【頂いたイラストに寄せて】聖教国女子会!(side.ファナ)
なんとK様から弊創作のイラストをいただきました(*´∇`*)
嬉しすぎて、ストーリーをつけたくて仕方なくなり、傍編としてまとめてみました。
素敵なイラストとともにお楽しみください。
時系列は、本編四章四話直前、ピアニーの誕生日の後です。
不毛の荒野も、春には少しばかりの緑が芽吹く。
くるぶし丈の草がまばらに繁り、小さな花が咲いては綿毛を散らすのだった。
いつもこの季節は実家のお墓参りをして白い花を摘み、教会の本山があるノアの郷の祭りに供えその年の豊穣を願う。
が、今年はとてもそれどころではなさそうだった。
≪聖教国ノア≫として人間の国と交易をする以上、取り決めなければならない条項は百では足りない。その上立国にあたって経理面の洗い直しや法の整備、人材の登用などの諸問題。付け加えて、厳冬の間各地で起きた事件の後処理もまだ終わっていない。
急拵えの執務室の大テーブルには、羊皮紙の束が大量に並べられ、処理されるのを待っている。
国主を就任した若い法王……ファナ=ノアはため息を飲み込んで正面に座る少女に視線を向けた。
「ピアニー、成人式のためにフリッツ家に行く、と言っていたのはいつだった?」
「明後日よ」
「そうか……なら取引約款については今日中に確認しないとな」
「……」
その少女……ピアニーは、今朝方司祭のウィリが持ってきた教会本部の財務報告書をめくる手を止めて、顔を上げた。こちらの顔を慮るようにじっと見つめてくる。
ファナ=ノア。小人族と人間のハーフで、中性的な整った顔立ちに、白髪に赤目という異端な容姿。年齢はわずか十一であるが、小人族は成人年齢八歳、平均寿命三十代なので、十分大人だ。強大な錬金術を扱える一方で、誰に対しても優しい、まさに愛の人……それがファナ=ノアだ。なお壮絶な運動音痴であることはあまり知られていない。
執務室には他に二人。
長机の向こう側、正面に座っているのは、人間族の少女、ピアニーこと、フレイピアラ=ディーズリー。先日十二歳になったばかりの隣国の貴族令嬢で、複雑な事情によりひと月ほど前からこの国に滞在している。ゆるくウェーブした長い髪とぱっちりした琥珀色のどんぐり目は、まるでお人形のように愛らしい。しかしその見た目に騙されてはいけないことをファナ=ノアは既に知っている。彼女はその年で人心掌握が上手な演技派で、熟練の戦士にも全く引けをとらない剣士でもありながら、法律から帳簿まで難なく読めてしまう秀才だ。ファナ=ノアの親友であるラズは『いい子だよね』の一言で済ませてしまうが、彼女の本性を知る者は口を揃えて『絶対敵に回したくない』と言うことだろう。
もう一人、ファナ=ノアの隣で貿易の取引品目のリストを見てうんうん唸っているのは教会の有力者である≪白き衣の司祭≫の一人、ウィリだ。彼女は教会運営では農業方面を担当していたが所用により冬は遠方に出ていたため、情勢についていくのに苦労している。肩につかないくらいできっちり切り揃えた髪、赤い石のついたイヤリングが、小人族の特徴である長い耳によく似合っている。性格は男勝りで気が強い。そういう点では彼女とピアニーは似ているかもしれないが、彼女の方がどちらかといえば周りに合わせて意見を変えられる気質のように思う。
そのウィリがつん、とした表情で口を開いた。
『何の話?』
彼女は人間の言葉が分からない。そして、彼女がここに来てからずっとファナ=ノアと一緒にいるピアニーに明らかな警戒心を向けている。彼女はファナ=ノアに近づく者にはだいたいそうだ。ラズが来た時も、何かと突っかかっていた。それは、彼女なりにファナ=ノアを守ろうとしてくれているのだと解釈してあまり咎めないことにしている。それに、今となっては結構、ウィリの気持ちも分かるから。
『ピアニーは明後日からいないから、来週までに出す取引の条件についての確認は今日中だと話していたんだ。ウィリ、先に見ておくか?』
『ええ。これ? …………!?』
書面を見たウィリが固まった。
人間の文字と小人の文字が照会しやすいように二段落にまとめられた文書。驚くべきはその字の小ささと分量だった。
『待って、こんなに細かいの、誰が作ったの』
