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 ビートルズ解散のニュースだって二年も経てばすっかり下火だ。そんなことより今はあの馬鹿犬をどうやって捕まえようか、そっちの方がアレクにとってずっと重要だった。


「こら! 待て! 待てってば! おい!」


 アレクは散々怒鳴りつけながら、凄まじい速さで駆け抜けていく短いしっぽを追っていた。雑種のチビのくせになんて速いんだ。せっかく大人しく遊んでやってたのに、何が気に入らなかったのか突然走り出したのだ。さすがに、友人が飼っている犬を行方不明にさせるわけにはいかないと追いかけていたのだが。


「待てよこら……ああもう!」


 彼は生け垣の下をくぐって向こう側へ行ってしまった。この先は確か小さな広場だったはず。アレクは舌を打って、回りこもうと反転した。けれどすぐまた反転して、僅かな隙間を見つけ出すと生け垣を無理やり突っ切った。


「きゃあ! いやっ!」


 女の子の悲鳴が聞こえてきたからだ。

 枝葉に引っ掻かれながらどうにか生け垣を抜ける。と、興奮しきった様子で跳ねまわる馬鹿犬と、きゃあきゃあ泣きそうな声で喚いている女の子がいた。あの馬鹿犬、よりにもよって――こんなとびきり可愛い女の子のスカートに噛み付くなんて!


「こら! こら、やめろってこの、馬鹿!」


 慌てたのが悪かったかもしれない。でもアレクだって必死だったのだ。だから、これは事故だったのだ。悪気のない事故。一体誰がアレクを責められるだろう――犬を引き剥がそうとして、スカートをめくってしまった彼のことを。

 だが、この不慮の事故に対して、


「わーぉ」


 思わずとはいえ感嘆の声を上げてしまった彼は罪を問われて当然である。この段に至っては、彼のすっきりとした優しげな風貌も、春の夜空のような柔らかな黒髪も、黒曜石のような美しい瞳も、なんの免罪符にもならないのだ。

 真っ白い下着と太腿をしっかりと目に収めたアレクは、次の瞬間思い切り神の鉄槌(ビンタ)をくらった。


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