ゲーム
「ちょっと待った!!」
やべー。言ってしまった。
でもこのまま黙って見てると僕のくだらないプライドが傷つくんだ。
まるでこの男の筋肉に僕が恐れて屈したみたいで。
恐怖することは構わないんだ。
怖いものに対してどう向き合いかが大切なんだ。恐怖しないために努力するのは意味がないんだ。
僕は恐怖で自分の信念を曲げたくない。
手が震える。呼吸が早くなる。でも目だけは離さない。大男は自慢の蹴りが中断されて不機嫌そうだった。
「おい。どういうことだ。お前が代わりに受けるのか?言っとくがむかついたから手加減はしないぞ。」
そう言って男はその金二個で包まれた大木の幹のような太い脚で空中を蹴る。
ヴォン!!というすごい風切り音が響き3mは離れているはずの僕にまで強烈な風が打ち付ける。
やっぱ怖いな。冷汗が止まらない。
「カイト!やめときなよ。君みたいな若い子が後遺症の残るような怪我をしてはいけないよ!」
アイクがいう。本気で心配してくれてるようだ。
確かにあれをくらえば死んでもおかしくない。もちろん死ぬつもりはない。
「ゲームしないか?」
男はそれを聞いて怪訝な表情をする。
「はぁ?ゲーム?やるわけがないだろ。」
乗り気じゃないようだ。僕の提案にますますイライラした様子を見せる。
まずいな。あの蹴りを回避するためには何とかしてゲームに乗らせないと。
焦る気持ちを静める。
「僕が勝ったら蹴りは無しだ。もし僕が負けたらアンタのご自慢の蹴りを2発受けてやろう。」
男はますますイラついた様子を見せる。
いいぞ狙い通りだ。勝負に乗ってこい!
「カイト!正気か!?あの蹴りを二回も受けるなんて。死ぬ気か!」
アイクが目を見開いて詰め寄る。
「安心してください。ちゃんと考えがありますから。
僕は小声で答える。
「面白いじゃねぇか。そこまで言うなら死ぬ覚悟はできてんだろうな!」
乗ってきた!あぶねー。もし乗ってこなければあの蹴りをくらうとこだった。
「ゲームは俺が決めるぞ。」
「構わない。」
構わないとも。なぜなら僕はゲーム、ギャンブルにおいて無類の強さを誇る。僕は掛けごとやギャンブルが好きでよくやるが、負けたことがない。
なぜ負けないかって?それは僕の第四の魔術だといかさま放題だからさ。
魔術によるイカサマはありふれた話だ。というかみんなやってる。それだけに対策も練られ見破られやすい。しかし、まだ発見されてない魔術の使い方だと絶対にイカサマがばれることはない。
そう僕の魔術があればどんなゲームが来ても負けるわけがないのだ。
ん?魔術があれば?
あっ、使えないから今筋肉の脅威にさらされてたんだった。
「じゃあこのトランプを使うぞ。」
まずい!あまりにいろんなことが起きすぎてとんでもないミスを犯してしまった!
男がどっからともなくトランプカードを持ってくる。
「言っとくがいまさら無しなんてできないからな。」
どうしよう。このままじゃ普通にゲームすることになってしまう!
もし負けたら蹴りあの蹴りを2発も。確実に死ぬ。
そういえばけつポケットのサイコロは持ち物検査でとられなかったな。
「ちょっと待った。そのカードは怪しい。イカサマしてるかもしれない。僕のサイコロを使いたい。」
「あ?さっき俺が決めていいって言っただろうが。」
何とかして説得しないと!
「気が変わったんだ。それに自分で選んだゲームのほうが勝敗に納得するできる。何か不都合なことがある?」
「ちっ!ねぇよ。それでいい。」
よし来たぁ。これで僕の勝ちは決まった!
なぜならこのサイコロは僕がイカサマ専用に改造した特別なサイコロなんだからさ!
魔法によるイカサマが主流のこの時代には意外とこのような原始的なイカサマが通じやすいんだ。
これで勝ちだ。そう確信してる僕は気づけなかった。
牢の奥の薄暗い場所からこちらに目を光らしてる存在に。