『始めに人間語版の原案を書き起こしたのは彼女……ピアニーだよ。それを小人語に訳したのはエンリ。そのままだと使えないから、聖教国の条件に合うようにこれから確認しないといけない』
パラパラとめくりながら、ウィリは信じられない表情でピアニーの方を窺う。教会の約定だって量は多いがここまでではない。小人が統治する聖教国には人間たちのような細かい法も条約も必要なかったから、その驚きは痛いほど分かる。偶然ではあるが、彼女がこの国に来てくれて正直とても助かっているのだった。
ウィリの視線に応じて、ピアニーがにっこりと笑いかける。
「? なにかしら?」
『っ!? 何もないわ!!』
ウィリはばっと顔を背ける。あーあ、なんてあからさまな。ウィリはこういうところ大人気ない。でも、ファナ=ノアはそんなウィリのことも好きだし、彼女のことを信用してもいる。
ファナ=ノアは取りなすように笑みを作った。
「少し、休憩にしようか」
「……そうね。私もその方がいいと思っていたの」
卒のない笑顔を浮かべて、ピアニーは頷いた。これが貴族令嬢らしい笑顔というやつだろうか。ラズの前では屈託なく笑うのに、どうも壁を感じる。だけどそれはファナ=ノアにとっても実は同じだ。ファナ=ノアは人間も小人も愛していて、悪人相手ですら好ましい、助けたいと思うのに、ピアニーだけは正直どうも引っかかる。それは、親友であるラズが彼女のことが気になる、と発言したときからだろうか。あれから相談があれば、ファナ=ノアは彼の気持ちを後押ししてきた。でも、その度になぜか胸がちくちくと痛むのだった。それはピアニーを前にしている今も、どこかで感じている。
(これは嫉妬、なのかな……)
ラズは親友だ。あるいは兄弟、幼馴染。嫉妬の元になるような感情なんて持ち合わせていないはずだった。彼が好きな少女といい雰囲気になるのは喜ばしいことのはずだ。しかし、そうではなかった。全てを等しく愛するノアの教主であるはずが、ラズについてだけは特別に思っている。
ではウィリのように素直に不快感情をぶつけられるかというと、その方法もファナ=ノアは知らないのだった。ラズから離れて欲しいとも言えない。そんなことを言えば、ラズが悩むのは目に見えていた。今ならまだファナ=ノアを優先してくれるかもしれないが、そうじゃないことだってあるかもしれない。それが一番怖いと思う。
だから、感情の濁流を全て呑み込んでファナ=ノアは温かく笑いかける。国主として、また友人として。
ウィリにも休憩の旨を伝えていると、ピアニーがテーブルにどんっとバスケットを置いた。
(!?)
突然のことに、さすがのファナ=ノアも面食らって固まる。
二人の視線を集めながら、彼女ははつらつと宣言した。
「せっかく晴れているのだもの! 外で食べましょう! もちろん、みんなで!」
「…………あ、ああ。いいね」
食堂でもいいと思う、という台詞を飲み込んで、ファナ=ノアはにっこりと同意を示した。たぶんここは波風立てない方がいいと思ったからだ。外で食べるくらい、たいしたことじゃない。最近書類仕事で引きこもりがちだったし、こういうのもありだ、うん。
促されるまま席を立って廊下に出ると、一人の人間の女性と鉢合わせした。
「やあ、リン」
「あれ、今から出るの?」
「……ああ。ピアニーの提案で外で食べることにして」
「ちょうど良かった。リンドウも行きましょうよ!」
またも素敵な笑顔で誘うピアニー。
その女性……リンドウは、親友であるラズの叔母にあたる。年齢は三十近いはずだが、容姿端麗、優秀な薬師で錬金術師だ。ただし性格はやや難あり……世話好きな面もあるものの、基本人嫌いな薬オタクで、荒野にいてくれる理由も珍しい鉱物や植物があって研究がはかどるからだと豪語しており、住まいも小人たちと距離を置いている。その彼女が、会ったばかりで微妙な距離感のピアニーとウィリに挟まれるのを快く思うはずがない。まあ、彼女は自分で断るだろうと思っていた矢先、ピアニーはさらっと続けた。
「丘の方で、やたら草が繁っているところがあったのよ。景色もいいし、そこはどうかしら」
「────荒野で草が生い茂る?! ちょっと、案内しなさいよ」
「え? ええ、こっちよ」
(行くのか──……)
ちょっとした衝撃を受けてしまう。リンドウと食事ができること自体はファナ=ノアにとっても嬉しいけれど!
