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第11話 慰めて欲しい

 愛夏を家に送った帰り道、僕は衣織に電話した。


 何を話したかあまり覚えていないが、衣織が僕に頑張ったと褒めてくれたことは覚えている。





 結局、誰も依存なんてしていなかった。


 漠然とした不安や、相手を思いやる気持ちが、ボタンを掛け違えただけだった。





 ただ願うのは……愛夏には幸せになって欲しい。




 それだけだ。






 ——「ただいま」


「遅いぞ兄貴って……ひでえ顔だな」


「そうか」


「愛夏と会ったのか?」


「うん……」


「ちゃんと、話せたのか?」


「うん……」


「頑張ったな」


 凛はやさしい笑顔を僕に向けてくれた。


 僕たちの件では凛もかなり心を砕いてくれた。


 兄と親友の間に挟まれて苦労をしたと思う。





「飯、用意するよ」


「いいよ無理すんなって、凛がやるから」





「……」





「いや、僕がするよ」


「何だよ、今の間は!」


 どんな状況であろうが、米を洗剤で洗うようなやつに台所は預けられない。


 まあ、最後まで気を使わせっぱなしで情けない兄貴だ。




 ——夜……ベッドに入るも中々寝付けなかった。


 やっぱり、愛夏の気持ちを考えると涙が止まらなかった。


 何も出来ないもどかしさと、何も出来なかった情けない気持ちが、心をぐちゃぐちゃにした。


 


 挫折を味わった時や、愛夏と別れた時とはまた違う心の苦しみ。


 人間の心は本当に複雑だ。


 僕はただ、ベッドの中で体を丸くしてうずくまっていた。



 

 結局寝付いたのは朝方だったと思う。


 今日が休みでよかった。





 ——そして、目覚めた僕の隣に。


「おはよう」


「おはよう……」


 衣織がいた。


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 僕は慌てて飛び起きた。

 

「寝坊助さんね、もうお昼前よ」


 もう、そんな時間か……ってそういうことじゃない。


「な……なんで衣織が?」


「凛ちゃんが開けてくれたの」


「そ……そうなんだ」


 凛のやつ……余計な……じゃないな……ナイス判断だ。


「それに、覚えてないの?」


「え」


 何をだろう?


「慰めて欲しいって言ってたの」


 僕……そんな、情けない事いってたんだ。


「おいで鳴」


 頬杖で横たわる衣織が自分の前をポンポンと叩いた。僕は吸い寄せられるように衣織の隣に寝転んだ。


 そして衣織が、ぎゅっと抱きしめてくれた。


 不思議と心が落ち着いた。


「まあ、仕方ないよ……そうやって前に進むしかないと思うよ」


 衣織の言葉で、またいろんな感情が流れ込んできた。


 僕にはこうやって慰めてくれる衣織がいる。


 ……でも愛夏には。




 別れた理由が理由だ。


 愛夏も辛かったはずなんだ。


 でも、いつも僕は自分ばっかりで……本当に子どもだった。




 知らなかったから……それもいいわけだ。


 知ろうとしなかったからだ。


 涙をこらえようとしても、次から次へと溢れ出てきた。


 衣織の服を涙でびちょびちょにしてしまった。




 衣織はそんな僕の頭を時折撫でてくれて、ずっと抱きしめていれくれた。


 彼女の腕の中で大泣きしてしまった。





 ——「酷い顔ね」


「面目無い……」


「余計な気遣いは無用よ」


「いや、でも」


「ううん、半分は私が煽ったみたいなところがあるじゃない」


 まあ、確かに昨日、衣織と愛夏の話題にはなったけど。


「いや、でも」


「鳴は頑張ったよ」


 また泣きそうになった。というか目に涙はたまっている。


「それに、流されず私のところへ帰ってきてくれて、ありがとう」


 ……だめだ。


「鳴は偉かったよ」


 結局また泣いてしまった。


 そして、そんな僕をまた衣織は抱きしめてくれた。


 慰めて欲しいってリクエストを出す僕もどうかと思うけど、それに応えてくれる彼女……僕は本当に幸せだ。


 でも、今日に限っては自分の幸せを感じれば感じるほど、涙が止まらなくなった。


 

 結局しばらくの間、それの繰り返しで、僕が落ち着く頃には衣織は着替えが必要になっていた。


 情けない男でごめんなさい。


 そしてありがとう、衣織。



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