投獄
早朝の薄暗い裏道には喧騒の後の静けさと無表情の女だけが取り残されていた。
茶色い髪を後ろで一つにまとめた地味なグレーのワンピースを着た女はさっきまでの出来事を思い返してある疑惑が浮かぶ。この時初めて彼女は形のいい眉をひそめて表情を動かした。
懐から似顔絵を取り出す。さっきの男がこの似顔絵の男と似ている気がしたのだ。だが、確証はない。薄暗くてよく分からなっかたのだ。
この似顔絵の男には王国軍元帥アーグから暗殺の指令が出ている。万が一、本人なら後を追う必要がある。
彼女は一人そう決心すると早朝の薄暗い路地裏から姿を消した。
「だから!!友人に会いに来たと言ってるでしょう!!」
僕は狭い殺風景な部屋の中で何度目も言ったことを繰り返す。
僕は三人の赤と黒の制服を着た屈強な男に囲まれてかれこれ二時間こんな押し問答を繰り返している。
「嘘をつくな!!お前にわが国民の友人がいるわけがない!」
嘘はついている。しかし、証拠もなく最初からそう決めつけたような言い方には納得がいかない。僕にだって友達の一人や二人作る能力はある!
・・・・そんなに友達がいなさそうに見えるかな。
「それに忌々しい黒髪黒目ではないか。汚らわしいやつめ!」
容姿に対する悪口は人には言ってはいけないと教えてもらわなかったのだろうか。こういうデリカシーのない中年おじさんが一番むかつく。
そこで比較的若い背の高い男が中年に言う。
「隊長、ちょうど3時間です。」
それを聞いた中年はとてもうれしそうな顔をする。
「やっとか!」
部下のほうを見てそう声を上げると、すぐにこちらに顔を戻してニマァと気持ちの悪い表情を浮かべる。
「3時間の質問でスパイである可能性が高いと判断しさらなる尋問のために共和国刑事法第16条によって被疑者カイト・カリオストロを牢獄にて1か月間拘束する!」
「・・・え?」
奥で一人だけ机に座っている男がカリカリとなにやら高速で書いている。
僕は思わず間抜けな声を出してしまった。
その言葉はまるで何度も使われてきた定型文のような抑揚のない言葉だった。
中年はさらに嬉しそうにこう続ける。
「これからお前は共和国最大最悪の牢獄へ行くことになる。この国から集められたどうしようもない犯罪者の巣窟だ。運が良ければ生き残れるかもな。」
大笑いする男たち。
僕はただ茫然としていた。
「おっとそうだった。貴様はもう犯罪者なのだから手錠をつけなければ。共和国刑事法第6条によって被疑者カイト・カリオストロに手錠をかける!」
ガチャリ!
音を立てて僕は手錠をかけられる。
僕はあまりに一瞬の出来事に反応できずにいた。
しかし、僕はここで確実に抵抗すべきだった。
なぜなら、この手錠こそが僕を最も苦しめることになるからだ。