ピアニーの怖いのはこういうところだ。素でやっているのかなんなのか、たった数回会った程度の相手だというにも関わらず、的確に相手の興味関心を押さえて会話できている。
実際には毎朝その丘で自主練しているラズに会うために通っていることを、彼の叔母を見てうっかり話題にしそうになってしまって、とっさにその場にあった草むらの話でなんとかごまかしただけだとしても。
『──ウィリ』
ファナ=ノアは人間二人にまごついている小人の少女に向かって呼びかけた。
『行こう。君も、外でわいわい食べる方が好きだろう』
手を差し伸べると、ウィリはぽっと頬を赤らめて一瞬焦ったような顔をしたが、すぐに立ち上がった。
ピアニーの先導で丘を少し登ったところで、リンドウが立ち止まってあたりを見回した。
「ここ?」
「ええ、そのはずなんだけど」
「茂みどころか、草一本生えてないね」
「うーん……」
ピアニーはしゃがんで足元を確認する。リンドウもピアニーがいい加減なことを言ったとは思っていないらしく、屈んで土をいじり始めた。
ウィリが首を傾げる。
『あの二人、何してるの?』
『朝にはここに一面草が生えていたんだが、いつの間にか消えてしまったんだ。ウィリは分かるか?』
『なんだそんなこと』
ウィリは目をぱちぱちさせて、数歩進んだ。
そして、錬金術を使うときのように、生命力を練った。
「!」
「あれっ」
「…………なるほど」
ウィリの足元から、緑の草……というか苔みたいに小さな葉が一帯に広がっていた。
リンドウが目を輝かせる。
「生命力を吸って活動する植物!? 超珍しい! 危険はないの!?」
ファナ=ノアが訳してウィリに確認すると、彼女は首を振った。
『生命を吸われ過ぎてどうこうなったって話は聞かないわ。だけど、この程度よ。生い茂るって話は聞いたことがないわ。見間違いじゃないの?』
『育たせるには相当の生命力が要りそうだな』
ファナ=ノアも地上に足をつけ、生命力を練ってみる。たぶんこの中で一番生命力の総量が高いのはファナ=ノアだ。
「……なんか、ダメみたい?」
ピアニーが首を傾げた。彼女は錬金術をあまり使えないが、何をしているかは感じとれるらしい。
ファナ=ノアの足元からはウィリよりもはっきりと広範囲に緑が広がっていたが、生い茂る、というほどではない。
「うーん、力の性質によるみたいだね」
リンドウが手を地面につけて感嘆したように言った。彼女の腕には、手首まで、緑の蔦が絡みついている。ただし、蔦はわずか一、二本で、これまた生い茂るとは別次元である。
小人族の錬金術は広範囲、低威力、精緻なコントロールができないのが通常だ。一方、人間族の錬金術は手の届く範囲に限られるが高威力で精密なコントロールが可能である。
ファナ=ノアは緩く笑った。
「なるほどな。それで、ラズか……」
彼なら高密度の生命力をそれなりの範囲で放出することもできるだろう。そういえばそういう修行もやっていたはすだ。その結果、この植物が一帯を覆うほどに育った、と。
ピアニーは残念そうに口を尖らせた。
「なあにそれ。悔しい。ラズでなきゃ駄目なんて」
負けず嫌い。彼女の新たな一面を見た気がする。
ピアニーはよしっと気合いを入れてから祈るように手を組み、リンドウに倣って生命力を練り始めた。
────ざわっ
「…………!?」
空気がゆらめいて見えるほどの────生命力。
(なっ……!? この量! まさか──!!)
