃えてきたぁ!!」
ブレイズさんの言葉に触発された俺が熱く叫んだ時、またしても不思議なことが起きた。
「! な、なんだ?」
「これは…………?」
ブレイズさんの盾に装填されているフレイムドラゴンの魔我魂と俺の魔修羅の魔我魂が光り、反応しあう。
すると不意にフィーニアスさんから呼ばれ、魔我魂を投げ渡された。それはなんの模様も造形も彫られていない、いわばブランク状態の透明な魔我魂だった。
そして、以前聞いた魔我魂の特性を思い出す。
『相手の能力や特性を封入する、もしくはそのまま写しとる機能を持っているんですよ』
『要するに、敵の持つ力や魔力をコピーして使えるってことね』
「もしかして……!ブレイズさん失礼!」
ブレイズさんに向けて魔我魂を起動する。するとフレイムドラゴンの魔我魂から赤い光が溢れ、ブランクの魔我魂に吸収される。
透明な魔我魂は、赤い炎の模様が入った黒いボディと中央の水晶体につけられたドラゴンの顔を模した装飾品が特徴的な新しい魔我魂へと変わった。
「おぉ、新しい魔我魂……!」
「フレイムドラゴンをコピーした……!?」
「宝笑っ!それを使って!!」
「よーし……!」
『バーニングドラゴン!』
バジュラブレードから魔修羅の魔我魂を取り外し、出来たてホヤホヤの魔我魂を装填する。流れるメロディもエネルギッシュで体が自然と動き出すようなロックンロール調のものに変わり、グリップを引っ張ってトリガーを引く。
「魔人転生っ!!」
『魔人転生!!』
バジュラブレードを掲げて円を描くと、その円から真紅の龍が現れる。ブレイズさんのフレイムドラゴンが東洋の竜ならば、四本の足に大きな翼を持つそのドラゴンは西洋の龍だ。
龍……バーニングドラゴンは空中で大きく飛び回るとそのまま傲魔獣に向かっていき、さながら怪獣映画の如く取っ組み合いになって暴れまわる。
噛み付き、引っ掻き、尻尾で横っ面をひっぱたくと口から火炎を吐いて傲魔獣をガンガン攻撃していく。
…………当然、周りの建物もガンガン巻き添えになってぶっ壊れていく。
「ドラゴッッちょっ、ドラゴンちゃぁぁん!?
戻ってきてカムバッーク!!カムバックだよぉぉ!?被害増やしちゃダメだってぇぇ!!」
止めようとした時、ドラゴンは傲魔獣を吹き飛ばすと今度は俺目掛けて突っ込んでくる。
当然躱せるわけもなくドラゴンと正面衝突…………することはなく、突っ込んできたドラゴンは炎となり俺の体に鎧となって装着された。
『バーンアップ!ファイヤーオブブレイブ!
バーニングドラゴン!!』
燃える炎とドラゴンを象った装甲が装着される。
烈火龍の鎧を身に纏いし炎の魔修羅、〝バーニング魔修羅〟の誕生だった。
「おおぉぉぉすっげぇ!!フォームチェンジした!
バーニング魔修羅!推ぃぃ参っ!!」
「ドラゴンっす!カッコいいっす!!」
「イェーイ、フラムちゃんとブレイズさんとお揃い~」
「宝笑さん真面目にやってください!!」
「はいっ!!」
ナハトさんに一喝され、背筋が伸びる。
内に燃える力をバジュラブレードに宿すと刀身が燃え上がり、燃え盛る剣を片手に傲魔獣に向かって飛ぶ。そして本体に掴まると炎を纏った斬撃で斬り裂き、振り払おうと暴れる傲魔獣から飛び降りて距離を取る。
傲魔獣は怒りの咆哮と共に突撃してくるが繰り出された巨腕攻撃を弾き、逆にその隙をついて炎の斬撃を繰り出す。
「グルルガァッッ!!」
「うぉぉらぁっ!!」
炎を纏ったパンチで傲魔獣の巨腕攻撃と真っ向からぶつかり、打ち勝つ。火花を散らしながら大きく後退する傲魔獣に炎を纏った飛び蹴りで追い打ちを叩き込んだ。
傲魔獣が反撃としてエネルギー破壊波を放つが、それも真っ二つに切り裂く。
「パイロ……レインッ!!」
更に回り込んでいたブレイズさんが傲魔獣の頭上へと大きく飛び上がり、そこから必殺技を放った。背中から爆発と炎に呑まれる傲魔獣だが更に更にヒノカさんとナハトさん、フラムちゃんの技まで炸裂し、地響きと共に衝撃で周りの瓦礫を巻き上げながらその巨体が横倒しになる。
