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メンズエステ  作者: みぃ
35/38

35 罪悪感

 機械的にぶっ飛ばされるようにしてイかされてわけもわからなくなっているうちに繋がっているというのでは、なんだか機械とヤっているみたいに思われてきて、井上くんに頼み道具を封印してもらおうとした。

 男の子の井上くんの立場から見れば、これさえすれば私の体に容易に受け入れ態勢を整えさせる事ができるから、痛くないようにと私のためを思ってしてくれている事なのだろうけど、なんだか…いつもいつもこれでは…

 二人の体の間に道具を挟む形になってしまい、抱き締め合う姿勢から離れるし、見下ろす側と見下ろされる側に完全に別れ、まるで自分もコンセントに繋がってショートする機械になったような気分なのだ。

「もっと井上くんとしたい。これじゃ道具とヤってるみたいで…」

そう言って、彼の手から道具をそっと奪い、脇に置いた。

 彼の体にギュッと体を押し付け、抱きついて、彼の胸や喉や首の温かい香りを吸い込んだ。

(ああ、井上くんだ…)そう実感するだけで湧き起こる彼を欲する気持ちに、じんわりと体も呼応して、もう大丈夫そうな気がした。

「このまま…」


 道具は私の体に(エッチとは痛いばかりのことじゃない)と教えてくれ、快楽への近道を示してくれた。けれど近道ばかりするのは嫌だった。本来、イくことが目的ではないからだ。

求め合う気持ちをゆっくり確認し合い、愛情を交換したいだけだった。


「出すこと自体が目的じゃないしね…」と井上くんも言い始めた。

「繋がるだけでも良いんだよ…」

「えっ?そうなの?」と私は聞き返した。

「男の人は出す時だけが気持ち良いんだと思ってた…」

「まぁ気持ち良さのピークはね。でも、体が繋がってると心も満たされるというか…だから、できるだけ長い時間繋がっていたいなぁ…

 そうだ、繋がったまま眠りたいなぁ、今日やってみよう?」

(またハードルが高いことを言い始めたな…)と私は思った。

 仕事帰り、夜中の道を二人で歩いていた。

「眠いし…現実的にはそれは難しいと思う…痛くなりそう…」

「こっちが寝たらきっとスルッと抜けるよ。そんなにいつまでも大きいままじゃないから。心配しなくても…」

 でも実際に家に帰ってからやってみると、繋がっているところに気を遣ったままでは気が抜けなくて、筋肉の緊張を解いて眠ることなど到底できそうになく、一旦、一区切り終わらせてから眠った。

「角度が変わると痛くなるのか…」

井上くんが分析した。


 私達は何も使わなくても互いの体だけで充分に満ち足りるようになっていった。

 彼の体に重なり合って眠りに落ちかけながら、子どもの頃によく母に連れられて見に行ったシャガールの絵を思い出した。密やかな青い街を浮かんで漂う一組の恋人達を描いたあの幸せそうな可愛い絵の中の二人になったみたいに、自分達の魂も結ばれ、この狭い部屋から壁をすり抜けて漂い出していき、ゆらゆらと揺れ、心地良く浮かんでいる…

 こんなに幸せな眠りについたことはこれまでに一度もなかったなぁと思いながら眠った。



 井上くんはすごく綺麗な男の子だった。

初めて彼の裸を見たのは安いホテルで眠った何度目かの夜明けの事だった。それは北野坂のどこかの屋根裏部屋だった。屋根の傾斜で部屋の形が三角形をしていた。

 無理やり押し込んだみたいな大きなベッド。その他には何も家具が置けないみたいに狭く、角を斜めに切り落とされ傾斜する壁にピッタリな形に作り替えられた棚がなんだか可愛かった。

「わ~」

「屋根裏だ…」

「隠れ家みたい」

「忘れ去られた部屋みたいだね…」そんなことを言い合ってワクワクしながら狭い部屋を探索した。

 ベッドの中で、

「そっちから先に脱いでよ」

「そっちが先でしょ」と言うような話になると、井上くんは渋々自分から先にシャツのボタンを外しながら、恨めしそうに言い返してきた。

「男だって恥ずかしいんだよ?」

それは初めて知った発想だった。男の人はみんな見せたがるもの、恥ずかしくないもの、と私は思い込んでいたのだ。

シャツを脱ぎ、その下のTシャツも脱いでしまうと、井上くんの胸には柔らかい毛が生えていて、そこから一直線の毛並みが体の真ん中を通り、お臍の下、パンツの中へと続いていた。引き締まった呼吸するたびに波打つ白いお腹に規則正しいみたいに揃って生えている毛が可愛らしかった。

「わぁ~…」指で触れてみた。

井上くんも自分の胸を見下ろしている。

「ライオンみたい」

「そんなモジャモジャじゃないでしょ」

「あのライオンキングの子どもみたい」

「シンバ?」

「そんな名前だったかな。井上くん、普段ブカブカの服着てるから、太ってるんだと思ってた…」

 毛並みに沿って上から下までゆっくり撫で下ろし、それから毛並みに逆らって撫で上げてみた。

「そっちも早く脱いでよ」

 