力の奔流の中心地にいるピアニーに向かって、ファナ=ノアは叫んだ。
「ピアニー! 大丈夫なのか!?」
「え? ええ、これくらいなら全然普通よ」
けろりとした顔で言ってのけるが、こんなのただごとではない。暴走してるのでもなく、これほど生命力を放出し続けるなんて。
(すごいな……)
自身に匹敵する力を見せつけられ、ファナ=ノアは素直に感嘆した。使い方さえマスターすれば、ラズのように卓越した錬金術師になることだろう。隣でリンドウたちも息を呑んでいる。
ピアニーの足元からはぶわっと緑の草が伸び、今や膝丈に達していた。
「わあ! こんなにいっぱいの草、初めて見たわ。草原みたいにできるのかしら」
彼女は嬉しそうに、そのまま歩きだす。
後を追うように草が伸び、大地を彩った。
キラキラと舞っている金色の粉は胞子か何かだろうか。リンドウが手に取ってまじまじと見つめている。
てくてくと歩き回ったあと、ピアニーは振り返る。一帯はもはや立派な草むらになっていた。
「さすがにもう限界! でも、これだけあればピクニックには十分よね」
「……目的は忘れてないんだな」
「当然よ!」
ピアニーはちゃっちゃと持参したバスケットの中身を広げ始める。
それを見たウィリはショックを受けたらしく、わなないた。
『なっ、なっ……準備が良すぎるっっ一体なんなのこの子!』
レジャーシート、簡易コップにアルミ皿、手拭き、ナイフ、タオル、何かの薬まである。
『好きなんだろう、ピクニックが』
『なんでファナ=ノアはそんなのほほんとしてるの!?』
『私がいつも通りだとだめなのか?』
『ううんっ、その方が頼りになるからいいんだけどっ』
しかしウィリは依然として新しく現れたライバルの出来が良すぎることが癇に障るらしく、キッとピアニーを睨む。
ピアニーは全く動じず、令嬢スマイルでバスケットの中身を見せた。
「ウィリ様も、ほら! ピザとバゲット、どちらがお好き?」
『え、選べってこと? いいわよ、私は最後で』
「あ、こっちのジャムもおすすめよ」
『……何よ、苔苺なんて……いいえ、別にいらないわ!』
「果実ジュースを配りたいのだけど、コップを持ってくださる?」
『は? あんたいい加減にしなさいよ!! そんな贅沢品、どこから手に入れたの!!!』
「???」
ピアニーは小人の言葉が分からずきょとんとした。
たしかに、パンもジャムもジュースも、この荒野では超がつく高級品だ。この郷は特に人間たちとの交易を始めていて比較的潤っているにしても、ピアニーがぽんぽんと出した贅沢品をなんのためらいもなく受け取るなんて、たしかに聖職者としては難しいだろう。
いきりたつウィリの肩に、ファナ=ノアはぽん、と手を置いた。
『あれは全部、彼女が商人からもらった試供品だよ』
本当は、諸事情で顔出し不可な彼女の代わりに、ファナ=ノアが引っ張り回されたのだが。『商人たちに挨拶しておいて損は無いわよ。ずっとニコニコしてればいいから』という口実で呼び出されたのだ。自分で言うのもなんだが、天使のごとき神秘的な美貌に感動した商人たちによって、目の前にみるみる供物という名の試供品が積まれていくのはなかなか複雑な気分だった。小人族はそういう発想を持ち合わせない。これが人間というやつなのかな、と内心ため息が漏れたものだ。
『そ、そう……』
「……ファナ=ノア」
ウィリが怒鳴ったことに、ピアニーは少し機嫌を損ねたように見えた。彼女が目を細めると、愛らしさはどこかに息をひそめ、もともとの気品と相まった威圧感が漂う。
「申し訳ないのだけど、ウィリ様にお伝え願える? あなたのその言動は、主の品位を損ねているわよって」
「……」
ピアニーはたぶん、『懇親の場でまで不躾な態度をとるなんて目に余る。上司のあなたがなんとかしてよ』と言いたいのだろう。
しかしファナ=ノアはゆったりと微笑み返した。
「貴女の配慮はありがたく思う。ただ、他者によって価値が損なわれるようでは君主たりえないと私は思う。礼儀によって上辺の関係を維持できるのが人間の長所であり、常に本音で話し合えるのが小人の良いところだ。私たちは分かり合えるだろうか?」
つまるところファナ=ノアの言いたいことはこうだ。『ウィリになめられているのは君自身だから自分でなんとかしてくれ』と。もし仮にウィリに上辺で仲良くしろと言ったとして、それは彼女にストレスを強いることになる。人間社会ではそういうのは当たり前なんだろうが、小人はもともと居心地のいい相手とだけコミュニティを作る種族だ。だから組織としては弱い訳だけれど、仲間たちが上辺で仲良くしている姿なんて気持ち悪いだけだとファナ=ノアは思う。
