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エピソード:3 『冒険へ』

第3話です。毎度遅れてすみません……本職で速筆な人がどれだけスゴいか痛感しますね。


魔獣ベムラを撃破した宝笑=魔修羅。

世界を救うため、そして自分の元いた世界に帰る方法を探すため、フィーニアス達と共に旅に出ることを決めるが…………




ーーーベルディンの街 郊外ーーー



「…………すいません、俺のせいで……」

「宝笑さんのせいではありませんよ、気にしないでください」

「ヒノカさんの言う通りよ。宝笑は何も悪くないわ」


バイクを押しながら三人に謝る俺。

時は戻って十数分前ーーーーーーーーーー



「よし、じゃあ行こ「お前っっ!」


ベムラを倒し、新天地を目指そうとした矢先、突然男性が怒号を上げる。何事かと見ると、男性は俺に刃物を向けていた。

何がなんだか分からずギョッとしていると男性が叫んだ。



「お前、魔修羅だなっ!?この悪魔がっ……!この街から出ていけ!!」



男性の言葉を皮切りに、街の人達は次々と俺に怒りの目と言葉をぶつけてくる。


「出ていけ魔修羅!!」

「早くその人達から離れろ!!」

「滅びろ悪魔!」

「何を企んでるんだ!好きにはさせないぞ!」

「さっきの魔獣もお前が呼んだんだな!自作自演のつもりかっ!!」

「お父さんお母さん……」

「大丈夫、大丈夫よ…………」


「な、なんだよ……どういう………」


そこで思い出した。魔修羅はこの世界を滅ぼしかけた最低最悪の魔人。この世界の人達からすればこの上なく恐ろしい世界の終わりのような存在。

それが再び目の前に現れたとあっては、こんな風に暴徒になりかけてしまうのも致し方ない話だろう。


(流石にこれは……ははっ、キッツいな……)


俺が得た力が一体どういうものなのか、早くも嫌というほど理解する。


「ははっ……大丈夫です。もう行くから…………」


俺は頭を下げ、バイクを押してその場を後にする。

人混みの中にさっき助けた小さい子達を見つけ、手を振る。その子達が怖がっておらず手を振り返してくれたことだけが救いだった。


「さぁ!貴女達はこっちに……!」

「結構よ」

「同じく」

「ごめんなさい、私達も行きますね」


ヒノカさん、ナハトさん、フィーニアスさんも俺を追ってその場を後にする。心なしかフィーニアスさんとナハトさんの口調からは怒気や軽蔑を感じた気がしたーーーーーーーーーー



「宝笑大丈夫?」

「大丈夫……かな、はは……」

「その、まぁ、あまりお気になさらず。少なくとも、今のところは宝笑さんは何も悪いことはしていないので」

「そうですね。宝笑さんはもっと胸を張っていいと思いますよ」

「ありがとうございます…………よし!頑張るぞ!」


沈んだ気持ちを吹き飛ばすように拳を握る。やると決めた以上ちゃんとしないとな、それが元の世界に帰ることにも繋がるんだし……!


「その意気よ宝笑。私も手伝うわ」

「私達にも何かあったら遠慮なく言ってくださいねっ」


フィーニアスさんとヒノカさんの優しさが沁みる。

しばらく歩いた所で一旦休憩となり、木々の生い茂る森の中に腰を下ろす。全身でマイナスイオンを感じて癒されていると突然背後の茂みがガサガサと動いた。

咄嗟に身構えると、そこから一人の女の子が現れた。


「あっ!いた!」


その女の子は不思議な容姿をしていた。鉢巻を巻いた頭からは角が、お尻からはトカゲのような小さい尻尾、背中からはコウモリを思わせる翼が生え、耳は所謂エルフ耳のように尖っている。

何だか見たことあるような…………とりあえず普通の人間じゃないことは確かだ。


「えーと、君は?」

「自分〝フラム〟って言います!あなたはさっきの魔修羅……ですよね?」

「う、うん」


俺が頷くと女の子……フラムちゃんの目が輝く。


「さっきの戦い、すごくカッコよかったっす!最初はすごい悪い人かと思ったんすけど、街の人達やパーティーの人達のために戦ってて…………悪の力を正義のために使う……上手く言えないけど、自分が知ってる英雄とは全然違くて!スゴいカッコよかったっす!!」

