退学
1000年に一度の天才と期待されてる青年がいた。
それは僕だ。
「今日をもって退学させてもらいます!」
僕は担任の先生に向かって宣言する。
先生は僕のセリフに目を点にしている。
数秒固まって、我に帰ったかのように話す。
「な、なぜだい?君は国内最難関の我が校に首席で入学してこの国トップの才能を持った天才じゃないか!?」
「理由は二つあります。」
「一つは僕が魔術師に全く興味がないことです。」
そのセリフを聞いて先生はまた驚く。
「なぜだい!?魔術師は卒業後は人生を約束され、高待遇で生涯安定だ!しかも、魔術師は戦闘職で最強!全てのものの憧れだ!君なら世界最強の魔術師になれる!」
何回も聞いた一般的な常識にため息をつきたくなる。
世間一般では魔術師は最強である。剣での近接攻撃が主流だったのが2000年前。それからは魔術という遠距離攻撃の圧倒的な力の前に剣は廃れた。
しかし、この魔術師最強というのに僕は疑問を持っている。というのも僕は魔術の新しい使い方に気づいたからだ。そしてその使い方は剣士でなければならない。
僕の予想が正しければ剣士こそ最強。
「魔術師にはもともと興味がなかったのですが、将来の夢がない僕に父が強烈に進めてきたんです。才能があるからって…。だから、仕方なく入ったんです。」
「そんな…。魔術師に興味がないなんて人は君が初めてだ。こんなに才能があるのに…。」
魔術師に興味がないのはバイト先の魔術師達が楽しくなさそうというのも大きい。日々競争させられ、人と比較され評価される。常に気が休まらず長時間労働も当たり前。強烈な縦社会の中で魔術師が浮かべる表情は愛想笑いだけ。
そんなストレスフルな職場で魔術師達は不健康そうだった。
「やめて何をするんだ?将来の目標はあるのか?」
来た。大人たちは将来の夢という言葉が3度の飯より好きに違いない。子供の頃から言われ続けてきた質問だ。
やりたいことはその魔術の新たな使い方について研究したい。しかし、僕は決して自分の好きなことや目標を人には言いたくない。これは過去のトラウマからくる一種のどうしようもないものだ。
自分の考えを言うことが死ぬほど嫌いなのだ。だから嘘をつく。
「今までの経験を無駄にしないためにもバイト先に正式に魔術師の助手として就職する予定です。」
このバイト先は3日前に辞めている。大人が就職という言葉を聞くと安心する脳の構造になってることは既に学習済みだ。
「君なら最強の魔術師になれるはずなのに。」
先生は納得はしてなさそうだった。それでも構わない。先生の納得なんてどうでもいい。
僕は頭を下げて足速にこの場を去ろうとした。しかし、ドアを開けたところで一つ言い忘れたことに気づく。
「あぁ、先生。まだ二つ目の理由を言ってませんでしたね。これが決め手になった理由なんです。」
「な、なんだね。」
不意に声をかけられて先生は驚いて机の上に向けていた顔をあげる。
「二つ目の理由は先生の授業が死ぬほどつまらないことです。」
僕はドアを丁寧に閉めた。