ダレス
「ヒィッ!助けて!」
屈強な男が惨めにも泣き叫ぶ。その男の命乞いも虚しく白髪の女が指を一度鳴らすだけで頭が木っ端微塵に吹き飛んだ。
女は白くて長い美しい髪をバサッと後ろへと流す。
「はぁ、つまらないわね。どいつもこいつも骨がない奴ばかり。王国人ってのはみんなこうかしら?」
女が退屈そうにため息をついている背後で機会を窺っていた眼帯のいかにも歴戦の戦士風の男がとっさに魔術で攻撃する。
「ちょーしに乗ってんじゃねぇ!」
女にこちらを振り返る隙も与えない完璧なタイミングの攻撃だった。
それなのに、
「やっぱり退屈ね。」
白い女は男を見ることなく指だけ正確に指し男の放った魔術ごと男の頭を吹き飛ばした。
時間差で頭を失った男の体が力無く倒れる。
まるでこの女のために作られたような白と黒の制服は返り血一つ付いていない。
女は今倒したばかりの男たちは見えていないように遠い目をしていた。
「千年に一度の天才とやらは少しは楽しませてくれるのかしら?」
白い死神は共和国最大の監獄のがある方を見ていた。
「ここか?827号室ってのは。」
僕はイヴァンから貰ったマスターキーを使って鉄格子の扉を開けた。
そのタイミングを見計らったかのように暗がりから男が飛びかかってきた。
もちろん避けた上でカウンターパンチをお見舞いする。
後は地面に大の字になった小柄な初老の男を一瞥すると牢全体を見渡しながら言う。
「この部屋にダレスという男はいるか?」
すると意外なところから声が聞こえてきた。
「わしじゃよ。強気者よ。」
そう答えたのは先ほどカウンターパンチを喰らわせた初老の男だった。
「おぬし、何者じゃ?看守ではあるまい。」
「僕は脱獄中の囚人さ。」
それを聞いてダレスは要領を得ない顔をする。
「脱獄中の囚人がわしに何の用じゃ?」
「剣を教えることができるだろ。」
それを聞いたダレスは驚きと困惑が混じった顔をする。
「まさかあやつが話したのか……。」と独り言のように呟く。
「しかし、分からん。剣を教えることができることと脱獄がどう関係するんじゃ?」
「脱獄とは関係ない。でも僕の人生の目的とは関係があるんだ。」
ダレスは少し考えるように間を取る。
「つまり剣を教えるなら脱獄させると?」
「もちろんだ。」
ダレスはそこまで聞いてしばし考える。
果たしてコイツに脱獄できる力があるのか。もし失敗したら刑は重くなりタダじゃ済まない。
しかし、コイツはおそらくイヴァンを倒している。つまりイヴァン以上の実力者。
この監獄にイヴァン以上の実力者はいない。
つまり脱獄できる可能性は高い。
もう何年生きられるかわからない。
このチャンスを逃したらもう二度と太陽を見ることができないかもしれない。
「分かった。剣を教える。その代わりわしの安全は任せたぞ。」
「おっしゃ!」
カイトはうまくいって思わずガッツポーズをとる。
そんなカイトを見てダレスは思うのだった。
嘘じゃよ。バカめ。
貴様には脱獄のためにせいぜい利用させてもらうとするか。
なんてったってわしはあの日から二度と弟子はとらんと心に決めておるのじゃからな。
「おーい、じーさんこっちだぞ。早くいくよ。」
「分かった分かった。」
ダレスはほくそ笑みながら後を追った。