「そ、そうかなぁ……そうかなぁ!?」

「はいっ!」


目をキラキラさせながら熱い口調で言うフラムちゃんに俺はすっかり気を良くする。我ながらチョロいと思うけど、あれだけ敵意を向けられた後だと純粋な好意や肯定は効果抜群だ。と、ヒノカさんがフラムちゃんに問いかける。


「フラムさん、あなたはもしかして竜人族ですか?」

「そうです!自分は竜人族っす!」

「竜人族……あぁ!なーんか見たことあるなって思ったらドラゴンに似てるのか!いやぁスッキリした!」

「宝笑さん、竜人族やドラゴンを知ってるんですか?」

「あぁいや、俺の世界の創作物によく出てくるキャラクターなので…………」

「竜人族は人族の中でも稀少な種族なの。フラムさん、貴女はどうして一人で?そもそも竜人族が人前に堂々と出ること自体あまり無いことよね」

「修行みたいなモンっす。自分、強くなって沢山の人を助けられるようになりたいんです。魔王軍に苦しめられてる人を、一人でも救えればって」


フィーニアスさんの問いに真っ直ぐに答えるフラムちゃん。パッと見中学生くらいなのにスゴいなぁ…………ヒノカさんといいナハトさんといい精神年齢高くないかこの世界。


「でも、フラムちゃん大丈夫?まだ若いよね?」

「はいっ!十五歳っす!」

「十五歳か…………俺より八つも下なのにすごいなぁ」

「「え?」」

「え?」


ヒノカさんとナハトさんの声が重なる。


「宝笑さんって、二十三歳なんですか?」

「は、はい」

「……………………見えません、精々私より少し上くらいかと」

「うわぁよく言われるヤツだ…………」

「そ、その!お話いいっすか!?」

「あぁごめん!何だっけ?」

「自分をパーティーに加えてほしいっす!」

「パーティー……って、何人かで組むチームみたいなやつだっけ?」

「そうよ。基本的には四人から五人で組むことが多いけれど、特に人数制限はないわね」

「へー…………あれ?俺達ってパーティーなの?」


ヒノカさんとナハトさんに尋ねる。


「まぁ、端から見ればそう見える可能性もあるかと。事実上のパーティーと言いますか」

「そうねぇ。パーティーを組むのに何か書類や手続きが必要なわけでもありませんし、パーティーになると思いますね」

「あらー」

「どちらにせよ、私は大丈夫ですよ宝笑さん」

「姉様が大丈夫なら私も」

「私も特に困ることはないわ」

「よーし、それじゃあフラムちゃんよろしく!」

「はいっ!」


こうして、俺達に新しい仲間が増えたのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーー数時間後ーー


休憩もほどほどに出発した俺達は景色の変わらない森の中を黙々と歩く。進めど進めど見えてくるのは木々ばかりで、実は同じ所をグルグル回ってるんじゃないかと思ってしまう。


「フィーニアスさーん。次の街ってあとどれくらいで着くんですか?」

「そうね、大体二日くらいかしら」

「あぁ二日 ふ つ か !?」

「えぇ。二日」

「二日も歩き通すの!?二日ぁ!?」

「この世界では珍しいことではないわ。馬車やテレポート魔法のようにもっと早く移動出来る手段もあるけど、あの状況では馬車は貸してもらえないだろうしテレポート魔法も使わせてもらえなかったでしょうから結局歩きよ」

「俺のせいかよぉ…………本当にごめんなさい……」

「そ、そんなに気にしないでください!私もナハトもお散歩は好きですよっ!ねっ、ナハト?」

「散歩は好きですが…………それとこれとは話が違うと思います姉様」


肩をがっくり落としてため息をつく。俺のバイクはあるけどいくら異世界とはいえ五人乗りはなぁ……そもそもそんなスペースないし、ガソリンだっていつまで保つか…………前途多難で頭を悩ませていると、突如目の前に二体の魔物が現れた。


