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第9話 恋は盲目

 お弁当はやっぱり3段のお重だった。二人とも少食なのに大丈夫かな? と思っていたら、中身が入っているのは一段だけで後の2段にはお手拭きやビニール袋が入っていた。


 ある意味斬新でインパクトが強いお重だった。


「はい、あーん」


 思春期の男子なら一度は憧れる公園デートの『あーん』。


 もっと恥ずかしいかなと思ったけど開放的な雰囲気もあって全然気にならない。


 嬉しいだけだった。


「もう、もちょっと大きく口開けないとだめよ」


 そして口元についたご飯粒を衣織が……。


 くぅ————っ!


 公園デート最高じゃないか!



 ——「「ごちそうさまでした」」


 美味しくいただきました。


「ねえ鳴」


「うん?」


「愛夏さんとはどんなデートしてたの?」


 ……なんでそんなことを? でも……そういえばデートらしいデートってしてなかった気が。


「愛夏とは買い物が中心だったんだけど……でも、うち父さんと凛が海外で、母さんも家空けること多かったから」


「え、じゃあ買い物ってスーパー?」


「うん……」


「一緒に家事してたってこと?」


「うん、そうだね」


「ある意味……新婚デートね……ちょっと妬けるじゃない」


「え」


「なんでもないわ、続けて」


 今妬けるっていったよね……続けてとは言われたけど、なんか地雷っぽいんですけど。


「普通の買い物に行くこともあったけど……僕の服ばっかりだったかな、愛夏は財布の紐が固くて、普通の遊びらしい遊びはほとんどしなかったよ」


「完全に、擬似新婚ね」


 確かに言われてみればそうだけど……夜の営み系は皆無でした。


「愛夏さんとはキスしたの?」


 衣織はエスパーか!?


「してない!」


「ふーん」


 なんだろ、その『ふーん』って……疑われてるのかな?


「そうだと思ってた」


 あれ? 予想に反してあっさり信じてくれてる?


「鳴と愛夏さんって幼馴染でしょ? 私も幼馴染いるんだけど、もし、彼と付き合ってたら、鳴と付き合ってるほどのスキンシップって無かったって思うの」


「それは何故?」


「照れ臭いからよ。関係にもよるけど、半分親戚みたいな感じじゃない?」


 言われてみればそうかもしれない。中学生っていうのもあったけど、愛夏と付き合っている頃は今みたいに積極的に男女関係を求めていなかった。


 したい気持ちがなかったわけではない。


 でも何だろう……今一歩踏み込めなかったのは本当だ。


「でも、そんなんだから、愛夏さんに勘違いされたのかもね」


「勘違い?」


「私ね、鳴と付き合って、鳴に依存されてるって感じたことないの。言い方悪いけど、愛夏さんと別れて私と付き合うまでって、そんなに期間あいてなかったでしょ? 依存ってそんなに簡単に治るものなの?」


 確かに……。


「二人が別れた原因が鳴であることは間違いないと思うの」


 直球だ。


「でも、理由が違うと思うわ。依存どうこうじゃなくて、いつまでも踏み込まない鳴に嫌気がさしたんじゃない?」


「え」


「好きなのに分かってくれない的な……愛夏さんきっとそれでも鳴のことは好きだったと思うの」


「嫌気がさしてるのに?」


「人の感情ってそんな単純なのものじゃないのよ」


「よくわからないや……」


「私もよ」


「えっ」


「だって、今のは私の推理だもん、もしかしたら愛夏さんですら本当のことなんてわかってないのかも?」


「そんなことってあるのかな?」


「あるわよ。恋は盲目だもの」


 恋は盲目か……。


 僕がぼーっと空を見上げてると、衣織が膝抱っこしてきた。


 ほとんど人目がないとはいえ……大胆!


「ね、今度私たちも新婚デートしよ?」


「え」


「なんか悔しい!」


 ……くやしいって。


「分かったよ、新婚デートしよう」


「ありがとう」


『ありがとう』とともに本日2度目のキスをいただきました。



「私、キャッチボール気に入ったからもう一回しよ」


「うん」


 この後も僕たちは公園デートを楽しんだ。


 普段運動不足だから帰る頃にはもう、僕は筋肉痛になっていた。


 新婚デート。


 愛夏と付き合っている時は普通だったし、家事に必死だったから意識したことなかったけど……。


 楽しそうだ。


 唯一の不安は、凛の妨害だ。


 そんなことを考えながら家路につくと。


「鳴」


 ばったり愛夏と会った。


「その荷物……窪田先輩とデート?」


「うん、愛夏こそそのギター……僕ん家行ってた?」


「うん」


「凛の指導は中々厳しいだろ」


「そうだね、親友でも容赦ないね」


「僕なんかグーパンされることもあるからな」


「あははは……流石にやりすぎね」


「そうだろ」


「じゃ、私行くね」


「うん、頑張れよ、またな」


 歩みを進め愛夏の横を通り過ぎようとすると。


「ねえ鳴、やっぱりもう少しだけ話さない?」


 愛夏に腕を掴まれた。





「いいよ」




 衣織と愛夏の話をしたせいかもしれない。


 僕は愛夏と近所の公園で話すことにした。



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