ピアニーは侮辱されたと受け取るだろうか。ここで彼女が小人の国などと付き合ってられないと言い出せば、話はそこまでだ。書類仕事で困るのは事実だが、頼み込むような話ではない。彼女が自らを協力を申し出てくれる関係性を継続できるかどうか、それはファナ=ノア自身の対応にかかっていることは理解している。だからこそ、安易に彼女の希望を叶え迎合すべきではないのだ。
ピアニーは動じた素振りもなく、微笑みを崩さないまま、すぐに口を開いた。
「周囲の者と本人の価値のあり方については議論の余地があると思うけれど、本質がそこではないことは理解したわ。もちろん、私はファナ=ノアの味方でいたいと思っているわよ?」
「ありがとう。この話ができただけでも、今日ここで話せてよかった。あと、ウィリを気にかけてくれること自体はとても嬉しい。ウィリは苔苺が大好きだから、バゲットとジャムをもらって構わないかな」
ふわりと笑いかける。彼女たちが仲良くするかどうかについては、ファナ=ノアが口を出す問題ではない。
何を話しているんだというウィリの視線に、受け取ったパンを手渡しながら説明する。
『ピアニーはウィリと仲良くしたいから、きつく言われて悲しいと話していたんだ』
『うそ、そんな弱々しい感じじゃないでしょ、この女』
『私だってウィリにあんな言い方をされたら悲しいよ。ああ、五年前を思い出すと今でも胸が痛む』
『──あの頃、ファナ以外は皆、私を避けてたわ』
『そうだったっけな。ウィリは今はとても優しくなったから皆気にしないけどね』
徐々に反省の色を見せ始めたところでファナ=ノアは会話を中断する。だからピアニーにも優しくしろ、とは言わない。ファナ=ノアがピアニーを信用していることも、ピアニーの能力が高いことも十分目の当たりにしただろうから、あとはウィリ自身が歩み寄りたいと思ってくれることを願うばかりだ。
錬金術で赤土から長椅子を錬成していたリンドウが面倒そうな顔でため息をついた。
「まぁたファナ=ノアが面倒ごとを背負ってる。他人同士の人間関係とりもつなんてよくやるよ」
「そんな大層なことはしていないさ。私の周りにいてくれる人たちは、皆もとから素晴らしい人ばかりだからね」
にっこり笑うと、リンドウは手をひらひらさせる。
「わかったわかった、どうせ次はリンもだよ、って言うんでしょ」
「ああ、そう言うってことは、これからも私の側にいてくれるんだな。嬉しいよ、リン」
「また恥ずかしいことをさらっと言うんだから……」
彼女は照れたように苦笑し、足の悪いファナ=ノアに席を促して自分は草むらに座った。
荒野にぽつんとできた草むらは、赤土と違って踏めば柔らかく、さくさくと音をたてる。緑の葉が、青空と地面の赤に挟まれてよく映えていた。
そよ風が吹いた。
春の荒野に吹くのは、短い雨季を目前にした少し湿ったやわらかな風。ファナ=ノアの白い髪をなびかせて、歌うように赤土を撫ぜ通り抜けていく。ぴるる、と鷲が教会の窓に降り立つのが見えた。
──この景色も、悪くはない。
小人たちが深い絆を育んできたのは他ならぬこの荒野だ。故郷を愛しているからこそ、少しずつよくしていこうと思える。
ファナ=ノアは長椅子に座って一つ深呼吸した。さっきまで張り詰めていたものが、少し緩まったように思う。
顔を上げてみると、ウィリは何を思ったのか、バスケットを持つピアニーの前に仏頂面で立っていた。
「? なあに、ウィリ様」
『……トーストするでしょ、手伝うわ』
ファナ=ノアはくすりと笑った。彼女はやっぱり素直でひたむきな人だ。
「ピアニー、ウィリはパンを錬金術で温めようかと言っているんだ。大丈夫、彼女は上手だよ」
「……そう? ならお願いするわ」
ピアニーも嬉しそうに笑った。たぶんあれは演技ではない。さっきまで態度が悪かった相手にも、この懐の広さ……なんだかんだ、ラズの言う通り彼女は『いい子』なのだ。憎めないし、頼りになる。
手ぶらになったピアニーは、ファナ=ノアの横にすとんと座った。
「ファナ=ノアも、表情が明るくなったわね。良かった、誘って」
「……!」
その毒のない笑顔に、ファナ=ノアは言葉に詰まってしまった。先刻抱いていた心痛と別の感情が胸をじわりと満たす。──ああ、親友が惚れるのも頷ける。
胸の奥に灯る少しの嫉妬とほのかな熱を感じながら、ファナ=ノアは笑った。
「ありがとう。フリッツ領に行ってしまうのが寂しいよ────早く、帰ってきてくれ」
荒野の丘を、春風のような少女たちの笑い声が彩る。
来年も、再来年も、きっと────
ピアちゃん視点だと、男喋りの「美少女」ファナさんは最大のライバルです。
なのに最後なんかキュンとくること言われて「えー!?」って焦ったことでしょう。
その視点も描きたい……漫画本編がこの時系列に追いつくことがあればどうぞお楽しみに(笑)