「キャッ、キャッ、キャッ、キャアァァァァ!!」

「クキャァァァァ!!」


片方は紫色の体に枝分かれした角を持ち、もう片方は薄い銀色の体と剣のように鋭い角を持つ人型のモンスターだ。甲高い鳴き声を上げてゆっくりとこちらに近付いてくるモンスターは明らかに俺達に敵意を持っている。


「フィーニアスさん、あれ何!?なんか鹿っぽいけど……!」

「ギガロープとメガロープ……アンテロープ型の魔物よ、気をつけて!」

「アンテロープって何!?」


フィーニアスさんから答えが返ってくるのを待たずモンスターが襲い掛かってきた。


「来ます!」

『バルタタッ!バルタタッ!

    バルタタタタタタタタッ!!』

「魔人転生!!」

『魔人転生!!』

『デモン・ザ・バジュラ!!』


バジュラに変身した俺はバジュラブレードでモンスターに斬りかかる。ギガロープはこちらの攻撃を上手く躱しながら自慢の角を器用に使ってバジュラソードと斬り合う。一方メガロープは俺に目もくれず、俺と同族の頭上を飛び越えてフィーニアスさん達の下へ向かう。


「ナハト」

「はい、姉様」


ヒノカさんが太刀を抜き、向かってくるメガロープとぶつかる。流れるような剣捌きでモンスターの攻撃を全ていなし攻撃に転じる。


「…………はっ」


ナハトさんの放った矢が命中し、モンスターの意識が一瞬ナハトさんに移る。


その瞬間ヒノカさんの斬撃がモンスターを斬り刻んだ。


「ギャッ、キィィィィィ!?」


更に立て続けに放たれた矢がモンスターを貫き、断末魔と共に爆散した。


「おぉぉぉ!!ヒノカさんナハトさんスゴいっす!

よーし自分もっ!!」


張り切った様子のフラムちゃんが構えると両腕が炎に包まれ、竜を思わせる鱗に覆われた腕に変わった。背中の翼も大型化し、その姿は正しく竜人と呼ぶに相応しい。


「宝笑さんっ!行きますよぉぉぉ!!」


ものすごい勢いでぶっ飛んできたフラムちゃんはそのままギガロープを殴り飛ばす。ミシィ……という音がハッキリ聞こえる程の力で顔をぶん殴られたモンスターは勢いよくふき飛んでいった。


「うっわすごっ…………フラムちゃんやるなぁ……」

「ありがとうございます!一緒に行きましょう!!」

「よっしゃ!!危ない時はちゃんと下がってね!」


俺とフラムちゃんは同時に走り出し、斬撃波を飛ばして牽制しながら接近したモンスターに連続斬りを浴びせ、更にフラムちゃんの鉄拳が打ち込まれる。

圧倒されるモンスターはフラムちゃんを狙って優先的に攻撃するが、俺が防ぐのはもちろんフラムちゃんもボクシングを彷彿とさせる動きでギリギリとはいえ攻撃を躱してしまう。

