第3話 メジャーデビュー作戦会議
昨日僕の語った、メジャーデビューまでのロードマップで重要になってくる人物が、映像研究会の鳥坂澪さんだ。
鳥坂さんは学園祭のライブで僕たちのことを気に入ってくれて、今度ミュージックビデオを作ってもらえることになっているが、まだそんなに深い仲ではない。
まだそんなに深い仲ではない鳥坂さんだが、僕はなんとしても彼女の協力を仰ぎたいと思っている。
動画配信を行いたいからだ。
僕は精力的にライブ活動を行うよりも、精力的に動画配信する方がメジャーデビューへの近道だと思っている。
でも、ただ動画をアップするだけではダメだ。
高校生の演奏動画を投稿するだけでは、他の動画に埋もれてしまうし、引きも弱い。重要なのは動画としての魅力だ。
でも、素人がそんな簡単に魅力的な動画を作れるのか?
答えはノーだ。
実は何度か自分でトライしてみたのだがそう簡単ではない。
だから彼女なのだ。
僕は動画サイトに上がっている鳥坂さんの作品をいくつか視聴した。
驚きのクオリティだった。とても高校生の作品だとは思えなかった。
僕は彼女には才能があると思う。
自画自賛になるがもちろん『織りなす音』にも。
高校生だからできる学生同士の繋がり、部活同士の繋がり、音楽と映像の才能の相乗効果で、メジャーデビューへの切符を手繰り寄せたいと考えている。
この提案は鳥坂さんにもメリットがあるはずだ。
僕たちの動画にクリエイターとして名前を刻めるのだから。
そんなわけで僕たちは早速、鳥坂さんに話をもちかけた。
「とういうわけなんだ……どうかな?」
「面白そうだねボクはいいよ。協力する」
「「「本当に!」」」
鳥坂さんはあっさり了承してくれた。
でも……なんか裏がありそうで怖い。
「ただし……」
……やっぱりきた。
「音無くんを私の撮影モデルとして1日レンタルさせてください!」
「「「オッケー」」」
僕の意思を無視して、あっさり交渉が成立した。
「ほ、ほ、ほ、ほ、本当ですかぁぁぁぁ!」
「え、いや、ちょっと……」
「どうせ引き受けるんでしょ? 彼女が許可してるんだし、問題ないでしょ?」
たしかに……衣織が許可してくれていると倫理的な問題はないけど。
「じょ……女装……するんですよね?」
「もちろんですよ!」
……やっぱりそうだ。
実は僕……学園では、女装でちょっとした有名人なのだ。
それというのも学園祭のクラスの出し物が『男女逆転コンテスト』で僕はそれに出場し見事優勝したのだ。
しかもその後の軽音部のライブに、女装のまま出演してしまった。
幸か不幸かそのライブの出来がすごく良くて、瞬く間に評判が広がり……僕は女装で有名人になってしまった。
しかも学園SNSと言われる学園のタグ付きSNSで、僕の女装のファンクラブまで出来る始末だ。
「その、動画って……やっぱり投稿するんですよね?」
「当然ですよ! 全世界に音無くんの正義を布教します!」
やっぱり……つか、僕の正義の布教ってなんなんだよ……。
「できたら窪田との絡みをとり「それは却下よ!」」
食いぎみ且つ、鋭い眼光が鳥坂さんに向けられた。
「は……ハイ!」
鳥坂さんがあっさり引き下がった。
え、なに? 2年の間では衣織ってもしかして怖い人なの?
「とにかく、交渉成立ね。よろしく鳥坂」
『『よろしく』』
なんか最後は強引な気がしたけど、とりあえず動画の目処がたってよかった。
——このあと時枝と穂奈美はリズム隊のパート練習を少ししたいからということで、衣織と僕は先に帰ることにした。
これは……久しぶりの放課後デートだ。
「ねえ鳴、鳥坂って可愛いでしょ?」
いきなり、どうしたんだろ衣織。
「うん……そうだね」
「……それだけ?」
え……それだけってなんだろう……容姿のこととかもっと触れないとダメとか?
「ねえ鳴、久しぶりに寄っていこうか」
衣織が指差したのは河川敷の方向だ。
……これはもしかして!
河川敷に着くと、衣織がちょこんと座り膝をポンポンと叩いた。
これは……膝枕のサインだ!
久しぶりなので、ちょっと緊張してしまう。
「早く!」
「はい!」
あれ……もしかして機嫌悪い?
そして膝枕をしてもらうと、イキナリ頬をつねられた。
「鳴……今日は黙ってやられててね!」
衣織がつねる力を強めた……まあまあ痛い。
僕は今、アメとムチを同時にもらっています。
ていうか……どういうことだろう?
「私だって……妬くんだからね?」
あ……そういうことか。
素直に鳥坂さんを可愛いって言っちゃう僕のバカ!
逆の立場だったら絶対に嫌だもんな、男装の衣織を撮影するから1日レンタルさせてくださいって……相手がユッキーでも嫌だ。
まあ、了承したのは僕じゃなくて衣織たちだけど……でも、それもいいわけか。
「ごめん衣織……」
「ちゃんとフォローしないと許さないから」
僕はそのまま状態を起こして衣織の唇を奪った。
「ごめんね衣織……」
「うん……」
この後も僕たちは少し、イチャラブして休みの日に公園デートの約束をした。
鳥坂さんの撮影の日は、メンバーが同行する許可をもらおうと思った僕だった。