 一眠りした後でシャワーを浴びにいく時の彼の何も着ていない後ろ姿は本当に綺麗だった。

あんなに恥ずかしがっていたのに彼はベッドから降りると全裸で足を肩幅くらいに開き、斜めから射す光を一身に浴びて、握り締めた両手の拳をグーンと突き上げ、伸びをした。傾斜のある天井にゴンと右手の拳をぶつけ、

「うわ痛っ」

と呟いて、私が見ているかどうか振り返り、照れ笑いをした。

「すごく綺麗。井上くん。均整がとれて…計算し尽くされて作り上げられた男の子みたい。ダビデ像みたい。

 私仕事柄色んな男の人の服を脱いだ姿見るから、本当のことだよ。井上くんはこれまでに見た男の人の中で一番…美しい。彫刻も含めても。

 世界中の美しい人達を集めて、そこから美の統計をとって、導き出した答えみたい。井上くんって」

「それ褒め過ぎでしょ」

でも私は心の底から本気でそう言ったのだ。多分とっくに恋し始めていて、好きな人を見る目が他のものを見る目とは全然違って、公平には見られなくなっていたのだ。

でももう一度冷静になったつもりで改めてまた見てみても、彼の脚は長すぎず短すぎずちょうどそれに釣り合う筋肉の形だったし、肩幅も背中や腕も全てが絶妙な均衡を保っていた。


 彼を好きになるまでの自分は、スラリとした体型の人が理想的な人間の形なんだと思い込んでいた。なんのかの言っても脚は長ければ長いほどスラリとして綺麗に見えるし痩せている方がきっと美しいはずなんだと思っていた。でもアルバイト中にも出会うモデル体型で綺麗だと思う人達は、服を脱いで裸になってもらうと、なんだか本当に心配になるくらいヒョロヒョロして見え、すぐに脚がとれてしまう脚の長いバッタとかの昆虫みたいで、関節と関節の間がそんなに長くて肉がないと耐久性は大丈夫なのかと不安になってしまい、そんなに美しく見えなくなってしまった。服を着ていて完成されて見える人々は服を脱いでしまうと早く服を着させてあげたくなってしまうのだ。


 井上くんは私の世界の中では一番素敵な人になってしまったので、もはや私の脳内では彼が男性の美の頂点に君臨しており、彼を基準にして彼に似ていないところが多い人から順番に醜男で、彼に似ているほどカッコいいみたいな基準になってしまった。

 でも本当に彼に一番似ているのはダビデ像なのだ。首から下だけは。

「お前の目は相当イカれてきてるぞ」

とずーっと前からマイマイも教えてくれていたけれど。

 

 とにかくそんな彼のそばにいれば私の内側からも彼を欲する気持ちが沸き起こってきてしまうようになり、道具などは必要なくなり、むしろ面倒臭いぐらい欲情してしまうようになってきた。


 井上くんのせいだ。私の体は作り替えられてしまった。求められるままに応じ続けていたら、いつの間にか同じ量をこちらからも期待して欲し続けるようになってしまった。


 学校でも、道端でも、街の中の至る所、人の来ない路地裏の吹き溜り、公衆トイレの中などで、募りすぎた情熱を晴らした。



「こんな豪華なホテルにばかり連れてきてもらったら、もう他の同い年くらいの男の子とは付き合えなくなるんじゃない?薄汚い安ホテルとかもう無理でしょ?」

千賀さんからはそう言われた。

 千賀さんのポルシェやこだわりの名前も覚えられない車に乗って連れて行かれる宮殿のようなホテルや、リゾート地みたいなラブホテルも、確かに豪華で珍しく、壮大さや細部まで行き届いた造りの細やかさには目を奪われた。

 でも私は正反対のことを考えてしまった。

 どんな王宮のような場所よりも、井上くんと一緒に過ごせるなら、そこが私が一番幸せになれる場所だ…たとえ公衆トイレでも、そこに井上くんがいるなら…そこが私には薔薇の咲く楽園のように感じられる。

洗濯物だらけで狭苦しい家に早く帰りたい…彼が待っているから…


 豪華な希少な場所に連れてきてもらっても、お客さんの好意には感謝するしありがたいしビックリしてしまう(自分にはもったいないなぁと思う)のだけれども、

(わぁ~、井上くんと来れたら良かったなぁ…いつか彼と一緒にここへ来たいなぁ…彼からどれだけ離れてしまってるんだろう…今…彼は何をしてるんだろう…)

などと考え、寂しくなったり心苦しくなったりした。

 贅沢なご馳走をお客さんに食べさせてもらう時も、心が千切れる思いがした。

目の前のお客さんには感謝していた。感謝しなくてはいけないなぁとも思っていた。でも心の中では同時に、

(井上くんにも同じものを食べさせてあげたい…自分ばかり贅沢をして申し訳ないなぁ…)という罪悪感も募った。


 ある日のアルバイトの終わりに、いつものように迎えに来てくれた井上くんがポツリと

「お腹減ったなぁ」

と言うのを聞いて、ドキッとした。彼はいつもコンビニで買った揚げ物やマクドナルドで買った揚げ物などを片手に持っていた。

「学校でそう言うのは一番体に悪いって習ってるのに…」

何度もそう言っても井上くんはヘラヘラしてあんまり聞く気がないようだった。

 彼にも美味しいものを食べさせてあげようと、深夜まで営業しているご飯屋さんやバーに連れて行ってあげるようになった。自分の罪悪感を軽くするために。




続く

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