モンスターを斬撃で上空へと打ち上げ、それを追って飛ぶとグリップを一回引っ張り必殺技待機状態へ移行する。


『ブルタタッ! ヒッサツマッジーン!』


「魔人一閃斬!!」


『バジュラ!デモニックブレイク!!』


すれ違い様に一刀両断され、モンスターは空中で大爆発。その爆発を背に受けながら着地する。


「宝笑、やったわね」

「お見事でした宝笑さん!」

「宝笑さんすごいっす!カッコいいっす!」

「いや~~いやいやそれほどでも……!」

「宝笑さん、油断慢心は大敵ですよ」

「は、はい……」


ナハトさんに窘められながら変身を解除し、俺達は再び歩き出した。


ーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーー

ーーーーーー


そして夜。


「……………………よし!これでオッケーっと」


フィーニアスさんの用意したテントとヒノカさんナハトさんのテントを張り終えた俺は額を拭う。

正直、こういうキャンプみたいな経験は生まれて初めてだから少しワクワクしている。


「宝笑さん手際がいいですね」

「キャンプとか夜営はしたことないんだけど、何回かお手伝いはしたことあるんです。その時取った杵柄って感じですかね」


ヒノカさんと話しているといい匂いが漂ってくる。後ろではナハトさんとフィーニアスさんが晩ご飯を用意してくれていてフラムちゃんはそのお手伝いをしている。


「皆さん出来ました」

「こっちも出来たわ」

「はーい!」


そして夕食が出来たところでみんなで集まり、火を囲む形で座ると手を合わせて食べ始める。


「ん~んまぁ……!二人共料理上手なんだ!」

「えぇ。多少の心得はあるわ」

「姉様に中途半端な物は食べさせられませんので」

「美味しいっすねぇ!」

「ふふっ。今日もとっても美味しいわナハト」

「! ありがとうございます姉様。これからも精進致します」


あぁ美味しい。腹だけじゃなくて心も満たされていくのが分かる。

………………こうして誰かと楽しい食事をするのって何時ぶりだっけな…………母ちゃんが亡くなって、〝凜ちゃん〟が死んで…………もう四年半近くになるのか。

誰かと一緒にご飯を食べる。俺にはもう随分とご無沙汰だったものだ。やっぱりいいなぁ………………


「ょう…………宝笑さん?」

「へ?」


ハッとして顔を上げるとみんなが心配そうな顔でこっちを見ていた。


「宝笑さん大丈夫っすか?なんか泣きそうっすよ……?

「お口に合いませんでしたか?もしそうなら作り直しますが…………」

「あ、あぁいや、ごめんごめん。ちょっと感傷に浸っちゃってて、料理はすっごい美味しいよ!」

「大丈夫ですか?無理はしないでくださいね?」

「いやもう全然っ!ちょっと訳ありというか何というか、そんな感じですから」


笑って誤魔化す。怪訝そうな視線が痛いけど、こんな話みんなには聞かせなくていい。変に気を使わせてしまったら申し訳ない。

そんなこんなでご飯を食べ終わり後片付けに取りかかると、ナハトさんは鍋に向かって人差し指を向ける。


「ネロ」


そう呟いたナハトさんの指からなんと水が出てきた。

俺はビックリ仰天してまじまじとナハトさんの手や指を見るが、タネも仕掛けも見当たらない。

そうしている内に水が溜まりナハトさんは鍋を洗い始める。


「ど、どーなってんだ…………!?」

「魔法。この世界ではごく当たり前のものよ。今ナハトさんが使ったのは水属性魔法のネロ。さっき火起こしの時に使ったのは火属性魔法のイグニス。どれも初歩の初歩の魔法ね」

「すっげぇ…………そうか、ここって魔法の存在する世界なんだっけ……」

「……………………宝笑も、使ってみる?」

「えっ?」

「魔修羅の力を手に入れた今なら、貴方もその魔力を使って魔法が使えるようになってるわ。もっとも……」

「よっしゃ!イグニス!」


名前を唱えて人差し指を突き出す……………………しかし、うんともすんとも言わない。


「あ、あれ?ネロッ!」


やはり魔法は出ない。首を傾げて指とにらめっこしていると、フィーニアスさんが苦笑いする。


「練習無しじゃ無理よ。教えてあげるから少しずつ覚えましょう」

「……………………………………………………はい」


そうこうしている内に後片付けも全て終わり、俺達はテントに入った。

が、ここでまた一つ問題が発生した。


「……………………ねぇフィーニアスさん」

「どうしたの?」

「なんで俺とフィーニアスさん同じテントなの?」



そう、何故だか俺とフィーニアスさんは同じテントで寝ることになっていた。



「駄目だったかしら」

「いや駄目とかじゃないけど……嫌じゃない?俺みたいな冴えない奴と一緒に寝るって」

「いいえ」

「あ、そう…………」


ばっさり一言で言い切られてしまい、それ以上何も言えなくなってそのまま毛布を被る。

幸い疲れていたこともあり、ドキドキする間もなく瞼が重くなってきた。


(これからどうなるんだろうな…………)



俺は目を閉じ、眠りに落ちていった。



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