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はぐれ魔剣師  作者: 草の根
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ピンチ


 石造りの堅牢な建物の中に入った大勢の人々はグループごとにそれぞれの看守に連れていかれる。グループといっても家族はバラバラのグループになることが珍しくなかった。

 あちこちで人々が別れの言葉を交わしている。



 そんなことには気にも止めずカツカツと看守の歩を進める無機質な音が広い廊下に響き渡る。どんどん地下に下って今が地下何階なのかもわからない。太陽の光が届かないこの階では不気味な薄暗さが漂っている。廊下の両脇にある牢の奥は暗くて見えないが獰猛な獣の視線を感じる。

 

 まずいな。まずすぎる。

 僕は落ち着きなくソワソワしていた。

 手元を見る。何度見てもそこには金属製の武骨な手錠がはめられていた。

 僕はこの手錠によって魔術を封じられている。つまり戦闘能力と防御力ともに0だ。剣を振るのには最初から魔術による身体強化を期待していた。もとから運動が苦手な僕は地道に体から鍛えていく気がなかったのである。

 

 その付けが今になって僕を苦しめる。


 僕はこの手錠のせいでただの雑魚に成り下がってしまったのである。今の僕はもやしだ。ちょっとしたことで死んでしまうかもしれない。


 この手錠にそんな効果があると知っていればあの時全力で抵抗したのに。

 この後悔も何度もした。

 

 そうこうしてるうちについたのか看守が言う。


 「お前らはここだ。」


 最終的に3人にまで細かく分けられた。


 運よく僕はアイクと同じになった。

 「あんちゃんと同じ牢でよかったぜ。」


 アイクは小声でそうつぶやく。そして僕の様子を見て怪訝な表情をする。


 僕は今返事をする余裕がない。


 ただこれから入る牢の中にどんなやばいやつがいるのかそのことに頭がいっぱいだった。


 頼むから僕みたいにもやしみたいな体格のやつばかりであって欲しい。


 僕はそう考えながら恐る恐る牢の中に踏み入れた。


 牢の中に光源はない。廊下のろうそくの光では奥まで十分に光が届かない。薄暗く石造りの牢はジメジメとした湿気とぶるぶると震えるような寒さがあった。


 僕は入りながら奥の人影に目が釘付けになった。どうやら4人いるようだ。体格はわからない。


 しかし、奥の1人の人影がのそりと動き光の届くところに姿をあらわした。



 「お前らが新しいおもちゃか。」


 その男は僕らを見下ろすように言った。


 で、でかい。身長は190は越えてそうだ。それに加えて裸の上半身からは巨大なムキムキの胸筋が存在感を主張する。


 なんでこんなに鍛えてんだよ、ちきしょー。魔術最強の現代では軍隊でさえもやしばっかりなのに。もはや筋肉は女にもてたいやつしか鍛えてないぞ!


 何はともあれ魔術が使えないこの空間では筋肉が最強であった。


 「キヒヒヒ。この牢獄では入ってきた新入りはある儀式をする決まりがあるんだ。」


 男は凶悪な顔面をにやりとゆがませながらそう言う。

 儀式と聞いて嫌な予感しかしない。


 「お前らの中から一人だけ俺様が思いっきり蹴り飛ばすんだ。そして、蹴られる奴はお前らで話し合って決めろ。どうだ?最高に面白いだろう?」


 面白くねぇよ。

 内心そう毒づきながらどうするか考える。

 

 抵抗なんてできっこない。おそらく3人がかりでも無理だ。

 

 3人の間に微妙な沈黙が走る。もちろん誰も蹴られたくはない。あの大男に蹴られればただじゃすまない。

 そんな気まずい沈黙を破るように大男がイラついたような口調で言いながら床を蹴って地面を揺らす。

 

 「さっさと決めろよ。こっちはいつでも準備OKなんだからよ。」


 「ヒッ!」

 

 3人のうち知らない禿げた男が思わず小さく悲鳴を上げる。そして、恐る恐るこっちを見て言う。


 「お、俺はいやだぜ。ま、まだ死にたくない。お前らのどっちかがやれよ!」


 僕とアイクは目を合わせる。そしてアイクは僕を見ると覚悟を決めたような表情になる。


 「お、俺が行くよ。まだ若いカイトに行かせるわけにはいかねぇ。こういうのは将来に可能性が少ない俺みたいなおっさんが行くもんだ。」


 アイクは震える声でそう言う。

 大男が近づいてくる。


 「お前でいいんだな。ちなみに俺の蹴りをくらったやつは二人が複雑骨折、三人が内臓がつぶれて死んじまった。お前は生き残れるかな?」


 アイクはぶるぶると震えている。

 これでいい。これでいいはずだ。魔術が使えない今、僕がするべきは徹底的にリスクを回避することだ。


 アイクには悪いが死なないことを祈ってるよ。


 「じゃあいくぞー。歯ぁくいしばれや。」


 男が構える。僕は目をつぶる。


 

 

 「ちょっと待った!!!」


 やっちまった。後悔してももう遅かった。

 大男は「あぁ?」と機嫌の悪そうな声を上げてこっちを見る。

 アイクはというと目を見開いてこちらを振り返っている。


 心臓がバクバクと鳴りやまない。足がすくむ。でも言うんだ。


 「蹴るなら僕を蹴れ!!」


 僕は睨みつけてくる大男から目をそらさずそう言った。


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