とある学長
学長室に入る手前で葛藤が起きる。どうしても入りたくない気持ちが自分の教師としての責務に反抗する。
でも入らなければならない。
私、オレオンは今日学長に嫌味を言われるために呼ばれてきた。
ガチャリ、ゆっくりドアを開ける。
「やっと来たか、オレオンくん。」
くるりとドアと反対にある窓を向いていた椅子を私に向けて禿げ上がった頭が見える。
「お待たせしました、学長。」
「なんで呼ばれたか分かっているか?」
もちろんわかってる。それを自分に言わせようとするところがいちいち気に入らない。
「はい。カイトくんの退学の件でしょうか。」
禿げた学長はそれを聞いて深くため息を吐き、そうだと同意した。
「今我がアバレル王国はウェスブル共和国と戦争中なことは君も知ってるだろう。」
もちろんだ。この隣接する2ヵ国は長い歴史を見ても仲のいい時期はほとんどない。
「この国立魔術大学は国内から優秀な魔術師を生み出し国の軍事力を高めようとする国家プロジェクトなんだ。」
相槌の打ちにくい話である。
「…はい。」
「それを分かっていながら君は1000年に一度の魔術の天才をみすみす退学を許したのかね?」
学長は指を机にトントンとリズムよく打ち鳴らしこちらを冷たく見る。
ここで何を言うのが正解だろう?はい、と素直に肯定しても怒りを買うだろう。いいえ、と否定から入っても言い訳と思われて怒りを買うだろう。
ただ、この場合におけるベターな選択肢を知ってる。
それは肯定も否定もせずにひたすら謝罪することだ。
「申し訳ございません!」
それを聞いて溜め込んでた怒りが爆発したかのように語調が一気に荒くなる。
「謝れば済むと思ってるのか!?君がしたことは我が国の軍事力の衰退だけに留まらず国力の衰退に直結する!」
それだけ言うと一旦ため息をついて
「全く、1000年に一度の天才を輩出したことで我が国が世界制覇することも夢ではなかったと言うのに。」
落ち着いてくれたか?と淡い期待をしたが学長はすぐに顔を真っ赤にして唾を飛ばす。
「君のせいで全国民の夢が泡沫の泡となって消えたんだぞ!!!」
そこまで言うとまた一息つく。
情緒不安を疑うくらい感情の波が激しい人だ。
いや、単純に歳で怒りのエネルギーを維持できないだけか?
そんなことを考えながらまだぶつくさ言ってる禿げた学長を見る。
「全く!私の像は賊に破壊されるし、どんだけ金がかかったと思っておるんだ!悪いことしか起きない!!」
そこまで顔を赤くして言うと、ふぅとまた一息吐きこう言う。
「とにかく君には何かしらの処分が下ると思いなさい。今日はもう良い。」
マジかよ。予想してたとはいえ。
はぁ、なんとなく下向きになりながら退出しようとする。
すると、
「あぁ君。」
なんだよ、まだなんかあるのか?
「君の授業がつまらないって本当かね?」
…。もしかしてあの野郎退学理由に授業がつまらないからって書いたんじゃないだろうな。