暗殺者
それはブルーノと別れて30分後のことだった。
王都を出るために関所を通らなければならないのだが、そのために近道をしようと人通りの少ない裏道に回ったのだ。
僕は人が少なく静かなところが好きでこの裏道は好んで使ってた。
そんな裏道を一人歩いていた時だった。カツカツと僕一人の足音だけが反響していた。
そんな僕がいきなり真正面から飛んできた投げナイフに反応できたのは奇跡だろう。
暗闇の裏道の中、白く反射するナイフが体を逸らした先に一瞬で通り過ぎる。
息をするのも束の間で、闇に潜んでいた何者かに右背後から首をナイフで刺された。
さらに上から飛んできたナイフが心臓に突き刺さる。
この三つの攻撃がほぼ同時にやってきた。
(確実にやるために3段階の攻撃だったのか。てことは最初の攻撃は囮か。)
僕は悠長にもそんなことを考える。焦りはない。驚きはしたが。
僕の様子を見てか背後の暗殺者が動揺する。首に突き刺したはずのナイフが全く刺さってないのだ。
今の僕の体は全身が鉄のように硬くなっている。
僕は魔力を込める訓練も兼ねて常に魔力を体に込め続けていたのだ。
暗殺者は僕の暗殺が失敗に終わったと気づくとすぐに逃げの一手に転じた。
煙玉を投げつけ一目散に逃げようと鍛えた足で高速で走り出す。
だが、訓練した暗殺者より僕の方が足が速い。僕は既にナイフを投げた男二人を気絶させて拘束した。そして最後の一人を追う。
「聞きたいこともあるし絶対に捕まえる。」
訓練された暗殺者がゆっくりに思えるくらいに速い速度で追いつき地面に組み伏せる。暗殺者の黒フードが土で汚れ、石に擦れて破れる。
「さて、質問その1。君たちはどこでナイフの使い方を学んだんだ?」
とりあえず指を一本折る。
「ガァッ!」
苦痛な声を上げる暗殺者は歯を食い締めている。
「答えろ。」
淡々と告げるのが効果的だ。
「マ、マセロア共和国だ。」
あぁ、南の大国か。やはり南ではまだ剣が使われているのかもしれない。
僅かな期待が生まれる。
「質問そのニ。なぜ僕を襲った?」
「……。」
沈黙する暗殺者の指に圧力を加えて行く。今度はゆっくりと攻める。
指がだんだんと逸れていき曲ってはいけない方向へ曲がろうとする。プルプルと震える中指にさらに力を加えようとしたところで暗殺者が音を上げる。
「言うから!頼むからやめてくれ!」
力は維持したままだ。
「早く答えろ。」
暗殺者は涙声になりながら答える。
「お前を監視するように軍から依頼があったんだ。お前が他国に願えるようなら殺してしまえと言われていた!」
なるほど。戦争中の軍としては僕と言う天才は味方にいれば心強いが敵になることは何としても避けたかったのか。
「い、言ったんだから助けてくれ!」
なんて情けない暗殺者だ。でもそれでこそいい。僕は暗殺者らしくないこの男に好感を持った。
自分らしく生きることが大切だ。その職業のステレオタイプによって自分を歪めるのは良くない。
トンッ
僕は暗殺者の首に手刀を放つ。もちろん魔力は込めていない。
気絶した暗殺者を裏道の端に寄せておく。
「なんだか嫌な感じだ。さっさとこの国を出よう。」
僕は関所へと急いだ。