それでも傲魔獣は起き上がるが既にフラフラで暴れ回る体力も力ももうないようだ。
「よし……!これなら必殺技でケリがつく!」
「宝笑待って!奴を倒すなら覚悟を決めなさい!!」
グリップを引っ張ろうと手にかけようとした時、突然フィーニアスさんが叫んだ。驚いて思わず振り向く。
「え、ど、どういうこと?」
「あの男が使ったあれはモンスライザー、魔我魂の力を増幅させてより高い力を発揮し、人を傲魔獣へと変身させるアイテムよ。そしてその代償として変身者は〝二度と元に戻れなくなる〟わ」
フィーニアスさんの言葉に驚愕する。
…………まさかと思い、恐る恐る彼女に尋ねる。
「まさか…………」
「モンスライザーを使った時点でもうあの男は人間ではない!先日のブレイズさんのように、倒して元の人間に戻すことは出来ないわ!」
愕然とした。倒せば元に戻るとばっかり思っていた俺には衝撃的すぎる事実だった。
見ると傲魔獣は力なく唸りながらこちらを見ている。ふと、傲魔獣の顔にあの男の顔が重なって見えたような気がした。
「………………………………………………」
バジュラブレードを握る手が震える。いくら悪人でも怪物になった上、人に戻れず殺されるなんてあまりにも酷だ。
以前倒した牛獣人を斬った感覚も蘇ってきて眩暈と吐き気が襲ってくる。
「ぅつ……く…………」
「宝笑しっかりしなさい!!あの男はもう人間ではないの!止めたいなら倒すしかない!
この街や人々を護るためにもやるしかないの!!倒すことがあの男を救うことにもなるっ!救世主である貴方がやらなければ、他に誰がやるというの!?」
「…………………………………………」
「宝笑ッッ!!この程度のことこれから嫌というほど経験することになる!その度に罪悪感で潰れてとどめを刺せない戦えないなんて話にならないわ!
一瞬の迷いのせいで死ななくてもいい人が死に、出なかったはずの被害が出る!貴方がやるのよ宝笑!!!」
フィーニアスさんの叱咤を受けてグリップを握り、
震える手で引くとバジュラブレードの刀身が爆炎を纏って巨大な豪火の剣となる。
炎の中から現れたドラゴンと共に空中高く飛び上がり、ドラゴンが吐いたブレスによって加速。バジュラブレードを構えたまま勢いよく傲魔獣へと突っ込んでいく。
『バーニングドラゴン!デモニックブレイク!!』
「バジュラ!ブレイジングファイヤァァァァ!!」
豪火の剣が傲魔獣を斬り裂き、真っ二つになった傲魔獣は爆炎に包まれながら倒れる。
次の瞬間、傲魔獣は大爆発を起こして跡形もなく吹き飛んだ。突風が辺り一面を突き抜ける。
跡には影すら残っておらず、正真正銘俺の手によって一つの命が消し飛んだことを嫌でも認めざるを得なかった。こみ上げてきた吐き気を必死で抑え込む。
「…………大丈夫……大丈夫……大丈夫…………!!」
「宝笑さん……」
「こういう時って……なんて言って声を掛ければいいんすかね……?」
「今はそっとしておきましょう。残念ですけど
今の私達に出来ることはありませんから……」
「ですね……」
変身を解除してその場にへたり込む。
どうすることも出来ずに地面を見つめていると後ろから誰かに抱きしめられる。見ると、それはフィーニアスさんだった。
「ごめんなさい、こんなことをさせて……でも貴方のおかげで街は護られたわ。宝笑の勇気と覚悟のおかげよ」
「…………でも、俺……」
「大丈夫、あれはもうあの男でもなければ人間ですらないわ。単なる魔獣、魔物に過ぎないの。人を殺めたことにはならないわ。
魔王軍に慈悲や情けを持っても損をするだけ、その優しさは誰かを救うために使って」
そう言うとフィーニアスさんの抱きしめる力が少し強くなる。温もりに包まれるような感覚に、不意に一筋涙が零れた。
ひとまず魔王軍の尖兵を倒すことには成功したが、戦いはまだまだ始まったばかりだ。これから先もやっていけるのか、早くも不安を抱えるのだった。
「ま、一般人ならこんなもんだわなぁ。けど、君ならやれるぜ。城戸宝笑くん♪」
閲覧ありがとうございました。
もっと早く文章を書けるようになりたいなぁ…………